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まかない婦のまかない⑤
第4話『濃厚フォンダンショコラ』②
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執務室に着くと……中は昨日よりも大変な状態になっていたのです。
「……凄いわね」
リュシアーノ様の口がひくっと動いてしまうくらい……目の前の光景が凄過ぎた。文字通り、チョコレートだと思われるプレゼントの山、山、山が積み上がって……デスクなども埋もれている状態だったのだ。
「殿下……イツキはん??」
私達に気づいてくれたのは、レクサスさんだった。ご自分のデスクの上に乗っているチョコレートらしきプレゼントを、落ちないように支えている感じだ。それはアーネストさんやネルヴィスさんも同じだったが。
「イツキ!?」
レクサスさんの言葉にアーネストさんも私達に気づいてくださったのか、振り返られ……顔色が青くなっていく。何と無くだが、彼の心情がわかってしまうほど……アーネストさんをよく見てきたお陰かな? ちょっと苦笑いしてしまう。
「リュシアーノ様、イツキ。お見苦しいところをお見せして申し訳ありません」
そして、一番プレゼントの山が凄いネルヴィスさんの顔は疲れ果てていた。
「いいわよ? 毎回こんな感じなの??」
リュシアーノ様は感情を爆発させることもなく、大人な対応でネルヴィスさんの方に歩いて行った。体は子供でも、中身が二十代以上だからか不釣り合いな態度ではあるが素敵だ。
私は……やっぱり、嫌だった。あれだけ人気のあるアーネストさんに真っ先にチョコレートを渡すべきなのに、忘れていただなんて。
だんだんと悶々としだ感情が沸き上がって、苦笑いがきっと悲痛な表情になっているのだろう。歯ぎしりしていないつもりだったが、唇を強く噛んでしまったのか血の味が広がっていく。
「イツキ!?」
ドサって音が聞こえたので顔を上げれば、いつのまにか……アーネストさんが目の前に来てくださった。たったそれだけのことなのに、酷く嬉しく思えて……込み上がっていた涙がぽろっと目の端からこぼれ落ちた。
「……アーネストさん」
「すまない!! 俺が断れないばかりに!」
他の人達がいるので抱きしめられはしなかったが、深く腰を折られた。その謝罪に、私は慌てて頭を上げて欲しいとお願いした。
「す、すみません!! 取り乱してしまって!!」
「だが……結果的には俺が悪い」
「……いいんです。私も自分のを忘れていたので」
持っていたフォンダンショコラの箱を差し出すと……アーネストさんは太陽が輝くように、表情を一気に明るくさせてくださった。相当……喜んでくださっているみたい。
「…………俺にか??」
「はい。アーネストさんにです」
どうぞ、と渡せば……受け取ってくださったアーネストさんの表情がさらに花やいでいく感じになる。他の女性には絶対出来ない、私だけの特権だ。
「あ~!! ええな、ええなあ?? イツキはんの手作りチョコレート!!」
「レクサス、愛友祭と言えど……友人であれ、あのチョコレートはアーネスト宛ですよ??」
「そうですけど~……」
「とにかく。せっかくですから、アーネスト。少しだけなら離席していいですよ?」
「ありがとうございます、隊長!!」
と言うことで、他のチョコレートの処理などは放置していいのか。アーネストさんは私の手を取って、執務室から出てしまう。私が転けないようにゆっくり歩いてくださり……まだ寒いが、裏庭にある東屋のようなところでフォンダンショコラの箱を開けてくれた。
「フォンダンショコラと言います」
「ふぉ……??」
横文字が普通のこの世界でも、やっぱり言い難いことに変わらないようで。少し不思議に思ったが、今考えるのはそちらではない。
食べたいようだったので、実は一緒に持って来ていた紙皿とフォークを出して……フォンダンショコラのひとつを皿の上に載せた。
「カップケーキに見えるな?」
「中が少し特殊なんです」
レンジがないので、生活魔法を応用した温熱を使い、ゆっくりと皿の上に載せたフォンダンショコラに熱を加えていく。
生地の具合を見て、温めるのをやめたらアーネストさんにどうぞと差し出した。
「いただこう……お!?」
そっとフォークを入れた直後、中のガナッシュが溶けていたので……アーネストさんはすぐにオロオロと慌て出してしまった。おそらく、生焼けかとでも思ったのかも。
「大丈夫ですよ? 温めたら、中のチョコレートが溶け出してくる仕組みなんです」
「! そうか!?……なるほど」
それがわかると、フォークを使ってすぐに口に入れてくださった。溶けたチョコレートと温かいケーキの味が良かったのか、ほっぺがどんどんピンク色になっていく。
「どうでしょう??」
答えはわかっているのに、どうしても聞きたい私はわがままだろうか?
「ああ! 温かいケーキと言うのも美味い!! 溶けたチョコレートともいいな!!」
と言って、あっという間に一個をぺろりと食べてくださった。二個目も食べたいか聞くと、もちろんだと笑顔で言ってくれて。
あれだけ、私の中でささくれていた気持ちはフォンダンショコラのガナッシュのように……溶けて消えていき。
アーネストさんが三個目を食べる頃には、一緒にあのチョコレートの山をホットチョコレート以外でどう消費しようか……考える余裕が出来るくらいにまで落ち着いていた。
「……凄いわね」
リュシアーノ様の口がひくっと動いてしまうくらい……目の前の光景が凄過ぎた。文字通り、チョコレートだと思われるプレゼントの山、山、山が積み上がって……デスクなども埋もれている状態だったのだ。
「殿下……イツキはん??」
私達に気づいてくれたのは、レクサスさんだった。ご自分のデスクの上に乗っているチョコレートらしきプレゼントを、落ちないように支えている感じだ。それはアーネストさんやネルヴィスさんも同じだったが。
「イツキ!?」
レクサスさんの言葉にアーネストさんも私達に気づいてくださったのか、振り返られ……顔色が青くなっていく。何と無くだが、彼の心情がわかってしまうほど……アーネストさんをよく見てきたお陰かな? ちょっと苦笑いしてしまう。
「リュシアーノ様、イツキ。お見苦しいところをお見せして申し訳ありません」
そして、一番プレゼントの山が凄いネルヴィスさんの顔は疲れ果てていた。
「いいわよ? 毎回こんな感じなの??」
リュシアーノ様は感情を爆発させることもなく、大人な対応でネルヴィスさんの方に歩いて行った。体は子供でも、中身が二十代以上だからか不釣り合いな態度ではあるが素敵だ。
私は……やっぱり、嫌だった。あれだけ人気のあるアーネストさんに真っ先にチョコレートを渡すべきなのに、忘れていただなんて。
だんだんと悶々としだ感情が沸き上がって、苦笑いがきっと悲痛な表情になっているのだろう。歯ぎしりしていないつもりだったが、唇を強く噛んでしまったのか血の味が広がっていく。
「イツキ!?」
ドサって音が聞こえたので顔を上げれば、いつのまにか……アーネストさんが目の前に来てくださった。たったそれだけのことなのに、酷く嬉しく思えて……込み上がっていた涙がぽろっと目の端からこぼれ落ちた。
「……アーネストさん」
「すまない!! 俺が断れないばかりに!」
他の人達がいるので抱きしめられはしなかったが、深く腰を折られた。その謝罪に、私は慌てて頭を上げて欲しいとお願いした。
「す、すみません!! 取り乱してしまって!!」
「だが……結果的には俺が悪い」
「……いいんです。私も自分のを忘れていたので」
持っていたフォンダンショコラの箱を差し出すと……アーネストさんは太陽が輝くように、表情を一気に明るくさせてくださった。相当……喜んでくださっているみたい。
「…………俺にか??」
「はい。アーネストさんにです」
どうぞ、と渡せば……受け取ってくださったアーネストさんの表情がさらに花やいでいく感じになる。他の女性には絶対出来ない、私だけの特権だ。
「あ~!! ええな、ええなあ?? イツキはんの手作りチョコレート!!」
「レクサス、愛友祭と言えど……友人であれ、あのチョコレートはアーネスト宛ですよ??」
「そうですけど~……」
「とにかく。せっかくですから、アーネスト。少しだけなら離席していいですよ?」
「ありがとうございます、隊長!!」
と言うことで、他のチョコレートの処理などは放置していいのか。アーネストさんは私の手を取って、執務室から出てしまう。私が転けないようにゆっくり歩いてくださり……まだ寒いが、裏庭にある東屋のようなところでフォンダンショコラの箱を開けてくれた。
「フォンダンショコラと言います」
「ふぉ……??」
横文字が普通のこの世界でも、やっぱり言い難いことに変わらないようで。少し不思議に思ったが、今考えるのはそちらではない。
食べたいようだったので、実は一緒に持って来ていた紙皿とフォークを出して……フォンダンショコラのひとつを皿の上に載せた。
「カップケーキに見えるな?」
「中が少し特殊なんです」
レンジがないので、生活魔法を応用した温熱を使い、ゆっくりと皿の上に載せたフォンダンショコラに熱を加えていく。
生地の具合を見て、温めるのをやめたらアーネストさんにどうぞと差し出した。
「いただこう……お!?」
そっとフォークを入れた直後、中のガナッシュが溶けていたので……アーネストさんはすぐにオロオロと慌て出してしまった。おそらく、生焼けかとでも思ったのかも。
「大丈夫ですよ? 温めたら、中のチョコレートが溶け出してくる仕組みなんです」
「! そうか!?……なるほど」
それがわかると、フォークを使ってすぐに口に入れてくださった。溶けたチョコレートと温かいケーキの味が良かったのか、ほっぺがどんどんピンク色になっていく。
「どうでしょう??」
答えはわかっているのに、どうしても聞きたい私はわがままだろうか?
「ああ! 温かいケーキと言うのも美味い!! 溶けたチョコレートともいいな!!」
と言って、あっという間に一個をぺろりと食べてくださった。二個目も食べたいか聞くと、もちろんだと笑顔で言ってくれて。
あれだけ、私の中でささくれていた気持ちはフォンダンショコラのガナッシュのように……溶けて消えていき。
アーネストさんが三個目を食べる頃には、一緒にあのチョコレートの山をホットチョコレート以外でどう消費しようか……考える余裕が出来るくらいにまで落ち着いていた。
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