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王妃のまかない③

第1話 王妃とイツキ

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 ジェラルドが生まれて、そろそろ二週間。

 私はイツキを呼びたいと思い、厨房に遣いを出して彼女・・を自室に呼び寄せた。女性とわかったのは偶然だけど……ジェラルドの出産の時に、手助けしてくれたのは他でもないイツキ。

 だから、お礼を言いたいと思ったの。あの時のレモンモチと言うのは本当に美味しかったし、出来ればその……また作って欲しかった。


(だって、先輩の料理もだけど……イツキのはとても口に合うんだもの)


 それと、確かめたいことがもうひとつあるのだけれど。女性用の服を用意しようと思ったが、事情を知るリュシア付きのサフィアがイツキの服を預かっていると知り……なら、とサフィアに案内も含めて頼むことにした。

 イツキが来たのは、ちょうどジェラルドに乳を上げた後くらいだったわ。


「……お招きありがとうございます。王妃様」


 完全な正装ではないが、彼女は貴族ではないのでそこは気にしない。だが、女性らしい服装と化粧をすると……男性と間違えてしまっていたことが恥ずかしく思えるわ。けれど、それはワルシュ先輩の采配らしいが。


「いらっしゃい、イツキ。いつも通りでいいのよ?」

「いいんでしょうか……??」

「ふふ。私達だけだもの」

「王妃殿下。イツキ殿から差し入れをいただきました」

「まあ、何かしら??」


 急に呼んだのに、手土産をもらえるだなんて……ちょっと、いいえ。だいぶ期待してしまっているわ。ジェラルドを寝台に寝かせてから、私は自分の足でサフィアの方へと向かう。


「ちょっと冷たい、甘いものです」


 冬は明けたが、少し冷たいものは嬉しい!

 今は春とは言え、まだまだ風とかは冷たい。ジェラルドにも風邪を引かないようにあったかくさせているからだ。


「ありがとう。イツキ、これは数は多いのかしら?」

「? はい。そこそこご用意しました」

「なら。サフィア、あなたとリュシアの分を持っていきなさい?」

「! よろしい……のでしょうか?」

「イツキの秘密を共有しているもの? それに、あなたはなかなかイツキの料理は食べれないだろうから」

「……わかりました。頂戴致します」


 なので、箱の蓋を開けてみると……うっすらとピンク色を何かが白いものに包まれたのが敷き詰められていた。

 私がひとつ持ち上げると、少し重く……だが手触りがまるで羽根のように心地良かった。


「そちらはピーチを使ったお餅です」

「まあ、これもモチなの??」

「…………失礼ながら、かなり大きいですね?」

「勢いよく食べて喉を詰まらせないようにしてください」

「……わかりました」


 サフィアが私達のお茶と、モチを皿に載せたりしてから……私の指示通りにリュシアと自分の分のモチを小箱に入れて持って行った。

 別にメイドはいるが、今日はイツキと話がしたいので下がらせている。


「イツキ、王子はジェラルドと言う名前になったの」


 うとうとしかけていた息子をゆっくりと抱き上げ、イツキの方に近づいた。イツキは子供が嫌いじゃないのか私がジェラルドを見せるとにっこりと笑ってくれたわ。


「可愛らしい赤ちゃんですね?」

「ええ。あなたも手伝ってくれたお陰よ?」

「私は……リュシアーノ様と一緒にレモン餅を作っただけですし」

「それでも、よ。あれは本当に美味しかったわ。…………抱っこしてみる??」

「…………やってみます」


 抱っこするのは慣れていないようだが、私が教えてあげて抱えた時の表情は……まるで女神のような慈愛の深い微笑みを浮かべてくれた。
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