王宮まかない料理番は偉大 見習いですが、とっておきのレシピで心もお腹も満たします

櫛田こころ

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先代のまかない

第4話『半ごろしのおはぎ』③

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「!!?」


 別々をしっかりと味わったはずですのに。

 合わさることで……とても美味なるものと出会えました!?


「とても……美味しいです」


 しっかり冷まして、温もりがわずかにあるアンコ。それと、僕が潰したもち米ライシリーゾの食感が……合わさることで、見事に調和しているような。

 アンコの滑らかな舌触り、粒々とした食感が残りつつももちもちしたもち米ライシの噛み応え。

 両方が合わさることで、単体の時と違う味わいに変化していきました!?

 素朴な見た目と裏腹に……この深い味わい。今は帽子をかぶっていませんが、思わず脱帽したくなるほどでした!!


「ふふ。大豆ソイルの方も是非」

「……おお、そうでした」


 逆にアンコを内側に、外側には豆の粉。

 どのような組み合わせとなるのか、口に運ぶとふわっと薫る独特な香ばしさを感じました。


(豆がこんなにも香ばしい……??)


 しかし、コーヒーとは違う……炙ったような香りがしてきました。それを丁寧に挽いたのは下町の作業員でしょうが……イツキちゃんの依頼の仕方のお陰か、丁寧な仕事となっています。砂糖を混ぜたことで、むせそうになる粉の食感を中和してくれるような。

 そこに、下にすぐ隠れているもち米ライシ達のもちもち感とアンコの絶妙な甘さに舌触り。

 これはこれで、面白い食感ですがアンコだけのよりも僕好みですね!


「コルトさん、いかがでしょう?」

「どちらも大変美味しかったです……」


 本当に……飾り気などまったく必要がないほどの美味でしたよ……。どちらも素朴な外見ですのに、驚くほどの完成度。

 僕は……引退するのを少し早まったと後悔したくなるほどでした。しかし、彼女と同じ舞台にはもう戻れません。

 ワルシュ君に城を任せた僕に……陛下方に、苦を与えていた料理を振る舞うことしか……最後まで出来なかった僕には、その資格はありません。

 この子が見抜いた……アレルギーと言う病についても。

 このイージアス城をいい意味で変えてくださった、イツキちゃんの近くにはいられませんから。


「よかったです。おはぎは腹持ちもいいので、二個くらいなら……もっと小さめにしてお弁当の中に入れるのもいいかもしれません」


 そして、僕以上に他人を気遣うことが出来る素晴らしい人材。

 ワルシュ君は……どこでこのような女性を引き取ったのでしょう。

 純粋に、その事が気になり……イツキちゃんが王女殿下方へオハギを持って行くと厨房から出て行く時……入れ替わりで戻ってきたワルシュ君に、僕は聞くことにしました。


「……あのように、素晴らしい子はどこで引き取ったんですか?」

「……師匠。言いふらさねぇか?」

「訳ありなのは承知の上ですよ?」


 何故か、もったいぶっているように見えましたが……ワルシュ君は何度か他に誰か来ないのかを確認してから、大きくため息を吐きました。


「……あいつは、異世界からの人間だ。だから……俺達が知らない知識とかをごまんと知ってる」

「…………イツキ、ちゃんがですか?」


 ワルシュ君が、こんな前振りをしてまででたらめを言う子でないのは……師匠である僕がよく知っています。

 ならば、その言葉通り……イツキちゃんの出自が本当は東方大陸ではなく異世界であるのならば……大人数が知っていい情報ではないですね。

 しかし、現実ではあの子がこのイージアス国を救ってくれた大恩人となっています。


「その事情を知ってんのは、近衛の隊長になったネル以外に……副隊長で婚約者にもなったアーネストのぼんとかレクサスくらいだ。他に言ったのはあんただけだ」

「? イツキちゃんに婚約者君が??」

「ああ。お互いしっかり想い合っているぜ? 周りの手助けもするくらいだ」

「息子から、さらにひ孫ですか?」

「あ?」

「いえいえ。君とサーシャちゃんに子供が出来れば……僕にとっては孫。イツキちゃんの方もひ孫でしょう?」


 寄り添う相手もなく、ずっと独り身だった僕にとっては嬉しいことこの上ないです。料理に意識を傾け過ぎて、一部は奇人変人だと言われたりもしてきましたが。

 今日イツキちゃんと出会えたことで、人並みに親心を得たのでしょうか。

 あの美味しいオハギのように、僕の心を包み込んでくれました。
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