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王女のまかない⑤

第2話『チョコレートショートケーキ』①

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 話……と言うよりも提案をしたかったのだ。


「​───────……ケーキ……ですか?」


 私の秘密を打ち明けても、変わらず王女として接してくれるイツキは私に頼みに目を丸くしていた。


「ちょっと……いいえ、だいぶ無茶な頼みだってわかっているわ。けど……作ってあげたいの。ネルに」


 クッキーとかでもいいかもしれないが、二年前やもっと昔の時でも、あの人は……私と一緒にケーキを食べてくれた。とても甘くて美味しくて、ネルも笑顔になってくれたのをなんとなく覚えている。

 だから、自分で作って渡して……ネルヴィスに返事をきちんとしたい。そして、私が転生者と打ち明けた上での返事も欲しいのだ。

 それをイツキに言うと、ぽんと手を叩いた。


「なるほど。リュシアーノ様としての誠意を見せるには、最善の方法かもしれません」

「……教えて、くれるの?」

「私でよければ。本職の方には劣りますが」

「イツキは向こうでも作ってたりしたの??」

「そうですね。家族の誕生日とかにですが」

「お願い」


 と言うことで、材料をまずイツキが厨房に行ってから集めて、執事バトラー達が運んでくれた。流石にサフィア達には重すぎる材料ばかりだもの。

 離宮にある簡易キッチンを、レモン餅以来初めて使うけど。まだ八歳で背丈も低い私には、しっかりした空箱に乗ることでなんとか出来ることにしたわ。


「さて、ケーキと言えば王道にショートケーキですね?」

「ネルはクリームたっぷりのケーキが大好きだもの」

「あとチョコがお好きでしたよね? チョコのショートケーキはいかがでしょうか?」

「イツキ、出来るの?」

「私の母が好きだったもので、毎年せがまれました」

「へー?」


 たしかに、女性はチョコに目がない。娘が作ってくれるケーキなら、美味しいと毎回頼むものかも。

 今から作るのは、ネルヴィスのためにだけど。


「まずは、ココアでスポンジケーキを作りましょう!」

「……そこはチョコじゃないの??」

「チョコを焼き込む場合もありますが、クリームにもチョコを使うので……今回はやめておきましょう。それともうひとつ」

「?」


 疑問に思っていると、イツキが苦笑いをしたわ。


「チョコの匂いでメイドさん達が集まってきてしまうかもしれないですから」

「……やめておくわ」


 サフィアは控え室にいるけど、別のメイドとかが集まったら質疑応答の嵐になるはず。それは避けたかった。

 とりあえず、手をよく洗ってから作ることにしたわ。

 まずは、卵、グラニュー糖に近い砂糖。ボウルに卵を入れて、お砂糖も入れる。これをお湯の入れたボウルに乗せて、泡立て器で混ぜていく。


「これを白っぽくなるまで、湯煎で泡立てていきます」

「……これ、電動泡立て器が欲しくなる作業ね?」

「お手伝いしますから、頑張りましょう?」

「ええ」


 とにかく、ひたすら……黄色から程遠い白っぽくなるまで混ぜることが出来た時は、まだ第一段階でもないのに、私は汗だくだくだった。

 さらに、クリームになるくらい混ぜてから……イツキがふるいでふるってくれたココアと薄力粉を加えて、木ベラでさっくりと混ぜた。さらに……日本だったらサラダ油だったのをここでは溶かしバターを入れて混ぜていく。


「下から持ち上げる感じで、さっくりと」

「勢いよくかき混ぜちゃダメなのね?」

「そうすると、スポンジの命とも言える膨らみが消えちゃいますから」

「イツキもやっちゃった?」

「最初の頃は……ですけど」


 体の大きさは違うけど……なんだか友達とお菓子作りをしている感覚が、なんか楽しいわ。

 生地を焼く時は、イツキにオーブンじゃなくて窯に入れるのをお願いしてふたりで次の工程に行くことになった。
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