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騎士のまかない⑥
第3話『魅惑のカレードリア』①
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イツキの『まかない』を食べる時間帯はだいたい深夜が多かったが、今回は違う。
まだ日も出ていて、厨房はワルシュ料理長や他の料理人達が忙しなく動き回っている。イツキは今日、俺と出かけていることで休暇を申請していたが……彼女の現在の住まいはワルシュ料理長が所持していた管理室だ。どうしたって、ここに戻ってきてしまうのは仕様がないのだ。
「お? 早いじゃねぇか、坊」
ネルヴィス隊長とは違い、まだまだ若輩者でしかない副隊長の俺は、ワルシュ料理長には子供扱いされても仕方がない。
だが、イツキと交際している事は認めてもらえているので、俺は呼ばれると軽く会釈はした。
「ただいまです、料理長」
「おう。つか、なんで坊も連れてきた??」
「試作していた『あれ』を召し上がっていただきたくて」
「『あれ』……か。完成したのか??」
「はい。ほぼ完成です」
「……何を作ってくれるんだ??」
二人の間に割って入ると、二人揃っていい笑顔になった。
「『カレーライス』と言う料理です。それをまかない用に、ちょっとだけ豪勢にして『カレードリア』にしちゃいます!」
「カレー?? ドリア??」
「実は今日召し上がっていただこうと思っていたので、下拵えは済んでいます。待っててください!」
と言って、厨房に入ってしまったので俺は料理長の隣に立っているしか出来なかった。
すると、料理長はいきなり俺の頭をガシガシと撫でてきた。
「いい笑顔にしてくれんじゃねーか? あんな笑顔、ここに来てから見たことがねぇ」
「……どうも」
たしかに、イツキはこちらが見惚れるような笑顔を向けてくれた。今日一日、城下町に行っただけでも……異世界から来た彼女にとっては目新しいものだったかもしれない。だが、食文化が富んでいる彼女の世界の方がきっと素晴らしいと思うのに……俺といてよかったのだろうか?
今更ながら、自信がなくなってきた。
いつか、彼女が元の世界に帰るとしたら……俺は、きっと発狂だけで済まないだろうから。
「んで? 今日はジェイシリアのギルド行ってきたのか?」
料理長の声に、俺は沈んでいた気持ちを切り替えることにした。
「……はい。ギルドでは問題なく……と言いたいところですが、イツキが特級料理人だと言う事実はカード作成の際に知られてしまいました」
「そこだけはしょーがねぇよ。他には?」
「イツキのレシピがかなりの金額になり……その金は俺が預かっています」
「んじゃ、そのまま持っとけ。イツキが使う機会はそうそうねぇ……。お前さんと出かける時くらいだろ」
「……わかりました」
「覇気ねぇなあ? 俺ぁ、これでも認めてるんだぜ?」
「…………」
先程の考えがまた戻ってきた。
いつか、絶対、などと可能性がないとは言い切れない。
まだ一年もいないのだ、イツキは。だから、その『いつか』がいつになるのかもわからない。今日一緒にデートに出かけたことで……今更ながら思ったのだ。
この先もを思うと……早く結婚をして彼女を縛り付けたいなどと、浅ましい思いまで湧いてくる。
「アーネストさん! お待たせ致しました!!」
そんな暗い考えをしていると、イツキが戻ってきた。
手にしていたのは、盆の上に熱々の焼けたチーズの匂い以外に……これまでにないくらい、食欲をかき立てる独特の香辛料の香りがした。
まだ日も出ていて、厨房はワルシュ料理長や他の料理人達が忙しなく動き回っている。イツキは今日、俺と出かけていることで休暇を申請していたが……彼女の現在の住まいはワルシュ料理長が所持していた管理室だ。どうしたって、ここに戻ってきてしまうのは仕様がないのだ。
「お? 早いじゃねぇか、坊」
ネルヴィス隊長とは違い、まだまだ若輩者でしかない副隊長の俺は、ワルシュ料理長には子供扱いされても仕方がない。
だが、イツキと交際している事は認めてもらえているので、俺は呼ばれると軽く会釈はした。
「ただいまです、料理長」
「おう。つか、なんで坊も連れてきた??」
「試作していた『あれ』を召し上がっていただきたくて」
「『あれ』……か。完成したのか??」
「はい。ほぼ完成です」
「……何を作ってくれるんだ??」
二人の間に割って入ると、二人揃っていい笑顔になった。
「『カレーライス』と言う料理です。それをまかない用に、ちょっとだけ豪勢にして『カレードリア』にしちゃいます!」
「カレー?? ドリア??」
「実は今日召し上がっていただこうと思っていたので、下拵えは済んでいます。待っててください!」
と言って、厨房に入ってしまったので俺は料理長の隣に立っているしか出来なかった。
すると、料理長はいきなり俺の頭をガシガシと撫でてきた。
「いい笑顔にしてくれんじゃねーか? あんな笑顔、ここに来てから見たことがねぇ」
「……どうも」
たしかに、イツキはこちらが見惚れるような笑顔を向けてくれた。今日一日、城下町に行っただけでも……異世界から来た彼女にとっては目新しいものだったかもしれない。だが、食文化が富んでいる彼女の世界の方がきっと素晴らしいと思うのに……俺といてよかったのだろうか?
今更ながら、自信がなくなってきた。
いつか、彼女が元の世界に帰るとしたら……俺は、きっと発狂だけで済まないだろうから。
「んで? 今日はジェイシリアのギルド行ってきたのか?」
料理長の声に、俺は沈んでいた気持ちを切り替えることにした。
「……はい。ギルドでは問題なく……と言いたいところですが、イツキが特級料理人だと言う事実はカード作成の際に知られてしまいました」
「そこだけはしょーがねぇよ。他には?」
「イツキのレシピがかなりの金額になり……その金は俺が預かっています」
「んじゃ、そのまま持っとけ。イツキが使う機会はそうそうねぇ……。お前さんと出かける時くらいだろ」
「……わかりました」
「覇気ねぇなあ? 俺ぁ、これでも認めてるんだぜ?」
「…………」
先程の考えがまた戻ってきた。
いつか、絶対、などと可能性がないとは言い切れない。
まだ一年もいないのだ、イツキは。だから、その『いつか』がいつになるのかもわからない。今日一緒にデートに出かけたことで……今更ながら思ったのだ。
この先もを思うと……早く結婚をして彼女を縛り付けたいなどと、浅ましい思いまで湧いてくる。
「アーネストさん! お待たせ致しました!!」
そんな暗い考えをしていると、イツキが戻ってきた。
手にしていたのは、盆の上に熱々の焼けたチーズの匂い以外に……これまでにないくらい、食欲をかき立てる独特の香辛料の香りがした。
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