上 下
280 / 782
先代のまかない

第4話『半ごろしのおはぎ』③

しおりを挟む

「!!?」


 別々をしっかりと味わったはずですのに。

 合わさることで……とても美味なるものと出会えました!?


「とても……美味しいです」


 しっかり冷まして、温もりがわずかにあるアンコ。それと、僕が潰したもち米ライシリーゾの食感が……合わさることで、見事に調和しているような。

 アンコの滑らかな舌触り、粒々とした食感が残りつつももちもちしたもち米ライシの噛み応え。

 両方が合わさることで、単体の時と違う味わいに変化していきました!?

 素朴な見た目と裏腹に……この深い味わい。今は帽子をかぶっていませんが、思わず脱帽したくなるほどでした!!


「ふふ。大豆ソイルの方も是非」

「……おお、そうでした」


 逆にアンコを内側に、外側には豆の粉。

 どのような組み合わせとなるのか、口に運ぶとふわっと薫る独特な香ばしさを感じました。


(豆がこんなにも香ばしい……??)


 しかし、コーヒーとは違う……炙ったような香りがしてきました。それを丁寧に挽いたのは下町の作業員でしょうが……イツキちゃんの依頼の仕方のお陰か、丁寧な仕事となっています。砂糖を混ぜたことで、むせそうになる粉の食感を中和してくれるような。

 そこに、下にすぐ隠れているもち米ライシ達のもちもち感とアンコの絶妙な甘さに舌触り。

 これはこれで、面白い食感ですがアンコだけのよりも僕好みですね!


「コルトさん、いかがでしょう?」

「どちらも大変美味しかったです……」


 本当に……飾り気などまったく必要がないほどの美味でしたよ……。どちらも素朴な外見ですのに、驚くほどの完成度。

 僕は……引退するのを少し早まったと後悔したくなるほどでした。しかし、彼女と同じ舞台にはもう戻れません。

 ワルシュ君に城を任せた僕に……陛下方に、苦を与えていた料理を振る舞うことしか……最後まで出来なかった僕には、その資格はありません。

 この子が見抜いた……アレルギーと言う病についても。

 このイージアス城をいい意味で変えてくださった、イツキちゃんの近くにはいられませんから。


「よかったです。おはぎは腹持ちもいいので、二個くらいなら……もっと小さめにしてお弁当の中に入れるのもいいかもしれません」


 そして、僕以上に他人を気遣うことが出来る素晴らしい人材。

 ワルシュ君は……どこでこのような女性を引き取ったのでしょう。

 純粋に、その事が気になり……イツキちゃんが王女殿下方へオハギを持って行くと厨房から出て行く時……入れ替わりで戻ってきたワルシュ君に、僕は聞くことにしました。


「……あのように、素晴らしい子はどこで引き取ったんですか?」

「……師匠。言いふらさねぇか?」

「訳ありなのは承知の上ですよ?」


 何故か、もったいぶっているように見えましたが……ワルシュ君は何度か他に誰か来ないのかを確認してから、大きくため息を吐きました。


「……あいつは、異世界からの人間だ。だから……俺達が知らない知識とかをごまんと知ってる」

「…………イツキ、ちゃんがですか?」


 ワルシュ君が、こんな前振りをしてまででたらめを言う子でないのは……師匠である僕がよく知っています。

 ならば、その言葉通り……イツキちゃんの出自が本当は東方大陸ではなく異世界であるのならば……大人数が知っていい情報ではないですね。

 しかし、現実ではあの子がこのイージアス国を救ってくれた大恩人となっています。


「その事情を知ってんのは、近衛の隊長になったネル以外に……副隊長で婚約者にもなったアーネストのぼんとかレクサスくらいだ。他に言ったのはあんただけだ」

「? イツキちゃんに婚約者君が??」

「ああ。お互いしっかり想い合っているぜ? 周りの手助けもするくらいだ」

「息子から、さらにひ孫ですか?」

「あ?」

「いえいえ。君とサーシャちゃんに子供が出来れば……僕にとっては孫。イツキちゃんの方もひ孫でしょう?」


 寄り添う相手もなく、ずっと独り身だった僕にとっては嬉しいことこの上ないです。料理に意識を傾け過ぎて、一部は奇人変人だと言われたりもしてきましたが。

 今日イツキちゃんと出会えたことで、人並みに親心を得たのでしょうか。

 あの美味しいオハギのように、僕の心を包み込んでくれました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

異世界王女に転生したけど、貧乏生活から脱出できるのか

片上尚
ファンタジー
海の事故で命を落とした山田陽子は、女神ロミア様に頼まれて魔法がある世界のとある国、ファルメディアの第三王女アリスティアに転生! 悠々自適の贅沢王女生活やイケメン王子との結婚、もしくは現代知識で無双チートを夢見て目覚めてみると、待っていたのは3食草粥生活でした… アリスティアは現代知識を使って自国を豊かにできるのか? 痩せっぽっちの王女様奮闘記。

聖女追放。

友坂 悠
ファンタジー
「わたくしはここに宣言いたします。神の名の下に、このマリアンヌ・フェルミナスに与えられていた聖女の称号を剥奪することを」 この世界には昔から聖女というものが在った。 それはただ聖人の女性版というわけでもなく、魔女と対を成すものでも、ましてやただの聖なる人の母でもなければ癒しを与えるだけの治癒師でもない。 世界の危機に現れるという救世主。 過去、何度も世界を救ったと言われる伝説の少女。 彼女こそ女神の生まれ変わりに違いないと、そう人々から目されたそんな女性。 それが、「聖女」と呼ばれていた存在だった。 皇太子の婚約者でありながら、姉クラウディアにもジーク皇太子にも疎まれた結果、聖女マリアンヌは正教会より聖女位を剥奪され追放された。 喉を潰され魔力を封じられ断罪の場に晒されたマリアンヌ。 そのまま野獣の森に捨てられますが…… 野獣に襲われてすんでのところでその魔力を解放した聖女マリアンヌ。 そこで出会ったマキナという少年が実は魔王の生まれ変わりである事を知ります。 神は、欲に塗れた人には恐怖を持って相対す、そういう考えから魔王の復活を目論んでいました。 それに対して異議を唱える聖女マリアンヌ。 なんとかマキナが魔王として覚醒してしまう事を阻止しようとします。 聖都を離れ生活する2人でしたが、マキナが彼女に依存しすぎている事を問題視するマリアンヌ。 それをなんとかする為に、魔物退治のパーティーに参加することに。 自分が人の役にたてば、周りの人から認めてもらえる。 マキナにはそういった経験が必要だとの思いから無理矢理彼を参加させますが。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。