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国王のまかない⑤

第3話 王が下ごしらえ②

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「こ、これで味付けをするのか!!?」


 どう見ても、拷問などで執行者などが罪人に扱う材料にしか見えない!!?

 俺が驚いていると、イツキはゆっくりと首を横に振った。


「色は凄いですが、タラの卵に適度な味をつけてくれます」

「……本当か?」

「実際は少し辛いくらいに仕上がりますよ?」


 そして、これを水気が滲み出にくいように加工した袋に入れ……凍らせた卵は表面の水を塩で洗うそうだが……まだまだ寒いこの時期に触れる水はかなり冷たかった!!


「……袋の中に卵を入れるのか??」

「はい」


 熟成と言っていたがどれくらいさせるのか。

 イツキに聞くと、なんと一週間も冷凍庫で寝かせるのだそうだ!!


「……腐りはしないか??」

「仕込みはこれだけですし、あとは外側から内側まで調味料などを行き渡らせる意味もあります」

「……ほう」


 ワルシュらのパーティーに間に合うように期間は設けているので、大丈夫だが。

 とりあえず、今日はこれで終わりだとイツキに言われたので……よく手を洗ってから解散となることになった。


「生の臓物などを触った後は、よく手を洗ってください」


 アレルギーではないが、身体に悪影響を及ぼすことがなくもないそうだ。……本当に、イツキは東方でその知識を得たのだろうか??

 そして一週間後……出来上がったタラの卵は、処理をする前よりも濃い赤色に染まっていた。


「出来ました! 明太子です!!」

「……メンタイコ??」

「食事にもいいですが、お酒の肴にも最適な食材です!!」

「……酒か」


 それはたしかに、ワルシュもだがサーシャも好きなものだ。

 イツキは試食しようと、メンタイコのひと房を手に取り……いくつかに切り分けた。それに酒ではなく、用意していたらしいリーゾの上に載せた。


「まずは、リーゾと」


 白く輝くリーゾの上に、ひときわ目立つ赤い小さな塊。メンタイコの内側は粒々としたものが集まっていた。

 食べられるのか……と思うが、俺も手伝って仕込んだものだ。まずは自分で食べてみなくては……と、フォークと一緒に受け取って、リーゾとメンタイコを口に入れてみた。


「!!?」


 辛い。

 たしかに辛いが、嫌な辛さではない。

 舌や口にわずかな刺激を何度も与えられる感じではあるが……ピリ、ピリと心地よいのだ!!

 内側の粒々は歯で噛み砕くとプチプチと弾けていくが……磯臭さを同時に感じても貝類以上に食べやすかった……。

 俺は貝類がいささか苦手なのだが、こう言うのは美味いと素直に思えた。酒の風味をわずかに感じるお陰で、臭いなどが軽減されているのだ。

 そしてこれは……たしかに、リーゾがよく合う!!

 ヘルミーナが好んでいる『たぬきおにぎり』もだが……それ以上に、口に入れると歓喜が込み上げてくるのだ!!!!


「いかがでしょう??」


 イツキは相変わらず、俺が食べている様子を見て優しく微笑んでいた。


「……美味いな!! あのようなものから、このような珍味に化けるとは!!」

「ふふ。このメンタイコは料理などで大活躍するんですよ? たくさん仕込みましたし、後の練習は料理作りにしましょう」

「なるほど……。わかった、教えてくれ」

「はい」


 俺は安易に頼んだが……このメンタイコ、本当に様々な料理に化ける代物だとは思わなかった。

 ちなみに、リーゾの酒で肴にする方法を教わると……ワルシュにやるのが惜しいくらいの肴だった。


(……あと少し、か)


 俺より長く交際していたとは言え、ようやくその時がきた。精一杯、友として祝わねば……。
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