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22-2.王太子の正体を改めて

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 ★・☆・★







 さて、予想外のガイウスの登場により客人がひとり増えてしまったが。

 結果的にはよかったと思える。

 何せ、黒幕がディスケットどころかガイウスの弟であるルーイス王子まで加わっているのは予想外だったからな?


「で、俺様を妬んで……と言う経緯になったのはわかったのか?」

「ええ。僕の血の内部調査によるものですが、見ますか?」

「頼む」


 ギルマスからクリスタルボールを出してもらい、記録させた場面を見るのに、彼がナイフで傷つけた指の先から血をつけた。

 付着した直後に、クリスタルボールが輝き、問題であるルーイス王子とディスケットのやり取りを見たが。


「……敵が多いとは自覚していたが、ガイウスの弟までとはな……」

「今更過ぎるでしょー? 僕が知っているだけでも王宮内に星の数くらいいるんだから」

「前までのクロの性格ですとね~?」

「……だから、すまなかったと言っているだろう」


 自業自得とは言え、頭が痛くなることばかりだ。

 しかし、ディスケットはわかるがルーイス王子にまで命を狙われていたとは。

 何故、死罪に等しい不正のエーテル生成液を作らせたのか。それほど、俺様は目の上のたんこぶだったのか?

 だが、今までの自分を少し振り返ってみようと思った。


(俺様は……俺様で)


『ふははは! 俺様は天才錬金術師、クローム=アルケイディスだ!』


(自己中心的で……?)


『役立たず? なら必要ない』


(自己中……)


『失せろ』


(自己欺瞞も甚だしいではないか!?)


 とやっと自覚できたので、思わずテーブルに腕を叩きつけた。


「! どうしたの、クローム!」

「あっはは~? 自分の過去を振り返った結果?」

「え?」

「……ああ。そうだ! ガイウスの言う通りだ!」

「んも~、クロったら今更過ぎ~」

「まあ、いい事ではないですか? 自分を顧みることが出来たのであれば」


 ギルマスはひとり、出された紅茶と茶菓子のアイスボックスクッキーと言うセリカの手料理を食べていた。

 だが、言葉の攻撃は俺様の胸に刺さり、容赦のない爪痕を残したのだった。


「……クローム、大丈夫?」


 唯一、セリカだけは俺様の味方だ!

 と思ってはいたのだが。


「けど、最初のクロームだったら。たくさん敵作っててもおかしくはないと思う」


 セリカにも冷静に分析させられてしまった。

 過去の俺様とは言え、好きな相手にまで体型以外も好印象を持たせてなかったとは!

 だが、よく好意を寄せてくれたものだ……。


「はいはーい。イチャイチャしてるおふたりさんには悪いけど~」

「い!?」

「イチャイチャなどしていない! なんだ、ガイウス!」

「はいはいって、ほんと君をからかうのはおかしいなあ?」


 この国の第一王子と知っていなければ、もっと反抗意識をしそうになるが。こいつがいなければ、俺様の保有技能スキルもセリカを生み出すことも出来なかったからな!


「とりあえず、なんだ?」

「僕の弟、ディスケットもだけど捕まえるからね?」

「……何故俺様に断りが?」

「標的が君だから~。ま、父上の許可ももらってるし、いつでも捕縛しに行けるけど。肝心の証拠はまだできてないっぽい」

「証拠?」

「君がとりあえず使ってる、エーテル生成液の新しいの。さっき見てもらったクリスタルボールの記録覚えてる? 毒を盛るって」

「……ああ。そうか」


 それを待ってるために、さっさと捕まえることが出来ないでいるのか。

 だが、不正でもエーテル生成液の製造を黙認しているのはよくないのでは?

 それを聞くと、ガイウスは自分にも出された紅茶をひと口飲んだ。


「もちろん、さっさと捕らえることは可能だ。けど、ルーイスに秘密裏に協力している連中も一緒に捕まえたいからね? だから~、わざと泳がしているわけ」

「……そう言うことか」


 であれば、俺様はどうすればいいのだろうか?

 このまま、ぬくぬくと元の身体になるべく鍛えているだけの日々を過ごせとでも言うのか?

 だが、今の俺様では納得はいかない。


「俺様は何をすればいい?」

「んー、セリカちゃんにちょっと聞きたいんだけど」

「……なんでしょう」


 まさか、セリカに矛先を向けるとは思わず。俺様もなんだ? と訝しんだが……。


「クロームが元の体型に戻るのって、あとどれくらい必要?」

「日数、ですか?」

「うん。遠慮はしないで正直に言って?」

「……微調整込みで、半月は」

「うんうん。やっぱりそれくらいかかるんだ?」

「殿下も、わかるんですか?」

「うん。弟の減量生活に付き合わせたの、僕だし」

「「「え」」」


 ルーイス王子の元の体型はほとんど覚えていないが、まさか兄のガイウスが担当していたとは思わなかった。


「いや~、楽しかったよ~? 食事制限は父上や母上に頼んで、宮廷調理人に特別メニューを作ってもらったし。運動の方は走り込みに剣技など色々させたからねー?」

「……俺様はセリカでよかった」

「……クローム」

「けどさ~? 僕の知識がなかったら、セリカちゃんも出来なかったんだし。僕にも感謝してよ~?」

「……はいはい」

「え、クロどゆこと?」

「??」

「……ガイウス、告げていいのか?」

「この面子なら口固そうだから、僕から言うよ~」


 そう、ガイウスの正体は王太子殿下だけではない。


「僕、普段は王太子だけど。前世は異世界の日本って言うとこにいたんだ~? つまりは転生者!」


 よろしくね~、と決めポーズをして、真実に驚いているセリカとチェストの口をあんぐりとさせてしまったのだった。
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