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第354話 ちょっと、寂しい

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 先生……ううん、ヴィンクスさんがお城に呼ばれてしまった。

 今日は、年に一度の祝典だから……こ、恋人に晴れてなったことで、ヴィンクスさんからはデートの申し込みを以前されたのだけれど。

 数日前に、物凄く残念そうな顔でうちに来てくださって『城に呼ばれることになった……』と、デートが出来なくなるのを、本当に残念がっていらしたわ。

 私もそれなりにショックは受けたけれど、お城に呼ばれたのなら仕方がない。ヴィンクスさんは、すっごいランクの錬金術師だもの。私の目を完治させるくらいのポーションも作り出した凄い人。ひょっとしたら、その功績が認められたかもしれない。

 だから……喜ばなきゃいけないんだけど。


「……デート、かあ」


 ヴィンクスさんもだけど、たくさんの人達(大精霊様もだけど)のお陰で……私は生涯無理だと思っていた、目の障害が無くなった。

 お母さんやお父さんもすごく喜んでくれて、ヴィンクスさんとお付き合いを始めることも……最初はめちゃくちゃびっくりしてたけど、すぐに『娘をよろしくお願いします!』って言ってくれたから……公認のお付き合いをすることにはなった。

 でも、最初はデートより感覚を慣れさせる訓練ばかり続いた。呪いだったとは言え、ほとんど盲人に近かった私は最初あちこちにぶつかることが多かった。

 今までは気配で避けたりしていたのに……これでは障害があった時よりひどいと思うくらいに。だけど、ヴィンクスさんのお顔がきちんと見れることがすっごく嬉しいから……リハビリもがんばってこなすことが出来た。

 おかげで、お店の仕事とかはだいぶマシになったのだけど……お出かけが出来ないのはそれなりに残念だと思うのは私も同じで。

 今まで以上に、しっかりおめかししてヴィンクスさんと楽しみたかったのに……祝典は今日だけだから、明日からはまた日常に戻ってしまう。そんな特別な日に、一緒にお出かけしたかったが……ひとりで回ってもつまらないので、大人しく家の方を手伝うことにした。今日は花束の注文がたくさん来たわ。


「レイアー? 休憩してきなさい」


 無心で仕事をしてたら、お母さんにそう言われたので……仕方ないけど、まだリハビリがマシになったくらいなのでずっと働くのは結構体に負担がかかる。少しずつ慣らしていくしか出来ないので、そこは従うしかない。

 部屋にゆっくり戻って、ベッドにゴロンとはなったけど……やっぱりひとりになると寂しさが込み上げてきた。ヴィンクスさんに、会いたいって気持ちが。

 お店に行っても……ジェイド、さんも多分いないだろう。あの綺麗なお兄さんは、実は創始の大精霊のお一人なので……契約者であるヴィンクスさんと一緒に行っているだろうから。

 だが、そこで私はひとつ思い出した。創始の大精霊様と言えば、ヴィンクスさんのお弟子さんであるケントさんも契約されている方がいた事を。その大精霊であり、恩人であるラティスト=ルーア=ガージェンさ……ん、にもきちんと御礼を告げていないのを思い出したのだ!!


(……ケントさんの方は、呼ばれているってお話聞いてないし。もしかしたら、屋台をされているかも)


 お母さん達のお昼ご飯を買いに行くのはついででも、ちゃんと挨拶しに行こう。結構時間が経っているのに、自分の事ばかりでつい忘れてしまっていた。

 なので、お母さん達に大精霊様の正体は伏せて、ケントさんのお店に行くことを告げると……お母さんが大ぶりの花束をすぐに用意してくれた。


「あたし達も行きたいけど、ちゃんとお礼言うんだよ?」

「うん!」


 お金もそこそこ渡してくれたので、お母さん達のもだけど……ヴィンクスさんが欲しそうなポーションパンも買おうかな? でも、私……亜空間収納の魔法は使えないんだったわ。だから、パンは家族の分だけにすることに決め、軽く身支度をしてから外へと足を運ぶ。
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