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まかない婦のまかない⑤

第1話 出遅れ

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 この世界は、日本と似ているところはないのに……ちょこちょこっと似ている部分が多い。

 主に、食材の呼び方や扱いについてだけど。

 三ツ矢みつや斎姫いつきことイツキ=エイペック、二十六歳。

 会社から帰宅途中で、どう言うわけか異世界にトリップしてしまい……約一年。

 お世話になる場所はすぐに出来たけど……その、恋人まで出来るとは思わなかった。今は、恋人以上に婚約者さんではあるけど。左手にあるシルバーリングは今日も綺麗に輝いている。アーネストさんから、お手入れ用の道具もいただいたのでこまめに手入れしたお陰もあるだろう。

 それはさておき。

 色々あったが、この世界に馴染んできて約一年だ。

 慣習については日本と同じようなものが特にないと思っていたけど……まさか、バレンタインみたいな行事があるとは思わなかった。


「……リュシアーノ様優先に作ってたから」


 バレンタインのような行事があるとは思ってもみなかった。呼び名は違い、愛友あいゆうさい

 けど、呼び名が違うだけで……内容はほとんど日本のバレンタインと一緒だ。本命や義理など問わず、相手にチョコレートを贈るのは一緒。

 なので、リュシアーノ様からネルヴィスさんにバレンタインチョコレートを贈りたいから、何か一緒に作ってと駆け込まれた時は驚いた。

 リュシアーノ様は無事に渡せたのだけど……私はまだだ。アーネストさんに本命チョコを渡せてはいない。渡そうと思って考え過ぎている途中に、ネルヴィスさん達に呼ばれてホットチョコレートを作ったりはしたが。

 材料となったチョコレートの山を見て……少し……いや、結構もやもやした。

 アーネストさんと恋人になったことは国王陛下から公表されたことになっているのに……それでも、メイドさん達がアーネストさんに本命チョコを渡すのが……自分らしくないが嫌だと思ってしまった。

 日本に居た頃は、彼氏が浮気をしてもへっちゃらだったのに……やっぱり、本気の相手は別なのだろう。

 それだけ……私はアーネストさんの事が大好きなんだ。


「……何作ろう」


 お留守番兼、まかないの仕込みをするのに……今は中央厨房で私はひとりだ。だから、独り言は言いたい放題。

 そして、作るのもまかないの方は終わったから……アーネストさんに渡すチョコレートも作って良い。養父となってくださっている、ワルシュ料理長からも材料使用許可はもらっているのだ。


「チョコレートに飽き飽きしてるかも……けど!!」


 せっかくのバレンタインに似た行事だから、チョコレートは贈りたい!!

 この世界のチョコレート菓子は、トリュフとか粒とかだから……以前、公爵家に持って行ったパウンドケーキとかはないらしい。ケーキでも、チョコレートクリームはなくもない。

 なら、と、私は冬の季節という事も考慮して。

 フォンダンショコラを仕込むことにした。
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