上 下
343 / 784
騎士のまかない⑳

第3話 お互いの欲求

しおりを挟む
 禁欲生活など……近衛騎士団に入隊する前後から、無くても大丈夫だと思っていた。

 公娼などにも頼らず、己の鍛錬を磨くことで昂る欲望などは抑えてきたのだ。それゆえに……実力をつけて、『閃光のアーネスト』などと異名を得ることは出来たが。

 とにかく……経験が無さすぎて、イツキと一歩以上の関係に進めないのだ。キスも……本当に時々で、抱きしめることもほぼない。

 結婚を迎えてから、それ以上の関係に進もうとケジメはつけていた……のだが。


「副隊長? めっさ、顔色に出とんで??」


 ハンバーグを食べた翌日。

 同じ年で、一応部下でもあるレクサスが執務中の俺に声をかけてきた。


「……なにがだ?」

「言わせんの? 欲求不満モロバレやで?」

「よ!!?」


 今隊長は陛下に呼ばれているのでいない。他の部下である部隊長達も仕事の関係でいない。俺達ふたりだけで、ある意味よかったが。


「え? なんなん? まさか、イツキはんとの夜に不満なん??」

「…………夜は、試食係だけだ」

「……………………嘘やろ??」


 正直に言うと、レクサスが口元をひくつかせた。


「…………事実だ」

「…………せやかて、もう二年近くちゃうん?? 副隊長、どんな鋼の精神持ってるん!!?」

「…………俺達の居住地を考えて、どこですれと?」

「…………城下町の出会い宿」

「…………お前は、サフィア殿と行くのか?」

「おん」


 先を越されたのについてはどうのこうの言うつもりはないが。この男、きちんとやるべきところはしているのだった。

 逆に、俺がイツキをそのような場所に?

 魔法などで姿を隠して行ったとしても……イツキをリード出来るかわからない。彼女にも経験がほとんどないので、逆は出来ない。リードしてくれるイツキも…………見たいなどと想像してはいかん。イツキは、たおやかな花のような笑顔が似合う女性なのだから。


「…………とにかく。顔に出ていたのならすまん。ひとまずは大丈夫だ」

「せやかて、副隊長? 逆にイツキはんは不安がっているかもしれへんで?」

「不安?」


 イツキが?

 何故だ? と首を傾げると、レクサスは大袈裟なくらいにため息を吐いた。


「最低……キスとかはしとるやろ?」

「あ、ああ?」

「女かて、欲求不満になることはあるで? そっから自分じゃダメかって……逆に不安がるんや。イツキはんが出来た女でも、それがまったくないわけがない。異世界から来た女だろうが」

「そう……だろうか」


 俺の我慢を優先し過ぎて、イツキを不安がらせてしまっている?

 もしかして、時折見る淋しそうな微笑みの中には…………それもあったのか?!


「ないとは言い切れんで? 早いうちに確認とっとき? イツキはんが浮気するような女はないのはわかりきっとるけど」

「…………ああ」


 俺のイツキが他の男に抱かれる?

 そのようなことは、死んでも考えたくない!!
しおりを挟む
感想 319

あなたにおすすめの小説

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

復讐はちゃんとしておりますから、安心してお休みください、陛下

七辻ゆゆ
ファンタジー
「フィオネよ、すまな……かった……」 死の床で陛下はわたくしに謝りました。 「陛下、お気が弱くなっておいでなのですね。今更になって、地獄に落とされるのが恐ろしくおなりかしら?」 でも、謝る必要なんてありません。陛下の死をもって復讐は完成するのですから。

1000歳の魔女の代わりに嫁に行きます ~王子様、私の運命の人を探してください~

菱沼あゆ
ファンタジー
異世界に迷い込んだ藤堂アキ。 老婆の魔女に、お前、私の代わりに嫁に行けと言われてしまう。 だが、現れた王子が理想的すぎてうさんくさいと感じたアキは王子に頼む。 「王子、私の結婚相手を探してくださいっ。  王子のコネで!」 「俺じゃなくてかっ!」 (小説家になろうにも掲載しています。)

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。