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メイドのまかない④

第4話『熟成したタレ』②

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 これを……今すぐに口にしていい?

 側仕えのメイドでしかない私なのに、本当にいいのだろうか……と見つめていたら、レクサス殿に頭を軽く撫でられてしまった。


「ええんやで? 今ここで食っても」

「……本当に?」

「陛下方かて召し上がってるやん? 自分らもお呼ばれしとるんやし、冷めた方が美味くないで?」

「…………はい」


 なら……と、フォークを使ってお肉と野菜を刺してみた。イツキ殿は豚やオークの肉などを言っていたが。そのふたつは細切れになり、焼いただけでは見分けがつかない。

 だが、口に近づくにつれ……鼻に甘辛く、独特の香辛料も混ざった香りがしてきた。

 一度、ごくりと口の中に溜まった唾を飲み込み、少し息を吹きかけてから入れてみた。


(あ……つぃ!?)


 物凄く熱いわけではないが、出来立てなので食堂で食べるようになった食事よりも熱いのだ。以前……何度か中央厨房にお邪魔させていただいた時に、レクサス殿といただいた料理のように……すごく熱いが美味しい!!

 お肉は、殿下がおっしゃるように柔らかく……タレ、のどろっとしているものがお肉だけでなく野菜に絡みつき……味を引き立ててくれるような。

 ただのソースではない。熟成の意味がひと口でわかる程……複雑な味を舌に伝えてくれる。野菜は最初玉ねぎを選んだが、シャキシャキしていて……サラダで食べるよりも甘く、少し蕩けて……タレと合わさるとさらに甘みを増していくのだ。

 これは……次、次! と口に入れてしまう……口が、お腹がこの料理を求めていたと言わんばかりに!!

 ただひとつ……恋人の前もだが、皆様方の前でみっともなく食事をがっついてしまったのだ!!?

 なのに、


「ええ食べっぷりや。よかったよかった」


 レクサス殿はとても喜んだ笑顔になられていた。その優しげな微笑みに……つい、私の口元も自然と緩んでしまうくらいに。

 ああ、この方が私の恋人でよかった……とこれも自然に思えたのだ。


「皆さーん? ちょっと変わったものもご用意しましたよー?」


 私もだが、レクサス殿のお皿が空になった頃に……イツキ殿が新たに、と声を上げられた。

 脂の匂いが強いが……今度はなにだろうか?

 期待が高まって……思わず、皆様方とご一緒に焼いているところを覗きにいくと、よくわからないものが網の上で焼かれていた。


「イツキ、これは……??」

「魔物の臓物……ホルモンをタレで漬け込んだものです! 魔素や毒素は解毒済みなのでご安心を」

「……美味いのか??」

「リュカルド、こいつは肴にもなるし美味いぞ?」

「本当か!?」

「あら、陛下? 先輩? 夕方とは言え、お酒を飲まれるのですか??」

「「う゛!?」」


 王妃殿下のお怒りが……!!

 私はまだあまりお酒は口にしたことがないが……お酒と一緒に食べたい料理と言うことは、男性にとって堪らないものなのだろう。

 レクサス殿は……と横を向けば、ご自分も飲まれたかったのか苦笑いされていた。


「イツキ! これ食べてもいいの?」

「はい。熱いのと、噛み切るのが大変なので注意してください」


 その後、皆様方とご一緒に口にしたホルモンと言う臓物は……また違ったタレが美味しくて、脂もすごく……もきゅもきゅと、しばらく噛み切るのに無言になってしまう程だった。

 でも、病みつきになり……バーベキューは材料が尽きるまで続き……私もお腹がいっぱいになれた。


(……はち切れそう)


 とは言っても、全然不快ではない。とても嬉しくて、心地よい重みだった。

 それから、食堂のメニューへ『焼き肉定食』と言うのが出てきた時には……メイドの先輩達が驚くくらい、私に笑顔が出ていたようだ。

 レクサス殿もだが、イツキ殿のお陰で……どうやら、私の表情も少しずつ表に出るようになったらしい。感謝しかなかった。
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