上 下
68 / 94

26-3.どうしたものか(セリカ視点)

しおりを挟む





 ★・☆・★(セリカ視点)








 マールドゥが、過去にクロームに告白していた。

 その事実は、予想してなかったわけじゃないけども、少しばかり心が痛んだが、今は違う。

 私がクロームのことを好いてることについては応援しれくれてたし、結ばれた後も強烈なハグをお見舞いされたが。あれは心からの祝福だったのはホムンクルスとして日の浅い私でもわかった。

 だから、彼女の私への好意は嘘じゃない。

 けど、今は逆に彼女が追い詰められていた。クローム以上に、この国の将来の王様になる位置に存在している、転生者のガイウス王子。

 彼が、クロームと出会った頃から、ある意味ずっとマールドゥさんのことを好きでいただなんて。ちょっと、いやだいぶ驚いた。

 チェストとは違うが、ちょっとちゃらんぽらんな性格ではあった彼が本当にクロームの友人であるかどうかは、今日の話で理解は出来たけど。

 ご自分の弟君を捕縛すると言うのに、この時期に婚約者を決めるだなんて。いくらホムンクルスの私でも意味がわからないと思えた。

 思い出話と、理由を話してくださったガイウス王子の目は、きちんとマールドゥを想っているからか、とても慈しんでいるものではあっても。

 クローム同様に、私も今回の目的を知りたかった。


「……で。何故この時期に、王太子妃の候補としてマールを選んだ? お前の場合は、個人の感情だけでは動けないのだろう?」

「うん。それなんだけどさ?」


 と、クロームが言う言葉に対して、王子はあっけらかんと真意を語ってくださった。


「…………女っ気のないお前に、陛下が良い加減妃に思う女を呼べ、だと?」

「うん。ルーイスのこともあるけど、いい加減孫の顔を見せる気もないのか、って。想う女性がいるんなら僕の場合、平民の可能性もあるのバレちゃってたみたい」

「それで、マールをか?」

「再会はこの間だったけど、定期的に調べていたし。なかなか有能な女性になってたしね? なら、将来の王妃にも教育さえ受けさせれば支障はないかなって?」

「……本音は?」

「ふふ。マールドゥじゃなきゃ、いやだったから!」

「……はぁ」


 本当に王子様? と今回も思うけど。チェストに似てるのであれば、クロームとも意気投合するというのか。いくらか、クロームは呆れたため息を吐いたが、最後に王子を軽く小突いた。


「ちゃんと、マールの意思を聞いた上で娶れ!」

「まあ。そのつもり。昔の時は、むしろ睨まれてたけどー?」

「あの時は王子じゃないと偽っていたしな?」

「そうだね?」


 今は王子には見えない普通の人間。

 これが、将来の国王になる人間なのだろうか?

 けど、王とて一人の人間だ。息抜きする時間くらいあってもおかしくはない。だから、この方はクロームの前ではいつもどおりでいるのだろう。

 この性格を、マールドゥが受け入れるのかはわからないけど。


「ん、んん……?」


 そうこうしているうちに、気絶していた彼女が目を覚ました。


「大丈夫ですか? マールドゥさん」

「う、うん? あれ……あたし、殿下に告られ?」

「うん! 告ったよ、マールドゥ!」

「ひゃい!?」


 マールドゥが起きたとわかれば、王子はまた全開の笑顔で彼女に詰め寄っていった。

 たしかに、クロームには劣る(私個人では)けど、なかなかの美貌の持ち主で、将来の国王になる存在の王子様に詰め寄られれば。

 裏若き乙女? なマールドゥでも驚くだけですまないだろう。そして、また気絶する前くらいに顔どころか首や耳まで真っ赤になってしまった。


「まだあくまで、婚約者候補だけど。僕個人としては、君のことが好きなんだ。君はあんまり覚えてないだろうけど、クロームとクエストの時に組んでいたただのガイとして出会った頃からね!」

「ガ……ガイって、あの?」

「覚えててくれたんだね!?」

「ひゃい!?」

「……あんなガキの頃から、こいつはお前に惚れてたらしいんだ。マール」

「え、え、え!?」


 男二人が畳みがけに言っていく言葉に、マールドゥはまたもや脳内の許容範囲を越えてしまったのか。

 またまた気絶してしまい。けど、王子は今日は帰ると席を立ってしまったのだ。


「決意は変わらないけど、他に候補はいないわけじゃないからさ?」

「お前の場合、取り潰すつもりだろう?」

「もち!」

「……陛下の心労を増やすなよ?」

「ふふ」


 と言ったのを最後に。転移の魔法で消え去ってしまい、クロームはポーションの生成をすると部屋から出て行き、私にはマールドゥの介護を頼むと言い残した。


(……大丈夫かな、マールドゥさん)


 まだ目が覚めない、囚われ? のお姫様のようになってしまった彼女に、起きたらなんと声をかけていいのか私でも流石に悩んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました

ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。 そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。 家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。 *短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

【完結】からふるわーるど

仮面大将G
ファンタジー
平凡な高校生が雷に打たれて死んだら、異世界に微チートとして生まれ変わっちゃった話。例えフィクションの登場人物だろうが他の転生者には負けないぜ!と謎の対抗心を燃やして微チートからチートへと成長していく主人公の日常。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも同作品を掲載しております! ※この作品は作者が高校生の時に「小説家になろう」様で書き始め、44話で一旦執筆を諦めてから8年の空白期間を経て完結させた作品です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...