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ギルドマスターのまかない

第1話 生産ギルドマスター

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 いつも以上にそわそわしてしまう。

 もともと、私は仕事以外で落ち着く様子だなんてないかもしれないけれど……今日は特別も特別。

 我が国、イージアスでかつて唯一だった英雄級の称号を持っていたワルシュ=エイペック殿の養女殿が……このジェイシリアの生産ギルドにやって来られるのだ。冒険者ではなく、生産者として登録するために。

 彼女は、そちらの技量があるらしい。今はイージアス城の料理長でいらっしゃるワルシュ殿もそうだから、納得の判断だ。だが、いつ養女を引き取られたのだろうか??

 このジェイシリアにも、噂程度ですら広まっていない。事前の通達が来るまで、私も知りもしなかった。

 通達をもう一度読み返していると……ドアの方からノックが聞こえてきた。


「ギルマス、ハインツベルト様方を応接室にお通し致しました」

「……ご苦労様。私もすぐに行こう」


 ギルマスとしての態度に切り替えて、臆病者の私を引っ込めた。そんな私を知るのは副ギルマスを含めてごく一部だが、今日は所用で副ギルマスはいない。私がしっかりしなくては。

 受付嬢がすぐ近くの応接室の扉で待機してくれていたので、飲み物にコーヒーを持って来るように頼んだ。

 ノックをして扉を開ければ、ソファには艶やかな黒髪の女性と栗色の短髪の男性が座っていた。


「! ギルマス!」

「少しぶりですね、ハインツベルト殿」


 彼が近衛騎士団の副隊長になった時以来かな?

 私もその頃に、前任者のギルマスからギルドを受け継いだばかりですが。


「あの……はじめまして、イツキ=エイペックと申します」


 黒髪の女性が、例のワルシュ殿のご養女。

 ソファから立ち上がり、ぎこちないがゆっくりとお辞儀してくださった。ワルシュ殿もだが、彼女も貴族の出身ではないのだろう。しかし、今日の予定ではそう言ったのは一切関係がない。


「はじめまして。生産ギルドのマスターをさせていただいています。キーシュ=ディラルと言います。本日のご用件は、ワルシュ殿からお聞きしていますよ? うちで正式に身分証をお作りしたいと」


 ただ、私より少し年下くらいのお嬢さんに身分証が必要なのは少し不思議でしたが。ワルシュ殿からの通達通り、下手に介入はしないでおこう。


「ああ。諸事情で、彼女には身分証がないんだ。だから今日、ここに来た」


 ハインツベルト殿も承知の上なのだろう。それと、彼らの距離が近いような……そこについては今聞くべきではないので後回しにすることにした。


「でしたら、ひとつ。ワルシュ殿からの通達にあったのですが……イツキさんに、いくつかレシピを書き出して欲しいんです」

「レシピを……ですか??」

「ワルシュ殿のご養女でもあられますから、腕試しを……と彼からのご提案です」


 なんで、わざわざそんなことをされるのか、通達をいただいた時にはよくわからなかったが。

 澄んだ茶の目をしている、この愛らしいお嬢さんの目を見る限り……私も少々気になったのだ。何故、このお嬢さんを養女にされたのか。

 ワルシュ殿が気にいる理由を少しばかり知りたかった。
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