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騎士のまかない⑨
第1話 暦の違い
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それはいつもと変わらない、何気ない日常での会話がきっかけだった。
「アーネストさんはお誕生日がもうそろそろなんですね? 私も実は冬生まれなんですよ」
冬の始めを迎えた頃に、試食係を相変わらず続けていた俺は、イツキとの語らいの合間に重要な話が聞けたのだ!?
「……イツキの誕生日も冬なのか?」
「はい。と言っても、こちらの暦でどの辺りかがわかりにくいですけど」
「簡単には、料理長達に教わったりしたか?」
「はい。ざっくりと」
この世界……イツキの世界は詳しく聞いていないが、こちらでは年に四つの季節を迎える循環となっている。
暖かく、花が咲き誇る春。ここには王女殿下の生誕祭を迎えるので、城下は色々大賑わいだ。
次に、草木覆い茂るが暑さを訴えてくる夏。ここは長雨が多く、作物も成長を促す大事な季節だ。この時期には陛下の生誕祭なので市井にも休日が設けられる。
秋は実りの季節。春よりは涼しげだが、とにかく麦や米の収穫が地方では盛んで、近衛騎士であれ俺も隊長と共に視察に行くことはある。王妃殿下の生誕祭と王子殿下もこの辺りなので、来年はすごく騒がしいだろう。
冬は雪が深い。だが、山中に雪が降らないと春に雪が溶けなくて、そこから雪解け水を得られなくなってしまう。
今は冬の始めなので、まだ然程雪は降らない。
冬は魔物も冬眠期に入る種が多いのか、狩猟関係は基本的に休み。他の肉に関しては大抵酪農で育てている肉が城や城下町には出回る。それでも、値は多少上がるが。
「暦は季節をざっくり区切って、各季節に三ヶ月だ」
「同じですね? 月ごとの名前とかありますか??」
「そこは習っていないのか?」
「特に必要なかったですし、料理長達もあまり使っていなかったので」
「……では、教える」
春は、花月。
深月。
沙月。
夏は、夏月。
雨月。
好月。
秋は、朔月。
弓月。
涼月。
冬は、円月。
雪月。
新月。
これらの月ごとの名前を教え、各月に三十日の日が割り振られているとも教えた。休日などは職種によりバラバラなので、共通しているのじゃ王族の生誕祭や建国日くらいしかない。
「ちょっと似てますね? 私のところだと、色々祝日がありまして……日にちにも曜日って習慣もあるんですが、休日はだいたい同じでした」
「そうか。君の誕生日はいつくらいか……わかりそうか??」
俺が知りたいのはそこだ。
付き合って、そろそろ数ヶ月。未だお互いの仕事の都合もあって進展した付き合いはないが……日を重ねるごとに、この女性への愛おしさが増している。だからとは言え、誕生日を知らないでいたのは迂闊だった!!
「うーん……冬はじめくらいでしたから……円月の二十二くらいですかね?」
「! 近い!! 俺は十五だ!」
「ほんとですか? じゃあ、その時は一緒にお祝いします??」
「いや、是非俺にエスコートさせてくれ!!」
「え?」
「今まで聞けずじまいだったんだ。不甲斐ない俺に……エスコートさせて欲しいんだ」
と言うことで、翌日隊長に休暇届けを申請しようとしたんだが。
「良い機会です。身内だけで、ふたりの誕生会と洒落込みましょうか?」
「なんでですか!?」
俺は恋人とふたりで内輪の祝いをしたいと計画を練っていたのに……。すると、隊長に軽く額を弾かれた。
「君はともかく、彼女はこの国の恩人ですよ? ふたりの時間も作ってあげますから、僕らからも御礼させてくださいよ」
「ら?」
「この話はリュシアーノ殿下にもいずれ伝わるでしょう。遊び相手のお祝いはしたいでしょうし」
「…………そうですね」
その可能性をすっかり忘れていた。
「アーネストさんはお誕生日がもうそろそろなんですね? 私も実は冬生まれなんですよ」
冬の始めを迎えた頃に、試食係を相変わらず続けていた俺は、イツキとの語らいの合間に重要な話が聞けたのだ!?
「……イツキの誕生日も冬なのか?」
「はい。と言っても、こちらの暦でどの辺りかがわかりにくいですけど」
「簡単には、料理長達に教わったりしたか?」
「はい。ざっくりと」
この世界……イツキの世界は詳しく聞いていないが、こちらでは年に四つの季節を迎える循環となっている。
暖かく、花が咲き誇る春。ここには王女殿下の生誕祭を迎えるので、城下は色々大賑わいだ。
次に、草木覆い茂るが暑さを訴えてくる夏。ここは長雨が多く、作物も成長を促す大事な季節だ。この時期には陛下の生誕祭なので市井にも休日が設けられる。
秋は実りの季節。春よりは涼しげだが、とにかく麦や米の収穫が地方では盛んで、近衛騎士であれ俺も隊長と共に視察に行くことはある。王妃殿下の生誕祭と王子殿下もこの辺りなので、来年はすごく騒がしいだろう。
冬は雪が深い。だが、山中に雪が降らないと春に雪が溶けなくて、そこから雪解け水を得られなくなってしまう。
今は冬の始めなので、まだ然程雪は降らない。
冬は魔物も冬眠期に入る種が多いのか、狩猟関係は基本的に休み。他の肉に関しては大抵酪農で育てている肉が城や城下町には出回る。それでも、値は多少上がるが。
「暦は季節をざっくり区切って、各季節に三ヶ月だ」
「同じですね? 月ごとの名前とかありますか??」
「そこは習っていないのか?」
「特に必要なかったですし、料理長達もあまり使っていなかったので」
「……では、教える」
春は、花月。
深月。
沙月。
夏は、夏月。
雨月。
好月。
秋は、朔月。
弓月。
涼月。
冬は、円月。
雪月。
新月。
これらの月ごとの名前を教え、各月に三十日の日が割り振られているとも教えた。休日などは職種によりバラバラなので、共通しているのじゃ王族の生誕祭や建国日くらいしかない。
「ちょっと似てますね? 私のところだと、色々祝日がありまして……日にちにも曜日って習慣もあるんですが、休日はだいたい同じでした」
「そうか。君の誕生日はいつくらいか……わかりそうか??」
俺が知りたいのはそこだ。
付き合って、そろそろ数ヶ月。未だお互いの仕事の都合もあって進展した付き合いはないが……日を重ねるごとに、この女性への愛おしさが増している。だからとは言え、誕生日を知らないでいたのは迂闊だった!!
「うーん……冬はじめくらいでしたから……円月の二十二くらいですかね?」
「! 近い!! 俺は十五だ!」
「ほんとですか? じゃあ、その時は一緒にお祝いします??」
「いや、是非俺にエスコートさせてくれ!!」
「え?」
「今まで聞けずじまいだったんだ。不甲斐ない俺に……エスコートさせて欲しいんだ」
と言うことで、翌日隊長に休暇届けを申請しようとしたんだが。
「良い機会です。身内だけで、ふたりの誕生会と洒落込みましょうか?」
「なんでですか!?」
俺は恋人とふたりで内輪の祝いをしたいと計画を練っていたのに……。すると、隊長に軽く額を弾かれた。
「君はともかく、彼女はこの国の恩人ですよ? ふたりの時間も作ってあげますから、僕らからも御礼させてくださいよ」
「ら?」
「この話はリュシアーノ殿下にもいずれ伝わるでしょう。遊び相手のお祝いはしたいでしょうし」
「…………そうですね」
その可能性をすっかり忘れていた。
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