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部下弐のまかない

第4話『サクッとホロホロ、スノーボールクッキー』②

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 それから本当に……イツキさんは俺達料理人にまかないを出してくれる以外は、ずっと……ずーっと、あのスノーボールクッキーを作り続けていた。

 疲れないか? と俺や、ほかの料理人に料理長が声をかけても笑顔で返してくれるだけ。

 イツキさんって、体調崩すとこも見たことないし……大丈夫かちょっと気になったけど。去年の終わりくらいに俺達がへばったのに、『オセチ』を作るのにずっと頑張っていた。

 ミュラーの上司で、イツキさんの婚約者であるハインツベルト様から何か鍛えてもらっているのかな??

 下世話になるが……そう言う関係を結んだ様子はないから違うと思う。俺は今いないけど……一応それなりの年頃なので、過去にそう言う関係を持った女とかは居た。

 イツキさんは、ああ言う女達とは全然違うけど。


(なんて言うか……神殿の巫女様とかそんな感じなんだよね?)


 いつもニコニコしているし……怒る時は鬼神並みに怖いけど。俺達を労ってくれるし、偉ぶったりもしない。今もちらっと見ていても、新人が担当する雑務を積極的にやりつつ……あのスノーボールクッキーを作っている。

 疲れた様子も見せずに、ずっとニコニコ。

 料理長にちょっと聞いたけど、夜中に彼女はここの管理室で休む前……ハインツベルト様にまかないの試食をお願いしているらしい。

 普段はお互いの仕事の関係であんまり会えてない感じだけど……ちゃんと会ったりしてるんだと思った。その楽しみもあるから、あのクッキー作りをしつつ……ハインツベルト様のことを考えてたりして。

 そう思うと、俺より年上だけど……なんとなく親近感が持てた。ミュラーの時とはまた違う感じ。


「皆さーん、色んな味のクッキー作ったので。空いた時間につまんでください!」


 と、俺達の調理がひととおり落ち着いてきた頃に、イツキさんが声をかけてくれた。

 空いた缶に入れられたクッキーは、形こそはあの可愛いらしいスノーボールクッキーだけど……色が全然違ったんだ。


 ピンクは木苺の粉末。

 白は俺も食べたスノーシュガー。

 緑は、東方大陸の茶にスノーシュガーを混ぜた粉末。

 黄色は、ダイズって豆を粉末にして同じくスノーシュガーを混ぜたの。

 黒っぽいのは、チョコレートを作る材料になるココアって粉末。


 アレルギー持ちは何人かいるから、好きなのを選んでほしいとイツキさんが言ってくれた。


「「「「可愛い……!!」」」」

「どうぞ、召し上がってください」

「「「「わーい!!」」」」


 俺もまた食べられる喜びが込みあがり……全部食べたけど、味付けひとつでここまで変わるとは思わなかった。

 個人的には、苦味もあるけど甘みを感じたココアがよかった。

 イツキさんに『ミュラーに持っていきたい』と言えば、笑顔で少し分けてくれた。

 日持ちは長くないが、翌日の休憩時間にミュラーと一緒に食べれば。


「美味しー! イツキさんにお礼だけじゃなくて、なんか渡したいよねー?」

「うん。けど、宝石とかそう言うのは欲しがらないんだよね?」

「そうなの?」

「同期とか先輩の女料理人と話しているのたまに聞くけど……あんまりそういう話題には参加してないんだ」

「そっかー」


 逆に、副料理長や料理長が肉の下処理する光景には目を輝かせているんだよね?

 それをミュラーに言うと、『イツキさん、時々男っぽいよね?』と苦笑いされた。

 たしかに、陛下から公表がなきゃ……男装を今もほとんどしているし、言われなければ男と勘違い出来るんだよね……。
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