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第132話 お師匠さんと弟子のスライム

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 ケントが不在。

 エディ……いいや、エリシオン国王陛下とケントが遊びに行ってしまったのだ。


(……まさか、陛下がお忍びで来ただけでなく……ケントと友達になっているとは)


 まさしく、ラノベであったような展開だが……あの様子だと、ケントは陛下がこの国の王だとは知らないはず。

 私の顧客に陛下がいることは以前に伝えたが、名前は教えていなかったからな?

 そのケントには、ラティストも霊体化でついて行ったし……もし何か起こっても大丈夫だろう。陛下も腕っぷしは強いが、創始の大精霊も一緒なのだから。

 で、私はパン屋の留守を預かったのだが。


「「…………」」


 私一人ではない。

 ケントにとって、ポーションパン製造においては大事な要であるスライム……獣魔のカウルも一緒だ。

 話したことがないわけではないが……二人きりと言うのは初めてかもしれない。

 カウル自身も調理台の上で、私とどう会話していいか困っている様子だ。

 汗……のような形のものが表面にダラダラと流しているしな?

 かと言えど、このままでは良くない。

 私は今、彼とも無関係でいるわけにはいかないからな。


「……あー、カウル」

「あ、あい」


 呼びかけには応じてくれるようだ。

 まだ汗模様はあるが、無視する気ではないらしい。


「……ケントの師ではあるが。普通に接してくれて構わない」

「……お師匠はん?」

「……君にも師となるか?」

「……ケン兄さんがそう呼んでいたもんで」


 たしかに弟子のテイムした獣魔であれば、仕方がない反応か?


「……まあ、悪くは思わない。ところで、二人だけならどうする? ケントからは、ここを使っても良い許可は出たが」


 神とやらが……ケントに与えた、『オープンキッチン』。

 部屋の中に、こちらだと違和感満載の……業務用厨房が展開されているのだ。

 こちらの世界に転生して数十年……どこか懐かしくも感じるこの厨房を、あの青年はいとも簡単に他人が使っていいと言うのだ。

 まあ、私も日本人の転生者なので只者ではないが。


「あっしは……基本的には、食事を必要としやせんけど。お師匠さんは普通の人間でっしゃろ?」

「そうだな。……あのパンだけでは小腹が満たされん」


 使用者に許可は得ているし、カウルも問題ないと言う感じなので。

 つい先日、私とケントとで再現した……ホットケーキのミックス粉を使おうと決めた。カウルに保管場所を聞き、使っていいまかない用の食材もずらっと並べたら。

 私はひとつ……ある事を思い出した。

 前世での……彼女がいた頃は、何度か連れて行かれた店についてだが。


「お師匠はん?」

「……材料はあるが、作ってみれるかわからない料理をしようと思う」

「と言うと?」

「ハンバーグディッシュだ!」


 普通なら、ふわふわスフレパンケーキだろうが……あいにくと、今の自分でもそこまでは出来ない。先日、ケントに習ってホットケーキを作れるようになった程度。

 しかし……まかない用にハンバーグのタネがあったので!

 出来るかわからないが……食べたいと思ってきたのだ!!

 野菜も新鮮なトマトやレタスなどがあるしな!!


「ハンバーグ……ディッシュ?」

「カウル。ケントから、スフレパンケーキと言うものを教わったか?」

「……いーえ?」

「簡単に言うと、ホットケーキみたいなのを食事として食べる料理だ」

「!」


 カウルも興味が出てきたのか……器用に目のようなものを作って、『目が点』状態にさせていた。

 しかし、作ると決まれば!!


「カウル、協力してくれ。二人で作ろう!」

「合点!!」


 誰かと料理するなどと……この前のケントともだが、こちらに転生してからは初めてだった。
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