王宮まかない料理番は偉大 見習いですが、とっておきのレシピで心もお腹も満たします

櫛田こころ

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騎士のまかない⑬

第2話 内緒のご飯

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 モモやサクラの花も好いていたのだが……月の花は色とりどりある。庭師に分けてもらい、花束にしたそれを夜半の中央厨房に持って行くと……中から、凄い音が聞こえてきたので、俺は慌てて扉を開け放った!!


「イツキ!!?」


 まさか、怪我でもしたのかと声を荒げてしまったが……中ではイツキが椅子から転げ落ちたのか、倒れた木製の椅子とイツキがころんとなっているだけだった。


「!?…………アーネストさん!」


 モゴモゴと口の中に入っていたのを飲み込んだ後……何故か、泣きそうな表情になってしまった!?


「な、何があったんだ!? 敵か!!?」

「ち、違います!! そうじゃないんです!!」

「では、何故……泣いて?」

「え……っと」


 いつも微笑んでいるイツキが、どうもしどろもどろになっている。これほど、感情をあらわにしているのは……俺に異世界から来た人間だと打ち明けてくれた以来か??

 たしかに、厨房の中は特に荒らされている様子はない。

 ただ、少し良い匂いはしたが……。


「…………何を食べていたんだ?」

「!?」



 それと、イツキが先程口に何か入れているのが気になった。俺が試食係を頼まれる日については、自分の夕飯も一緒に食べる事になってきたので……先に彼女がひとりで食べるのも珍しい。

 昼を食べ損ねたのも珍しいが。

 俺が尋ねれば、イツキは何故か体を縮こませて……耳もだが首まで真っ赤にさせていった。


「? イツキ??」


 素直に疑問に思ったことを口にしただけだったが、彼女にとっては羞恥心を高める話題だったのだろうか?

 とここで、俺は扉を開ける前に、花束を投げ捨てていたことを思い出して……入り口に戻ったら多少崩れてはいたが花は無事だった。


「……? お花の香り」

「ああ。……これを君に」


 俺が花束を抱えてきたことで、香りが漂ったのだろう。まだ顔が赤いイツキに差し出せば、多少崩れてはいても嬉しさの笑顔を浮かべてくれて、キュッと抱きしめるように受け取ってくれた。


「ありがとうございます。最初の頃にもらった以来ですね?」


 機嫌が戻ったのか、イツキはささっと花瓶を持ってきて調理台の空いてる箇所に飾ってくれた。すぐに悪くなるだろうが、豪奢な花束が部屋を明るくしているようにも見えた。


「いつでも持ってくるさ。…………で、続きを聞かせてくれるか?」


 やはり、イツキの調子が悪い方が俺としては嫌なので、さっきの話題を戻すことにした。すると、顔はまた赤くなったが……すぐに苦笑いに変わった。


「…………どうしても、ひとりで食べたいものを食べていました」

「君だけで?」


 それが、まだかすかに匂う食事のことなのだろうか?

 椅子があった調理台の上を見ても、空っぽの皿があるだけ。

 勢いで食べていた時に、イツキがバランスを崩して転んだのか。珍しいこともあるのだな……と思っていたら、顔に出ていたのか……イツキが俺を見た後に、少し膨れっ面になっていた。
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