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30-2.決戦②

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 拘束ロープ。文字通り相手を拘束するための補助魔法。

 ガイウスが、ただのガイとして街に来ていた頃。お使いクエストで覚えておけと、奴に叩き込まれた補助魔法だ。

 攻撃魔法もいくつか訓練はしたが、あまりかんばしい出来ではない。俺の突出した技能スキルは奴が鑑定して見つけてくれた『異世界召喚』だ。

 さておき、形態変化を成し遂げたルーイス王子に、どこまで通用するか。とにかく、やるしかない!


「標的を拘束せよ、拘束ロープ!」


 まずは、ひとつ。

 長めに出現された縄を、ルーイス王子だったり魔物モンスターの足元に向かって魔力操作で飛ばしたが、弱い縄だったためかすぐに千切れた。

 これは予想の範囲内なので、重ねがけてどんどん拘束ロープを放っていく。

 ガイウスはと言うと、何か大掛かりな魔法を練っているのかずっと詠唱しているのだ。

 確実に、絶対、自身の肉親を倒すためにも。

 生半可な覚悟ではない。それを思い知らされるくらいの強い詠唱だった。


「重ね掛け、重ね掛け! 拘束ロープ!!」

『ぐ……が、がががぁあああああ! クロームぅううううう!!?』


 形態変化をしても、意識はまだカケラでも残っているのか。拘束ロープの縄でだいぶ見えなくなってはいるが、形態変化の恩恵とやらで力が有り余っているのかどんどん引きちぎっている。

 もう人間の骨格や肉体は、かけらも残らずに。やはり、ワイバーン種のようなドラゴンの形態に変化してしまっている。

 ガイウスとは違い、戦闘経験がほぼほぼ皆無な俺にどこまで出来るか。とにかく、ガイウスが魔法を練る間の時間稼ぎはしなくてはならない。


「……纏え、纏え。このつるぎは、ほむらの象徴!」


 宝剣、ではないだろうが。ガイウスが携えている剣は立派なものだった。ガイウスの詠唱により、炎を纏った剣となったのでうっかり触れたら火傷では済まない筈だ。


「クローム! 下がってて! 多分爆炎とかで、吹き飛ぶよ!」

「ガイウス、お前は!」

「僕は心配しないで! マールも待っててくれてるんだし。絶対生きて帰るから!」

「……わかった」


 隠れられるような岩場とかは特に見当たらないが、セリカに鍛えられた肉体を駆使して、出来るだけ遠くに逃げる。

 補助魔法でも役に立てたかはわからないが、俺の出来ることはした。なら、あとはガイウスのやりたいようにさせるまで。

 処罰を下すのは、俺ではないからだ。


『あ゛に゛、う゛ぇえええええええ!!?』

「禁忌に手出ししたお前を、見過ごせない!」


 そのやり取りが微かに聞こえたのだが。

 次の瞬間、後方から強い爆風に煽られた俺は。

 一瞬だけ浮いたが、土を利用した障壁を生み出して、なんとか怪我もなく地面には降りれた。


「……ガイウス!?」


 振り返ると、黒い煙が一点に立ち昇っていたが。その目の前には人影がいた。

 勝手な判断だが、ガイウスだと思って俺は来た道を戻った。


「ガイウス!!」

「……や、クローム」


 全速力で戻れば、やはり人影はガイウスだった。煤で汚れてはいたが怪我は特に見当たらなかった。


「…………終わったのか?」


 俺がそう聞くと、ガイウスは疲れたのか地面に寝っ転がった。


「うん。終わった。ヒトじゃなくなったけど、人殺しの経験をするだなんて思ってもみなかったよ」

「……ああ」


 俺は直接手を下してはいないが、ガイウスの手助けはした。

 だから、その罪は俺も請け負うつもりだ。

 やがて、黒い煙が落ち着いたら、地面には黒く焼け焦げた人間のようだったものが倒れていた。元ルーイス王子だった遺体を、ガイウスは高価なマントに包んでから俺の手を掴んだ。


「洗脳された人達も、ルーイスを倒したから元に戻ってるはずだよ。戻ろう?」

「……ああ。お前は盛大にマールに叱られろ」

「あー、ちょっとだけ嫌だなあ?」

「それくらい我慢しろ」


 とにかく、計画は狂いはあっても無事に完了となり。

 ガイウスの転移で、再び生産ギルドに到着したら。

 俺はセリカに、ガイウスはマールに抱きつかれたのだった。


「殿下ぁあああああああああ~~~~っ!!!!」

「クロームぅううううう~~~~!!!!」


 洗脳がかかっていない者達の前で、熱烈に抱擁されたのには気恥ずかしさを覚えたのだが。

 何はともあれ、終わったのだった。
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