上 下
40 / 784
王妃のまかない③

第4話 餅は産婦にダメ

しおりを挟む
 少し感触を確かめるように、陛下はモチを握っていた。そして、私が先に食べたこともだが……イツキが手がけた料理だと言うこともあり、なんのためらいもなく口にしてくださった。

 モチの食感、弾力の凄さに少し驚いていたが、モグモグと口を動かしながら夫である陛下は次第にお顔を輝かせていく。


「……美味い! この優しい甘さがいい!! しかし……本当にこれが、出産後の女の身体には良くないのか??」

「はい、陛下」


 イツキに声をかけると、彼女は大きく頷いた。

 立ちながらもだと、陛下の分の椅子も用意して三人でテーブルを囲んだ。私達だけならともかく、料理人のイツキが腰掛けるのは……この場でなければ異常に見えるかもしれない。だが、彼女は大事な私達の理解者でもある。


「詳しく教えてくれ」


 陛下が聞くと、イツキは今度は軽く頷いた。


「はい。餅と呼ばれる食材は……母乳を赤ん坊に与える母親にとっては食べないようにする食材です。同様に体を冷やす意味でナスも敬遠した方がいいと思います。餅の場合は母乳を出にくいように、胸に負担をかける可能性が高いのです」

「それもアレルギーか?」

「そういうのではないですね? 毒性とも違います。ただ、母乳は……古い知識ですが血から作られるものなので、血の巡りが悪くなる部分があると考えてください」

「…………聞いたことがないぞ?」

「私も……前の家族である母親から聞いた知識ですが」


 イツキの本当の家族。

 東方大陸はフェブラム大陸を含む西方大陸からはだいぶ離れているとは言え、帰れないわけではない。イツキの性格を考えると仲違いとかはしない雰囲気を感じるが……何かあったのだろうか?

 もし、私に出来ることがあれば助けてあげたい。

 しかし、もし東方大陸に戻れば……アーネストもだが私達ともお別れになる。それは、少し……いや、だいぶ悲しいわ。


「なるほど。その知識が確証を得られれば……ヘルミーナもだが、貴族に国民達への負担が軽くなるな」

「本当に申し訳ありませんでした。このようなものを差し入れしてしまって」

「なに、気づけばいい。それにヘルミーナも慌てていない。その病の域に達していないのであれば、俺もお前を叱りつけなどせん」

「……ありがとうございます。実は、ジェイシリアの生産ギルドにも……別のお餅のレシピを売ってしまって」

「わかった。ギルドマスターには知らせておこう。出産後の母親に向けてだけでいいか?」

「はい」


 それから陛下は、ピーチ餅の箱をどうするかと私に聞き、ならば臣下の者達にも食べさせた上で納得させようということになり……御自らお持ちになって私に部屋から退室した。

 イツキはと言うと、まだいくらか落ち込んでいたわ。


「気にしなくていいのよ? 私も食べ過ぎてはいないし、気づいてくれたんだもの。むしろ、食べ過ぎる前にイツキが思い出してくれてよかったわ」

「はい……次はないように気をつけます」

「けど、困ったわ。私このモチが大好きになったのに……」


 しばらく食べられなくなるのがはがゆく感じるわ!


「伸びる性質がある餅もですが、お団子もしばらくはダメですね? 代わりに、粉を使ったおやつはご用意出来ますが」

「まあ! なにかしら?」

「お好み焼きというものです」

「オコノミ……ヤキ??」

「小麦粉と野菜などを使って、香ばしいソースなどを塗った焼き物です」


 魅惑的な料理。

 せっかくだから、リュシアも呼んで一緒に食べようかしら??
しおりを挟む
感想 319

あなたにおすすめの小説

復讐はちゃんとしておりますから、安心してお休みください、陛下

七辻ゆゆ
ファンタジー
「フィオネよ、すまな……かった……」 死の床で陛下はわたくしに謝りました。 「陛下、お気が弱くなっておいでなのですね。今更になって、地獄に落とされるのが恐ろしくおなりかしら?」 でも、謝る必要なんてありません。陛下の死をもって復讐は完成するのですから。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。