上 下
131 / 784
騎士のまかない⑨

第3話 誕生日パーティー①

しおりを挟む
 そして……えん月の二十二。

 イツキの誕生日となった当日……夕方から、中央食堂の業務が終わった後に……参加する俺やレクサス、あと隊長がメインで飾り付けをすることになった。細かいところはサフィア殿が……さすがはメイドなので、俺達よりも手際がいい。

 イツキの方は、離宮で着替えている最中だ。内輪とは言っても、陛下方がいらっしゃる席だ。何もしないわけにはいかないだろうと、サフィア殿と入れ替わりで別のメイドに連れて行かれた。

 どんな風に着飾るか……正直言って俺は楽しみだった。


「こんなもんとちゃう??」


 近衛騎士三人がかりで飾り付けた室内は、それなりに華やかになったと思う。慣れないことでも、なんとか出来たものだ。


「おーい! ケーキ出来たぜ?」


 ワルシュ料理長の声が聞こえたので、全員で振り返れば……たしかに、ケーキが出来上がっていた!?


「せ、先輩? やり過ぎちゃうん?」

「……僕も同感です」

「これを全部……」


 イツキだけが食べるわけではないが、デカ過ぎた。

 高さだけなら、俺達近衛騎士とそう変わりないくらいに!? 切り分けは料理長達がやってくださるだろうが……どう食べればいいんだ!?


「……綺麗」


 つぶやいたのは、サフィア殿。レクサスと付き合うようになってから、少しばかり表情が出始めたらしいが……本音まで出てくるとは。たしかに、このケーキは美しい。芸術品と言えるくらい……そびえ立つくらいの大きさはともかく。


「冬苺が大量に仕入れられたからなあ? 中にも苺どっさりだ!」


 幸い、今日の参加者には苺のアレルギー体質はいない。さすがに料理長もそこは考慮してくださっているのだろう。

 それから少しして、俺はサフィア殿の案内で離宮に向かいイツキをエスコートすることになった。今日はある意味で俺も祝われる側だが、メインはイツキだからな?

 案内された部屋に入ると、イツキは式典の時よりは控えめだが美しく着飾られていた。


「……似合っている」

「あ……ありがとうございます」


 イツキのこう言った控えめな感じが、いつまでも初々しい。ますます、惚れてしまいたいと思うくらいに。

 サフィア殿の先導で、俺はイツキをエスコートしつつ来た道を戻った。本当ならじっくり眺めて褒めたいところだが、今日は彼女メインの誕生日会だ。しっかりエスコート役を果たさないと。


「お待たせ致しました」


 サフィア殿が食堂に到着した時に、中にいる隊長とレクサスに声をかけた。すぐに扉が開くと……俺の隣にいるイツキが『うわぁ……』と声を上げた。


「お誕生日おめでとう、イツキ!!」


 第一声を上げたのは、王女殿下だった。正装ほどではないが、それなりに着飾っていらっしゃった。

 こちらに来られると、俺にひとこと断りを入れられてから……料理のあるテーブルにイツキを連れて行った。


「ワルシュ達が作ったケーキよ!!」

「え、これが??」


 とにかく、早く見せたかったのか物凄くはしゃいでいらっしゃった。まあ確かに、あのケーキは凄いからな?


「主役が揃ったのならば、パーティーを始めようではないか!」


 陛下のお言葉により、(一応)俺とイツキの誕生日パーティーの開始となり……王女殿下と王妃殿下以外は皆酒のグラスを手に取り、乾杯と声を上げた。
しおりを挟む
感想 319

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。