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騎士のまかない⑥
第2話 メイドからの伝言
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ただ、イージアス城でイツキが女性の服装のままでいるのは、まだ大っぴらに広めることは出来ない。城門の兵士達は言いふらしていないと思うが……帰城しても、行きとは違って忠実に職務をこなしていた。
ひとまず、どこかで隠れてからイツキに男装用の着替えを渡そうとしたが。
「帰って来る時に、離宮に来てほしいとサフィアさんに言われたんです」
行きの服装を用意した、王女殿下付きの第一メイドがそう言うのであれば、受けないわけにはいかない。だが、離宮まですれ違う人間にイツキを知っている相手がいないとも限らないので俺のマントを羽織らせた。
頭を頭巾のように被せてから、チラチラと見られはするがイツキだとは思われていないはず。
とりあえず、離宮に着くと入り口のところにサフィア殿が何故か待ってくれていた。
「……知らせてはいないのだが」
「いえ、ハインツベルト殿のお連れになられている女性についての噂が飛び交いまして。先程、帰城なされてからはこちらに向かわれるはずですのでもしや……と、参上した次第です」
「……目立つか?」
「あなた様はご自分の地位をもう少しお考えください」
歳下のメイドに言われるとは、少し情けないが自覚しろとも言われたならば注意するしかない。うちのネルヴィス隊長の方が美貌が遥か上なので、俺など普通程度に思っていたからだ。
とにかく、イツキを着替えさせるのが優先なので俺は別室で待たされて、サフィア殿はイツキの着替えや購入した服を保管する作業をしてくれた。
王族とごく一部がイツキを女だと知るとは言え、まだ陛下のご意向で城内に知れ渡るわけにはいかない。が、今朝すれ違った時にバレた可能性もないとは言い切れないが。
(もし、イツキの立場が危ぶまれたら……俺は彼女に婚姻を申し込む!)
それくらいの覚悟は、とうに心に決めていた。
アレルギーへの実績もあるのだから、実家もこれ以上にないくらい名誉だと思うだろう。
しかし、そうするとイツキのしたい料理が作れなくなってしまう。それだけは、なんとかしなくてはいけないが。
「お、お待たせ致しました!」
着替え終わったイツキは、化粧も落としていつも通りの男装のイツキに戻った。それだけなのに、妙な安心感を覚えた。
俺が、はじめ男だと思いかけていたのに惚れたからだろう。
「いや。そんなにも待ってはいない」
「そうですか? それなら良かったのですが」
イツキがほっとした表情になると、彼女の後ろからサフィア殿もやってきた。
「では、イツキ殿。あなた様の衣類などは、こちらに保管しておきます。御入用の時は、私にお申し付けくださいませ」
「お世話をおかけします」
「いえ。王女殿下も楽しんでいらっしゃいましたので。……つきましては、殿下からお願いがありました」
「お願い、ですか??」
たしかに、無償でイツキの服を貸したのだから、殿下から何かしらのお願いがあっても不思議ではない。
「はい。また新しいお料理を教えてもらえないかと」
「今から……ですか?」
「いえ。明日以降、ご都合のよろしい時に」
「わかりました。試作もしたいので、明日にお教えします」
「かしこまりました」
と言うわけで、殿下への約束をしてから俺は彼女を厨房まで送り届けようとしたが。
「アーネストさん。お腹、空いていますか??」
「軽く……だが。サフィア殿に言った試作か?」
「はい。私の故郷だと定番ですっごく人気のある料理を最近色々試していたんです」
「! それは……是非食べてみたい」
今日だけでいくつもの、異世界のレシピを知ったと言うのに……また新しいものを知れて嬉しくないわけがない。
ましてや、試食係だけでなく、恋人として……嬉しい限りだった。
ひとまず、どこかで隠れてからイツキに男装用の着替えを渡そうとしたが。
「帰って来る時に、離宮に来てほしいとサフィアさんに言われたんです」
行きの服装を用意した、王女殿下付きの第一メイドがそう言うのであれば、受けないわけにはいかない。だが、離宮まですれ違う人間にイツキを知っている相手がいないとも限らないので俺のマントを羽織らせた。
頭を頭巾のように被せてから、チラチラと見られはするがイツキだとは思われていないはず。
とりあえず、離宮に着くと入り口のところにサフィア殿が何故か待ってくれていた。
「……知らせてはいないのだが」
「いえ、ハインツベルト殿のお連れになられている女性についての噂が飛び交いまして。先程、帰城なされてからはこちらに向かわれるはずですのでもしや……と、参上した次第です」
「……目立つか?」
「あなた様はご自分の地位をもう少しお考えください」
歳下のメイドに言われるとは、少し情けないが自覚しろとも言われたならば注意するしかない。うちのネルヴィス隊長の方が美貌が遥か上なので、俺など普通程度に思っていたからだ。
とにかく、イツキを着替えさせるのが優先なので俺は別室で待たされて、サフィア殿はイツキの着替えや購入した服を保管する作業をしてくれた。
王族とごく一部がイツキを女だと知るとは言え、まだ陛下のご意向で城内に知れ渡るわけにはいかない。が、今朝すれ違った時にバレた可能性もないとは言い切れないが。
(もし、イツキの立場が危ぶまれたら……俺は彼女に婚姻を申し込む!)
それくらいの覚悟は、とうに心に決めていた。
アレルギーへの実績もあるのだから、実家もこれ以上にないくらい名誉だと思うだろう。
しかし、そうするとイツキのしたい料理が作れなくなってしまう。それだけは、なんとかしなくてはいけないが。
「お、お待たせ致しました!」
着替え終わったイツキは、化粧も落としていつも通りの男装のイツキに戻った。それだけなのに、妙な安心感を覚えた。
俺が、はじめ男だと思いかけていたのに惚れたからだろう。
「いや。そんなにも待ってはいない」
「そうですか? それなら良かったのですが」
イツキがほっとした表情になると、彼女の後ろからサフィア殿もやってきた。
「では、イツキ殿。あなた様の衣類などは、こちらに保管しておきます。御入用の時は、私にお申し付けくださいませ」
「お世話をおかけします」
「いえ。王女殿下も楽しんでいらっしゃいましたので。……つきましては、殿下からお願いがありました」
「お願い、ですか??」
たしかに、無償でイツキの服を貸したのだから、殿下から何かしらのお願いがあっても不思議ではない。
「はい。また新しいお料理を教えてもらえないかと」
「今から……ですか?」
「いえ。明日以降、ご都合のよろしい時に」
「わかりました。試作もしたいので、明日にお教えします」
「かしこまりました」
と言うわけで、殿下への約束をしてから俺は彼女を厨房まで送り届けようとしたが。
「アーネストさん。お腹、空いていますか??」
「軽く……だが。サフィア殿に言った試作か?」
「はい。私の故郷だと定番ですっごく人気のある料理を最近色々試していたんです」
「! それは……是非食べてみたい」
今日だけでいくつもの、異世界のレシピを知ったと言うのに……また新しいものを知れて嬉しくないわけがない。
ましてや、試食係だけでなく、恋人として……嬉しい限りだった。
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