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令嬢のまかない

第3話 未知なるアボカド

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 厨房に行くと……私を含めるハインツベルトの女が三人も入ってきたら……メイドに指示を飛ばしていたとは言え、料理人達はかしこまってしまった。

 その態度に、イツキ殿は不慣れなのか最初は少し慌てていらっしゃったが。


「……アーネストさんとお付き合いさせていただいています。イツキ=エイペックと申します。少し、お邪魔させてください」

「「「「「「……!!?」」」」」



 なんと凛々しいお姿!?

 料理人達が感銘を受けるくらい……いいえ、この私もさらに感動してしまう程のお姿だった。ティア義姉上の時でもこのような気持ちにはならなかったのに……さすがは、陛下に認められ……エイペック様のご養女殿だ!!


「皆、聞いた通り。こちらのイツキさんはアーネストの恋人です。そして、陛下より受勲なされた方。少々……ここの厨房で探している食材があるの」

「!? とおっしゃいますと? 大奥様」


 料理長がこちらに質問をすると、母上は一度イツキ殿を見てから口を開いた。


「アボカド……と言う食材なのよ。ヨルダン、知っていて??」

「アボカド……にございますか?? え、ええ……私達のまかないに使う程度には」

「少し譲ってください!!」


 料理長のヨルダンの返答に、イツキ殿は顔を輝かせながら彼に詰め寄った。その仕草がいくらか子供っぽく見えたが……私には可愛いらしくも見えた。凛としたお姿も素晴らしかったが、少女のような愛らしいさも見えて……とても魅力的だった。アーネスト兄上はこのような表情を日々見られていらっしゃるとは……少し羨ましい。

 下手に感情を露にされないタイプの貴族令嬢などよりもずっと良い。


「え…… 何を??」

「ヨルダン。イツキさんはエイペック殿のご養女で特級料理人なのよ。だから、イージアス城ではご活躍なされているの」

「!? なるほど。少々お待ちください」


 と、ヨルダンが母上言葉に強く頷くと、他の料理人達を何人か使い……そのアボカドを集めてきたのだが。


「「まあ!?」」

「これが……アボカド??」


 たしかに、形はラフランスに似て黒い皮に包まれている実のようなもの。

 これが……胸の発育に良いと言われる食材??

 見た通りだけだと、石ころのようにも見えるが。


「美味しいんですよ?? 先程甘いものは召し上がっていただきましたし……少し軽食向きにしましょうか??」

「イツキ……様。こちらのアボカドをどのように??」

「そうですね? 熟成具合にはよりますが……サンドイッチか揚げ物……あとはチーズ焼きなどで調味料や調理法が変わります」

「え……えぇ??」


 ヨルダンも知らない調理法の数々。

 それをご存知のイツキ殿は、スラスラと口に出していく。どれも食べてみたいが、この提案は母上だったので。


「そうね? 揚げ物……と言うのが気になるわ。イツキさん、ヨルダンに伝えながら調理してくださる??」

「ご迷惑でなければ」

「お願い致します!!」


 ヨルダンはやる気に満ち溢れ、まずは皮を剥く作業から。実に切り込みを入れてぐるっと一周。割った身をひねって外すと……すぐに内側が見えた。


(美しい……若草のような実!?)


 しかし、美しくはあるが食用には見えない。そして、中央の赤子の拳大もある種を……ヨルダンに取るように頼んだイツキ殿は皮を剥くのも丁寧に頼み……少しずつ濃い翠色の表面が出てきた。


「生でも食べられるので……料理長さん、お醤油とかありますか? 薄く切り身にしたのを召し上がっていただきたいんです」

「……わ、わかりました」


 果物だから、生でも食べられるとは思うが……何故、その調味料を選択したのか私達には不思議でしかなかった。
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