上 下
82 / 784
メイドのまかない

第2話『さつまいものモンブラン』③

しおりを挟む
 黄金の輝き……に近いような黄色が強いクリームの渦。てっぺんにはチョコレートらしき四角いが薄い板。

 土台らしきケーキの部分は素朴だけど、それがかえって上のクリーム達を引き立たせてくれている。

 これを本当に、バーミィ殿が作られた?? イツキ殿のご指導があったとは言え。


「甘いもん好きやって、イツキはんに聞いたんや。……食べてくれへん??」

「…………いただき、ます」


 けど、せっかく作っていただいたのに……愛でているわけにはいかない。勧められたので、フォークを手に取り……ゆっくりと美しいケーキに切り込みを入れた。

 これまで口にしたことのあるケーキよりも、段違いに柔らかい。クリームも、土台のケーキの部分も。

 内側には白いホイップクリームがあった。わざわざ二種類のクリームを……私なんかのために、手作りしていただいた気遣いに、胸がじんと熱くなってきた。

 けど、今はこれを口にしよう。

 黄色のクリームだなんて、私は初めてだがどんな食材が使われているのか。イツキ殿の知るお料理はどれもが、王女殿下や王妃殿下が絶賛する程の美味揃い。

 私も一度、あの方が手がけた『ピーチモチ』と言うものをいただいた。以前王女殿下とご一緒に作られた、レモンモチと似ているようで全然違うモチ。冷たくて、柔らかくて……焼いたわけではないようだが、ピーチの果肉がごろんと入っていて、甘いペーストに何かが入っていた。

 美味しくて、すぐに食べ終えてしまうくらい。アレルギーの一件で私もバクス医師から診断を受けたが、特にアレルギーもなくピーチも食べられたので、この時ほどよかったと思わずにいられなかった。


(……だから、バーミィ殿が作られたこのケーキも)


 きっと、凄く美味しいに違いない。フォークで小さく切って、口に運ぶ。


(!? すっごく甘いのにしつこくない!?)


 黄色のクリームには何か練り込まれているのはわかるのに……食べたことのない甘さ。だけど、お砂糖をふんだんに使った甘さではない。

 食べたことがあるようなないような……やはり、わからない。

 だけど、


「美味しい……です」

「ほんま? よかったわ~」


 バーミィ殿は心底安心したような、苦笑いを見せてくださった。何故なのだろうか?


(何故……大して接点のない私に?)


 お茶会のお誘いもだが、私にお菓子を作ってくださったのだろうか?

 土台の部分と一緒にクリームを食べると、甘さと香ばしさ。生地のふわふわ感が絶妙でパクパク食べてしまいそうになるのを我慢した。

 メイドとは言え、私はこれでも伯爵家の末娘。

 お姉様達とは違い、レディではなくとも行儀見習いは殿下にお仕えする身としてそれなりに出来ると自負しているのだ。


「あの……バーミィ殿」

「おん?」


 私が声をかける時には、バーミィ殿もケーキを食べていらっしゃった。決して、紳士らしいマナーではないが冒険者出身である彼らしい食べ方だった。私は彼と出会う前ならそう言うマナーを疎んでいたのに、今はなんとも思わない。


「何故……私にこのようなお誘いを?」

「言ったやろ? 嬢ちゃんと話したかったんや」

「そう……ですが。あまり見かけないメイドと何故?」

「ん~、そやなあ?」


 バーミィ殿は、自分の指についたクリームを舐めてから私に振り返り、歯を見せて笑いかけてくださった。

 ラインシード様のような輝かんばかりの美しさはない方なのに、この方も近衛騎士団に属しているからか美しい方だ。

 赤茶の髪、濃いグリーンの瞳。

 日に焼けた肌は健康そうで、貴族とは違い血色が良い。服の上からではよくわからないが、きっと素敵過ぎる体格が隠れているだろう。

 そんな方に見つめられると、胸が高鳴り落ち着かなくなってしまうわ!!


「? あの……」

「接点はそんなないのは、重々承知や。けど、自分は嬢ちゃんがええ」

「え?」

「大陸語で言うんなら……あんたに惚れてんだ。サフィア」

「!!?」


 あり得ない、そんな事……と思わず逃げ出そうとしたら。

 バーミィ殿に、素早く退路を阻まれてしまった。
しおりを挟む
感想 319

あなたにおすすめの小説

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

復讐はちゃんとしておりますから、安心してお休みください、陛下

七辻ゆゆ
ファンタジー
「フィオネよ、すまな……かった……」 死の床で陛下はわたくしに謝りました。 「陛下、お気が弱くなっておいでなのですね。今更になって、地獄に落とされるのが恐ろしくおなりかしら?」 でも、謝る必要なんてありません。陛下の死をもって復讐は完成するのですから。

1000歳の魔女の代わりに嫁に行きます ~王子様、私の運命の人を探してください~

菱沼あゆ
ファンタジー
異世界に迷い込んだ藤堂アキ。 老婆の魔女に、お前、私の代わりに嫁に行けと言われてしまう。 だが、現れた王子が理想的すぎてうさんくさいと感じたアキは王子に頼む。 「王子、私の結婚相手を探してくださいっ。  王子のコネで!」 「俺じゃなくてかっ!」 (小説家になろうにも掲載しています。)

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。