スライムからパンを作ろう！〜そのパンは全てポーションだけど、絶品！！〜

第497話 依頼の理由

　いきなりの依頼なのは無理もない。

　マーベラス殿への依頼よりも、もっと若手の……実力もＡ未満のランクの鍛治師に伝えようとしているのだから。

　だが、逆に彼らくらいが可能としなければ、世に広く流通しないのでこちらとしても意味がない。

　フィルム……まあ、そんな包装紙はこの世界に影も形もないからな。他所の世界からの転生者である私やケントだから、知ってて当然の産物。

　それを生み出し、世に広めれば……多少なりとも衛生などで貢献が出来るし、生活へも大きく影響するだろう。……無論、ゴミ問題などの対策もきちんと考えているぞ？


「……とにかく、急ぎでなくともいい。じっくり試行錯誤を重ねて開発していきたいんだ」

「お願いします」


　私がロイズの対応に呆れていると、ケントはケントで深く腰を折って懇願していた。相変わらず……日本人の堅実さの塊と言わんばかりに、律儀な性格だ。多少ひねくれた私とはえらい違いだな。私とて、レイアという存在が出来たことで心の余裕は出来たが……こちらに転生して三十年以上経つと、どうも前世の社畜生活のルーティンと比較してしまうからな。今も今である意味似てはいるが。


「……二人がわざわざこう言うんだぜ？　自信持てよ」

「……はい」

「俺、頑張ってみるっす！」


　マルスはまだ不安そうだったが、エッジの方はやる気が出たようだ。ケントの礼儀を見て感心したかもしれん。たしかに、ケントは若いなりに礼儀正し過ぎる青年だからな。


「エッジ？」

「チャンスっすよ、マルス。ギルマスがわざわざ俺らを紹介してくれたんだ。仕事の数より質。イコード様じゃなく、わざわざＢランクの俺らにっすよ？　いい機会だと思う！」

「……うん」


　ランクＢ……それでこの年齢にしてはまあまあの質だ。けど、過信もしてないし、かといって全然自信がないわけでもないようだ。冒険者を引退して十年くらい経つロイズの慧眼はこう言うのにも役立っていたか。いいことだ。


「俺は受けたいっす！　お願いします！！」

「……僕も、お願いします！　ご指導のほどよろしくお願いします！！」

「はい！」

「承知した」


　いささか弱いところもあったが、無事に段取りが進められそうになったので。

　いかに異世界知識を出さずに説明するのは苦労したよ……。


(フィルムは食材以外の包装にも役立つからな)


　レイアの花屋でも役立てるようになれば、花束や籠のアレンジもしやすくなるだろう。少し忙しくなる前に、久しぶりにデートにでも連れ出してやりたいものだ。ジェイドにもせっつかれているしな……。