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第435話 ニーズに合わせて

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 具材達が出来上がったら、成形前にひと休み。

 麦茶はこの世界にないけど、紅茶をアイスミルクティーにしたものを全員に配ってあげた。会計側はラティストとルカリアちゃん担当だけど、さすがに仕事中にはいちゃいちゃしないようにしている。……と言うより、しないで、って釘を刺した。

 下手すると、お客さんからのクレームで例の女冒険者さん達のようになるから……迷惑かけないように、自制させているんです。

 僕だって、エリーちゃんとしばらく会えないからいちゃいちゃ出来ないんだもん! 八つ当たりじゃないけど、手を繋ぐ以外のいちゃつきはラティストの大胆さに比べると小粒くらい。ええ、そうですともチキンガイですよ。ちくせう!

 さておき、売り上げを教えてもらうといつもよりちょっと上くらいの金額だった。


「ケント……店長。フレンチトーストがお母様方にとても人気ですわ。お子様方へのおやつに買いたいので、もう少し増やしてほしいと」


 ルカリアちゃんは『様付け』が定着しかけてたので、働く時はと店長呼びをお願いしている。やっぱり恥ずかしいし、事情を知らないお客さんには不思議に思われちゃうから。ちなみにラティストは副店長にしている。


「そっか。プレーン? メープル?」

「より好まれるのはメープルでしたわ。プレーンはその後に売り切れました」

「樹液の仕入れ次第だなあ。今メープルタブレットの仕込みに、お師匠さんへ依頼してるところだから」


 それで作るものは、メープルメロンパン!

 タブレットを生地に包んで、あとは普通のメロンパンと同じようにして焼けば……中身はしっとりあんまいメープル味の生地の出来上がり。これ、専門学校時代に教わったんだよねー?

 お師匠さんに話したら、すっごく乗り気になったから開発してくれることになったんだ。だから、メープルシロップの仕入れを生産ギルドは主にお師匠さんのところに流しているので、うちは最低限にしか今扱っていない。

 しかし、ニーズには応えたいのでこれはまた検討しよう。


「サンドイッチは、そろそろフィリングを変えた方がいいな。売れ方が少し悪い」

「まっかせて! 今リトくんと試作してるんだ」

「ほお?」

「まあ! 何ですの?」

「試作出来るまで待ってて。会計の精算が終わったら、食べられるようにするから」

「わかった」

「お任せください」


 そうと決まれば、とミルクティーをごくごく飲んでたリトくんの手を洗わせ、次はコッペパンの成形。

 長細い生地を叩いて折って、折って、包んで閉じて……ころころ転がして整えたら出来上がり。


「……むずかしそう」


 簡単にやってみせたけど、この言葉が出るのは仕様がない。専門学校入学したてだった時の僕もそうだったから。


「ゆっくりでいいから、ひとつひとつ手順をこなそう」

「……はーい」

「失敗してもいいんだ。失敗したら、何がダメだってわかるのも修行のひとつ!」

「! しゅぎょー!」

「うんうん」


 もっと大人になってからパンの製造員になると夢見てたけど。転生しても、こんな若手の僕が店を持つだなんてね。

 家族もだけど、先生達は目を丸くするだけじゃ済まないだろうなあ?

 とりあえず、リトくんは慎重になり過ぎてガス抜きを調整するところから教え直すことにした。
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