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27-3.どうすべきか
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何が、起こったと言うのだ?
ガイウスがいきなり転移でやってきたのはまだいい。
だが、同行者にチェストを連れてきた意味がわからなかった。
奴の顔が、これまでにないくらい赤色に染まり上がっていたのだ。似た症状だと、つい先日マールでもあったが。
「……なにをしにきた」
「ちょっと、野暮用」
「く、クククク、クロぉ!」
「お前……まさか」
また面倒な恋愛事に巻き込まれたのでは? と思ったが、とりあえずたまたま俺がいた裏庭から中に通した。
ちょうど昼前だったので、セリカにはまずコーヒーを淹れるように頼んだ。
「……あら、チェストさんどうかされたんですか?」
「色々面倒なことになっちゃったんだよ、セリカちゃん」
「?」
「……俺にもわかるように説明しろ」
「? あれ、クローム?」
「意地を張るのをやめただけだ!」
「へー?」
俺のことはどうでもいいだろう! と、とにかく使い物にならない状態のチェストは放っておいて、問題を知ってるらしいガイウスに聞くことにした。
「クローム、僕の妹姫が二人いるのは知ってるよね?」
「……直接会ったことはないが」
「そのうちの姉姫が、お忍び先で暴漢に襲われかけてたのを、チェストが助けたんだけど」
「まさか、それで惚れられた?」
「その通り!」
「な、なんであれだけでぇえええええ!?」
「君が理想の王子様とやらに見えたんだよ、チェスト?」
「え、え、えぇ!?」
姉姫のミリアム王女。
見目麗しい美貌は、社交界の華とも謳われているらしい。が、実際の考え方などはえらく庶民向きで、しかも女性なのに武の心得があるらしく。これについては、ガイウスから昔聞いた情報だが。
「いいのか? いくらお前の妹姫とは言え、他国に嫁ぐ切り札とされるんじゃないのか?」
「それがねぇ? 父上とは拳で語り合ったらしいし、母上にも納得させたんだって」
「なら、あとはチェスト次第というところか?」
「ぼ、ぼぼぼぼ、僕が一国の王女様をだなんて!?」
「チェスト。うちの母親を思い出せ、親父に惚れ抜いて貴族から嫁いできて肝っ玉だぞ?」
「クロのお母さんと一緒……なのかも?」
「だろう?」
うちの母親の場合、暴漢とかではないがお忍びで出かけた時に一目惚れした結果だったが。
どうしてまあ、元から料理は趣味であったからか自炊は厭わないし、洗濯なども覚えている。子供は俺しかできなかったが、今でも二人で仲睦まじく暮らしているのだろう。
それはさておき。
「あの。王子様の妹様が、チェストさんと結ばれるのに何か問題が?」
まだ世情に詳しくないセリカには、少しだけでも説明した方がいいだろう。
その説明は、ガイウスがすることになった。
「僕が国民であるマールドゥを城に嫁がせるケースは、まあまあ歴史を紐解けばあるんだけど。逆のケース……王女が降嫁するのは、貴族ならともかく国民にまでってのはほとんどないんだ? 何せ、血筋は一国の王女。普通なら、大貴族に嫁ぐか他国に嫁がせるからね?」
「……でも。王様方には説得されたんですよね?」
「本人自らね? けど、惚れられたチェスト本人がこうでしょ?」
「……はい」
チェストは、相変わらず赤くなったり青くなったり。
やはり、手を差し伸べただけにしたとは言え、一国の王女に想いを寄せられたと知れば。
俺の場合はともかく、ためらうだろう。断る可能性も高い。
だが、身分は王女の方が上。断ろうにも難しい。
「ぼ、ぼぼぼぼ、僕がいくら助けた……って、ミリアム王女殿下と!?」
「諦めろ。王家に目をつけられたら、意地でも掴み取るぞ?」
「「クローム、言い方」」
「ガイウスがマールにしつこく付き纏っただろうが?」
「えへー?」
「け、けど……なんで、ですか?」
「うーん? ミアから思うに、自分よりも勇ましく立ち向かった姿が素敵だったんだってさ?」
「…………」
自由奔放なチェストがここまで盛大に慌てたとなると、こいつ……変装してた姉姫に惚れかけてたんだな?
なんだかんだ、うちの母親のような美人な女性と結婚したいと言ってたのが昔の口癖だったし。
(……とは言え)
俺もだが、一番鍛えているガイウスまでもが素手だと負ける相手だぞ?
乗り込んできたら、絶対負けると思う。チェストも折れてしまうだろう。
なんとなくだが、そんな気がしてならなかった。
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