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隊長のまかない⑤
第4話『シンプルなお花見弁当』
しおりを挟む「お花もいいですが、お弁当……食べますか??」
と言うイツキの発言もありましたので、彼女の手製のお弁当をいただくことになりました。
アーネストの亜空間収納から、お弁当の箱が出てきました。藤の蔓で編んだ籠。その中には木で出来た箱が入っていました。亜空間収納に入れるのに、わざわざ二重の防御策……魔法が普通でない世界で育ったイツキなりの気遣いでしょう。
アーネストと僕が敷いた厚手の敷布の上に、陛下方や僕らがその置かれたお弁当箱を囲み、イツキはゆっくりと蓋を開けてくれました。
「「わぁ!?」」
「……これは」
お弁当箱の中身は、大半が以前ヒナマツリでリュシアーノ様とご一緒させていただいた食事と似ています。
派手さも特にありません。正直言って、素朴さが目立ちます。
しかし……イツキの料理に胃袋をつかまれた僕らにとっては……魅力的なメニューばかりですね??
カラアゲ。
タマゴヤキ。
茹でたブロッコリーをマヨネーズなどで混ぜたようなもの。
緑色の平たい何かを揚げたようなもの。
オニギリ……が数種類。
そのオニギリの中には、王妃殿下がご執心でいらっしゃるたぬきオニギリもありました。ヘルミーナ様を見れば、予想以上に目を輝かせていらっしゃいましたよ。
陛下も気づかれたのか、苦笑いされていましたが。
とりあえず、陛下方優先で……イツキが用意したらしい薄い陶器の皿に、彼女が均一に取り分け。普通ならメイドや執事が運ぶことを、ご自分達で受け取りました。
僕とアーネストがいるとは言え、今日は無礼講。酒はありませんが、以前イツキが作った甘酒があるのでそれで乾杯となりました。
実は、その甘酒がヘルミーナ様でも飲んで大丈夫だからとか。
「すごく……甘くて美味しいわ!」
「ふふ。その甘酒に砂糖は一切使っていませんよ??」
「そうなの、イツキ??」
「作り方は二種類ありますが、今回のには使わないんです」
「あー」
イツキとヘルミーナ様が話していらっしゃると、おくるみと簡易ベッドで寝ていらっしゃったジェラルド殿下が軽く泣いてしまいました。
すぐにヘルミーナ様が抱き上げられ、イツキが『いい子、いい子』とあやしました。彼女は赤子が大好きだと聞いていましたが……いつもの慈愛の微笑みだけでなく、蕩けるような笑みを浮かべていました。
アーネストを少し見れば、予想以上に顔を赤くしていました。婚約して数ヶ月経っているのに、それはあまり見慣れていないのか……さらに惚れ直してしまったのでしょう。
(……しかし、美味しいですね)
カラアゲは以前口にしたザンギほどではありませんが、噛めば肉汁が口の中にあふれ、適度な塩加減とジンジャーの風味が堪りません!! 肉も柔らかく……陛下方が口にされるので上質な鳥肉、あるいはコカトリスでしょう。明確な違いは、料理長のお陰で魔物肉を食べ慣れた僕でも、よくわかりませんが……これは美味しいですね??
いくらか冷めていますが、以前のザンギよりもコロモという部分がしっとりしているような。
次にタマゴヤキ。塩をベースとした味付けなのに、ふんわりと柔らかい焼き加減は……上質なプリンのような食感。しかし、噛んで口の中にほぐれていくのは……全然プリンではなかったです。新年明けに口にした『ダテマキ』のように巻いてあるのでしょうか?
ブロッコリーの茹で加減も程よく、マヨネーズ以外に魚の風味もしました……。本当にイツキは多彩ですね??
(……この緑色は??)
見覚えはあります。ヒナマツリの時に、リュシアーノ様がイツキにお願いして一緒に作られた……チラシズシの具材にもあった『アボカド』。賽の目よりも大ぶりで、薄黄色のコロモをまとった揚げ物になっていました。
口に入れると……サクッと心地よい食感の後に、とろっと舌の上で溶けました!!?
「おいひー!」
イツキの料理を堪能されていらっしゃるリュシアーノ様は……本当に愛らしい。特にカラアゲとアボカドの揚げ物を交互に口にされていました。たしかに……どちらも大変美味です。リュシアーノ様から以前お聞きしましたが、アボカドはニホンなどで人気の食材だそうです。
「うん。……美味い」
陛下も気に入られたようで、食べ終えたらご自分でおかわりを取りに行くほどでした。料理はたくさんありますし、ここには僕らだけ。
こう言う……王族とも平民とも関係のないひと時は、とても良いものです。
サクラの樹の下での平穏な時間だからかもしれませんが……薄ピンク色で、ハートの形をしている花びらは……ゆっくりと風に揺られ、僕らの上でも花の舞を見せてくださいます。
その後、このお花見食事会と言うものは……僕らの都合ができたら、毎年やろうと陛下が乗り気になり。食事の方は僕もですが全員食べ過ぎなくらいに……お弁当箱を見事に空っぽにしてしまいました。
途中、ひとつだけ面白かったのが。ヘルミーナ様や陛下がウメボシを食べ慣れていらっしゃらないので、お顔をしかめたのがおかしかったですね?
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