上 下
156 / 603

第156話 御使の買い物

しおりを挟む
 さて、やっては参りましたが。


(……神も、わがままなものですが)


 私とて、恩人であるあの青年が……異世界への転生を受け入れたとは言えど。

 こんなにも早く、神がお望みの……世界への回復薬流通を計画していたことが実現してしまうとは。

 私が、人間の少女へと化け、あの者……諏方スワ賢斗ケントの経営するポーションパン屋『スバル』の前に到着しました。

 一見すると、ごく普通の店にしか見えませんが……中から感じる、大精霊の加護は凄まじいものです。

 神に直談判に来た、あの創始の大精霊が……余程、ケントを気に入った証拠でしょう。

 客足を見ると……昼過ぎと言うこともあり、だいぶ落ち着いている模様。

 狙うなら、今ですね。

 警護をしている冒険者達の様子も少し見てから……店内に入ってみます。

 扉を開けると、久しく嗅いでいなかった……食事の匂いがしました。甘かったり、香ばしかったり……これは、水鏡越しに神が羨ましがるのも仕方がありません。


「あ、いらっしゃいませ」


 声を掛けてくださったのは……ケントでした。私があの白猫だとは当然知らないでしょうから、気が付かなくても無理はありません。

 私を助けようとした……あの時と同じ、そのままの姿で神は転生をさせましたが。どうやら、うまく馴染んでいるようです。


「……どうも。ここには初めて来るのですが。どのように商品を選べば?」


 水鏡越しに見ていたとは言え、実際に購入するのは初めてですから。

 その初めてを上手いこと利用しましょう。ケントとももっと話してみたいですし。


「あ、はい。そちらのトレーとトングを持ってください。それを使って……棚にある買いたいパンを乗せてから……僕のいるところに来てください」

「……なるほど」


 実にシンプル。

 ポーションと言う……希少なものでも、これらは食べ物。

 薬品と違い、日持ちがしにくいために……このような購入方法なのでしょう。万引きなどの愚かな行為は……大精霊の加護があることで、すぐにひっかかりますしね?

 外に居る冒険者らがすぐに連行してくれるようですし。

 愚かな貴族らも……バックアップの伯爵以上に、国王が気に入った相手と言うこともあり、だいぶまびきが片付いている模様。

 他国からの派遣も……友好国を筆頭に、同じような改革が進んでいるようです。

 だから……まだ平和な営業をケントは出来ているのでしょうね?

 とりあえず……なくなっているパンは多かったですが。

 神が求めていた……『ケーキ』と言うのはきちんとありました。

 値段は少し高めと言うこともあり、あまり減っていません。

 あちこちを見てから……私はケントを呼ぶことにしました。

 もちろん、ケーキを『すべて』購入するためです!


「……本当に全部でいいんですか?」

「……頼まれたもので」

「……あまり日持ちしませんよ?」

「亜空間収納はありますし、お金もきちんと払います」

「わかりました」


 他にも『シチューパン』が二個程度あったので……無事購入出来ました。

 持たされたお金はだいぶ使いましたが……神からの願いですから当然でしょう。

 来た時同様に、ひと目のつかない場所で神域に戻れば……。


「おおお!!?」


 と、品をすべて出せば……神は大層お喜びになられましたよ。

 しかし……ケーキにはポーション効果は無いものの、予想以上の美味を私も堪能させていただきましたので、納得しました!

 あと!

 猫ですが、玉ねぎたっぷりのシチューパンと言うのも絶品過ぎです!!
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました

ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。 そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。 家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。 *短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜

田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。 謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった! 異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?  地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。 冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)

土岡太郎
ファンタジー
 自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。 死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。 *10/17  第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。 *R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。  あと少しパロディもあります。  小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。 YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。 良ければ、視聴してみてください。 【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮) https://youtu.be/cWCv2HSzbgU それに伴って、プロローグから修正をはじめました。 ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo

処理中です...