上 下
7 / 603

第7話 初めて食べてくれた女の子

しおりを挟む


「だ、大丈夫!!?」


 僕は慌てて、キッチンから出て女の子が倒れた場所に向かう。

 結構な音がしたから、ひょっとしたら怪我をしているかもしれない。急いで駆け寄り、膝に寝転がせるように仰向けに体勢を変えてあげれば。


「ふおー! 別嬪さんでやんすね?」


 カウルも一緒に来てくれていたのか、女の子の顔が見えるとそう言っていた。


「そう、だね」


 たしかに、綺麗な女の子だった。

 顔に擦り傷とかはいくつかあったけど……酷い傷はない。それ抜きにしても、女の子の顔は整いすぎていた。髪はちょっとボサボサだけど、綺麗な赤毛のポニーテール。

 目は大きそうで、目尻の具合を見ると猫っぽい感じがした。顔の大きさは小さいのに、顎とかはシャープで。

 体つきも、冒険者らしい防具を身につけているが華奢な印象を受けた。僕が体を動かしても起きないってことは、気を失ったのかな?

 たしか、倒れる前に『食べ物』って言っていたような。


「……ケン兄さん?」

「カウル、お願いがあるんだけど。さっきのパン。この子に食べさせたいんだ」

「いいんでやんすか?」

「何もしない方が酷い奴だよ」

「わかったでやんす!」


 と言って、カウルはあんまり離れていないキッチンから、ピューッと、ピューって感じにパンを取って来てくれた。

 僕は僕で、女の子が食べやすい体勢に体を起こして支えてあげた。防具抜きにしても、ちょっと軽いのが心配だ。


「大丈夫?」


 もう一度声をかけてみると……女の子のまぶたがピクピクと動き出した。ゆっくり動き出すと、綺麗な紫色の瞳が!その色に、やっぱりここは異世界なんだなあ、と改めて実感。


「……だ、れ?」

「とりあえず、危害を与える人間じゃないよ? ちょっとした料理人。パンあるんだ。食べてくれる?」

「! ぱ……ん」


 僕の言葉に、光が見えなかった瞳の色が明るくなった気がする。

 パッと顔も明るくなってはくれたけど、カウルが差し出してくれていたバターロールを見て、すぐに驚いちゃった。


「どうぞでやんす~」

「す、スライム!? え……しゃべれ??」

「あっしはカウル言うでやんす。兄さんの相棒でやんすよー」

「え、え?」

「僕らが作ったパンなんだ。よかったら、食べてください」


 さ、とカウルが差し出したバターロールと僕らを見比べてはいたが、お腹の音も鳴りだしたので……我慢出来なかったみたいで、そっと手に取った。


「あったかい!」

「出来立てだからね?」

「……どこで?」

「あそこで」

「やんす」


 僕らが指を向けると、出現させたままのオープンキッチンを見て目を丸くしたが。

 お腹が限界だったのか、バターロールのいい匂いに我慢出来なかったのか。

 カプっという勢いで、バターロールにかぶりついてくれた。

 すると、ぱあって白い光が女の子から出てきた。


「お……い、し!! な……にこれ。体力が戻って??」


 カウルのは直接見てなかったけど、やっぱり僕らが作ったパンにはポーションの効果があるみたいだ。顔に出来た擦り傷とかもどんどん消えていく。

 女の子が夢中になって、バターロールを食べ続けてくれるのには……作り手としてはすごく嬉しい。決して、前世の先生達のように高度な技術で作ったものではないのに……あんなに美味しそうに食べてくれるんだから。


「もっといる? それと、もっと美味しい食べ方はどう?」

「! い……いいの?」

「うん。あ、僕は……ケントって言うんだ」

「あ……たしは、エリザベス=バートレイン」

「エリザベスさん、だね。こっち来てくれる? カウルも手伝って」

「合点承知!」


 せっかくだから、もっと美味しい食べ方をしよう。

 ポーションのパンだけど。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました

ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。 そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。 家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。 *短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜

田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。 謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった! 異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?  地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。 冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

婚約破棄ですね。これでざまぁが出来るのね

いくみ
ファンタジー
パトリシアは卒業パーティーで婚約者の王子から婚約破棄を言い渡される。 しかし、これは、本人が待ちに待った結果である。さぁこれからどうやって私の13年を返して貰いましょうか。 覚悟して下さいませ王子様! 転生者嘗めないで下さいね。 追記 すみません短編予定でしたが、長くなりそうなので長編に変更させて頂きます。 モフモフも、追加させて頂きます。 よろしくお願いいたします。 カクヨム様でも連載を始めました。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...