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国王のまかない⑥

第1話 飲みたい!

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 意識したつもりはなかったが……ここ半年で我慢していたことがあった。


(…………酒が飲みたい)


 イージアス国の城主であるこの俺が。

 第二子であり、跡継ぎとなり得る王子のジェラルドが誕生してから今日まで。どうしてか……自然と禁酒をしてしまっていたのだ。

 ジェラルド誕生前はそれなりに飲んでいた。悪友のワルシュにも付き合ってもらう形で何度か。

 だがそれも、ジェラルドが誕生してから無くなってしまった。ワルシュは宮廷料理長でもあるので、フルコース撤廃の後は……食堂の設置から何からなにまで忙しく、俺もジェラルドが誕生してからは各地への伝達などで忙しかったのだ。

 と言うのは言い訳かもしれないが。


(……たまには、酒が飲みたい)


 もう時期、俺の生誕祭が迫っているが……逆に生誕祭だと贈り物云々で謁見の時間などが忙しいため、酒など口に出来ん。

 とくれば……だ。

 王妃であるヘルミーナはまだまだ乳やりで飲酒は御法度。娘も成人していないので同じく。

 その娘の婚約者となった、弟分のネルヴィスは色々うるさいだろう。

 なら、俺ひとりで飲むにしても!!


「頼む、イツキ!!」

「おや、陛下?」


 夜半時とは言え、酒が飲みたい衝動を抑え切れなかった俺は……中央の厨房に行ってイツキに頼み込むことにしたのだ。


「酒を……酒を飲みたいんだ!!」

「え? 良いお酒はいつも飲まれているのでは??」

「……ジェラルドが生まれてからは、実はほとんど飲んでない」

「自主的に……禁酒を?」

「結果的には……だが、もう辛抱ならん!!」


 寝酒とかよりも、つまみをしっかり口にした上でちゃんと飲みたい!!

 そう告げれば、イツキは魔導具である冷蔵庫から酒瓶のようなものと何か入った銀のボウルを取り出した。


「陛下、エールはご存じですか?」

「? あ、ああ。昔はワルシュとよく飲んでいた」


 王位を継いでからは、あまり口にしていなかったが。

 イツキは出したものを調理台に置き、俺に見せてくれた。ボウルの中身は……さやに入った豆のようだ。昔、何度かお忍びでワルシュと城下町の酒場でつまんだ記憶はある。


「エールには……この器ですね!」


 イツキが持ってきたのは、透明な……ジョッキ? だろうか?

 おそらくガラス製だろうが、ガラスでジョッキなど見たことも聞いたこともない。

 どこでこのようなものが??


「どうするんだ??」

「このジョッキの中に、冷えたエールを入れるんです。ジョッキも冷えているので、美味しさを引き立ててくれますよ?」

「冷えた……エール?」


 城下町でも生ぬるいエールしか口にしたことはないが……物凄く興味が湧き、思わず唾を飲み込んだ。
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