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メイドのまかない
第2話『さつまいものモンブラン』③
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黄金の輝き……に近いような黄色が強いクリームの渦。てっぺんにはチョコレートらしき四角いが薄い板。
土台らしきケーキの部分は素朴だけど、それがかえって上のクリーム達を引き立たせてくれている。
これを本当に、バーミィ殿が作られた?? イツキ殿のご指導があったとは言え。
「甘いもん好きやって、イツキはんに聞いたんや。……食べてくれへん??」
「…………いただき、ます」
けど、せっかく作っていただいたのに……愛でているわけにはいかない。勧められたので、フォークを手に取り……ゆっくりと美しいケーキに切り込みを入れた。
これまで口にしたことのあるケーキよりも、段違いに柔らかい。クリームも、土台のケーキの部分も。
内側には白いホイップクリームがあった。わざわざ二種類のクリームを……私なんかのために、手作りしていただいた気遣いに、胸がじんと熱くなってきた。
けど、今はこれを口にしよう。
黄色のクリームだなんて、私は初めてだがどんな食材が使われているのか。イツキ殿の知るお料理はどれもが、王女殿下や王妃殿下が絶賛する程の美味揃い。
私も一度、あの方が手がけた『ピーチモチ』と言うものをいただいた。以前王女殿下とご一緒に作られた、レモンモチと似ているようで全然違うモチ。冷たくて、柔らかくて……焼いたわけではないようだが、ピーチの果肉がごろんと入っていて、甘いペーストに何かが入っていた。
美味しくて、すぐに食べ終えてしまうくらい。アレルギーの一件で私もバクス医師から診断を受けたが、特にアレルギーもなくピーチも食べられたので、この時ほどよかったと思わずにいられなかった。
(……だから、バーミィ殿が作られたこのケーキも)
きっと、凄く美味しいに違いない。フォークで小さく切って、口に運ぶ。
(!? すっごく甘いのにしつこくない!?)
黄色のクリームには何か練り込まれているのはわかるのに……食べたことのない甘さ。だけど、お砂糖をふんだんに使った甘さではない。
食べたことがあるようなないような……やはり、わからない。
だけど、
「美味しい……です」
「ほんま? よかったわ~」
バーミィ殿は心底安心したような、苦笑いを見せてくださった。何故なのだろうか?
(何故……大して接点のない私に?)
お茶会のお誘いもだが、私にお菓子を作ってくださったのだろうか?
土台の部分と一緒にクリームを食べると、甘さと香ばしさ。生地のふわふわ感が絶妙でパクパク食べてしまいそうになるのを我慢した。
メイドとは言え、私はこれでも伯爵家の末娘。
お姉様達とは違い、レディではなくとも行儀見習いは殿下にお仕えする身としてそれなりに出来ると自負しているのだ。
「あの……バーミィ殿」
「おん?」
私が声をかける時には、バーミィ殿もケーキを食べていらっしゃった。決して、紳士らしいマナーではないが冒険者出身である彼らしい食べ方だった。私は彼と出会う前ならそう言うマナーを疎んでいたのに、今はなんとも思わない。
「何故……私にこのようなお誘いを?」
「言ったやろ? 嬢ちゃんと話したかったんや」
「そう……ですが。あまり見かけないメイドと何故?」
「ん~、そやなあ?」
バーミィ殿は、自分の指についたクリームを舐めてから私に振り返り、歯を見せて笑いかけてくださった。
ラインシード様のような輝かんばかりの美しさはない方なのに、この方も近衛騎士団に属しているからか美しい方だ。
赤茶の髪、濃いグリーンの瞳。
日に焼けた肌は健康そうで、貴族とは違い血色が良い。服の上からではよくわからないが、きっと素敵過ぎる体格が隠れているだろう。
そんな方に見つめられると、胸が高鳴り落ち着かなくなってしまうわ!!
「? あの……」
「接点はそんなないのは、重々承知や。けど、自分は嬢ちゃんがええ」
「え?」
「大陸語で言うんなら……あんたに惚れてんだ。サフィア」
「!!?」
あり得ない、そんな事……と思わず逃げ出そうとしたら。
バーミィ殿に、素早く退路を阻まれてしまった。
土台らしきケーキの部分は素朴だけど、それがかえって上のクリーム達を引き立たせてくれている。
これを本当に、バーミィ殿が作られた?? イツキ殿のご指導があったとは言え。
「甘いもん好きやって、イツキはんに聞いたんや。……食べてくれへん??」
「…………いただき、ます」
けど、せっかく作っていただいたのに……愛でているわけにはいかない。勧められたので、フォークを手に取り……ゆっくりと美しいケーキに切り込みを入れた。
これまで口にしたことのあるケーキよりも、段違いに柔らかい。クリームも、土台のケーキの部分も。
内側には白いホイップクリームがあった。わざわざ二種類のクリームを……私なんかのために、手作りしていただいた気遣いに、胸がじんと熱くなってきた。
けど、今はこれを口にしよう。
黄色のクリームだなんて、私は初めてだがどんな食材が使われているのか。イツキ殿の知るお料理はどれもが、王女殿下や王妃殿下が絶賛する程の美味揃い。
私も一度、あの方が手がけた『ピーチモチ』と言うものをいただいた。以前王女殿下とご一緒に作られた、レモンモチと似ているようで全然違うモチ。冷たくて、柔らかくて……焼いたわけではないようだが、ピーチの果肉がごろんと入っていて、甘いペーストに何かが入っていた。
美味しくて、すぐに食べ終えてしまうくらい。アレルギーの一件で私もバクス医師から診断を受けたが、特にアレルギーもなくピーチも食べられたので、この時ほどよかったと思わずにいられなかった。
(……だから、バーミィ殿が作られたこのケーキも)
きっと、凄く美味しいに違いない。フォークで小さく切って、口に運ぶ。
(!? すっごく甘いのにしつこくない!?)
黄色のクリームには何か練り込まれているのはわかるのに……食べたことのない甘さ。だけど、お砂糖をふんだんに使った甘さではない。
食べたことがあるようなないような……やはり、わからない。
だけど、
「美味しい……です」
「ほんま? よかったわ~」
バーミィ殿は心底安心したような、苦笑いを見せてくださった。何故なのだろうか?
(何故……大して接点のない私に?)
お茶会のお誘いもだが、私にお菓子を作ってくださったのだろうか?
土台の部分と一緒にクリームを食べると、甘さと香ばしさ。生地のふわふわ感が絶妙でパクパク食べてしまいそうになるのを我慢した。
メイドとは言え、私はこれでも伯爵家の末娘。
お姉様達とは違い、レディではなくとも行儀見習いは殿下にお仕えする身としてそれなりに出来ると自負しているのだ。
「あの……バーミィ殿」
「おん?」
私が声をかける時には、バーミィ殿もケーキを食べていらっしゃった。決して、紳士らしいマナーではないが冒険者出身である彼らしい食べ方だった。私は彼と出会う前ならそう言うマナーを疎んでいたのに、今はなんとも思わない。
「何故……私にこのようなお誘いを?」
「言ったやろ? 嬢ちゃんと話したかったんや」
「そう……ですが。あまり見かけないメイドと何故?」
「ん~、そやなあ?」
バーミィ殿は、自分の指についたクリームを舐めてから私に振り返り、歯を見せて笑いかけてくださった。
ラインシード様のような輝かんばかりの美しさはない方なのに、この方も近衛騎士団に属しているからか美しい方だ。
赤茶の髪、濃いグリーンの瞳。
日に焼けた肌は健康そうで、貴族とは違い血色が良い。服の上からではよくわからないが、きっと素敵過ぎる体格が隠れているだろう。
そんな方に見つめられると、胸が高鳴り落ち着かなくなってしまうわ!!
「? あの……」
「接点はそんなないのは、重々承知や。けど、自分は嬢ちゃんがええ」
「え?」
「大陸語で言うんなら……あんたに惚れてんだ。サフィア」
「!!?」
あり得ない、そんな事……と思わず逃げ出そうとしたら。
バーミィ殿に、素早く退路を阻まれてしまった。
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