39 / 94
15-1.振り返る
しおりを挟む★・☆・★
ビーツに加えて、ミリアナと言う女職員。
そして、俺様を妬んでいるはずのディスケット=ライツ。この三人により、俺様は命を狙われていた。
ビーツには仕掛けを施したコーヒーにより、俺様の研究『錬成料理』を話したのだから、何らかの接触でディスケットが知っていても不思議ではない。
が、問題はどうやって長期的に、協力者にさせた二人を洗脳したのやら。
以前の俺様だったら、謀など馬鹿げたことだ……そんな暇があるのなら、錬金術の研究に明け暮れている方がずっといい。と、傍若無人のように振る舞っていただろうが、今は少し違う。
天才であるが故に、他者を妬むのは人間として普通だ。
それの度合いも、またヒトそれぞれであるが……ディスケットだけでなく、他の錬金術師やそうでない者も違ってくる。
であれば、ディスケット以外にも協力している者がいてもおかしくはない。この俺様を妬む輩はごろごろいたしな。むしろ、ディスケットの心の隙につけ込んだ輩がいたっておかしくはない。
「……マスター、考え事?」
「む?」
気づくと、セリカと畳んでいた洗濯物は空になっていたのだった。
「……悩み事?」
「……ああ。ギルマス達が探っててくれてる連中についてだ」
「……そう。もし、そのヒト達を亡き者にするのなら、遠慮無く命令して構わない」
「冗談でもそんなことを言うな! お前を犯罪者にさせるつもりで造ったんじゃない!」
「……そう?」
冗談じゃない。
ホムンクルスを造る理由の大半は、従僕させるために助手以上に奴隷として扱う馬鹿な連中が多いが、俺様はそうじゃない。
錬金術師の助手として、かつ錬成料理を美味いと共感してほしい同士が欲しかっただけだ。
今は慕う相手になったとはいえ、こんな可憐な少女にそんな犯罪者と同等の罪など犯して欲しくはない。
軽く小突くと、痛みはないだろうがセリカが少し落ち込んだように見えた。
「……俺様はそんな馬鹿げたことのために、お前を造ったわけじゃない」
「けど、私の創造主はマスターだから」
「仮に俺様の細胞の一部が加わっても、お前はお前だ。娘とはまた違うが、お前のことを大事にしてないわけがないだろう?」
「!……そ、そう」
あ、いかん。
いきなり告白紛いな発言をしてしまったぞ?
さすがに気づいているのでは……と、セリカを見ても嬉しかったのかはにかんだ笑顔になっていた。
キュンキュン!
って、絶対俺様の心臓を撃ち抜いたぞ、この笑顔は!
(あー……、元の姿であれば口説くことも出来るのに!?)
あと30キロ近く痩せなければ、俺様の見た目もこの醜い体型から元に戻らない。それだけはケジメにせねば、格好がつかない。
尽くしてくれているセリカにも申し訳ないと思うし、何より俺様が嫌だった。
「つ、次は……どうする? 無心になって運動した方がいいだろう?」
「……ん。じゃあ、床磨き」
「わかった」
水拭きから乾拭き。
その両方を端から端まで床の上を低姿勢で走り抜け。
最初の頃は、すぐに音を上げていたが。ここ最近では少し走るくらいの速度で足を鍛えられてはいる。
99キロになったとは言え、まだまだ肥えた身体ではあるが多少なりとも鍛えられてはいるのだ。
冒険者のように鍛えるのとはまた別だが、何も出来ないよりはずっといい。
街にいた頃の、怠惰にふけった考え方を一新出来るくらい、セリカは俺様に尽くしてくれた。
それに応える答えは、元の俺様の体に戻ることだ。
であれば、真剣に取り組もうではないか。
「ぜー……はー、ぜーはー……お、終わった……」
「お疲れ様。お風呂の準備したから」
「すまないな……」
ほら、今も。
済まし顔ではあるが、甲斐甲斐しく世話をしてくれていることに変わりはない。
時折、俺に触れてくる手つきが優しいのに、もしや……と思うところはあるが、創造主が俺様だからひなの刷り込みみたいなものかもしれないと疑ってしまう。
あと、出会いがある意味セリカにとってはいい思い出ではなさそうだから……ただの憐みかもしれない。
と、風呂に浸かりながら考えてしまうが、自分で考えてきて悲しくなってきた。
「……好かれて、なくないとは思うが。呆れられてそうだ」
何せ、出会った当初の俺様は豚オークも真っ青になるくらいの醜い体型であったからな。
はじめはもっとつんけんどんしていたし、俺様に対してむしろ厳し過ぎた。
けど、そのおかげでこうして痩せてきたのだから感謝以外何も浮かばない。
錬成料理も、錬成食材をつくる以外はまずいと立証出来たのだから、もうそこは無理に遂行する必要はない!
「……ふむ。まだ夕飯まで時間があるな。昼寝する気分にもなれないし、ポーションでも作っておくか」
一昨日チェスト達が来て、一応納品はしたが作り過ぎて困ることはない。
うちの貴重な財源であるし、材料はマールからの食料調達と同時に仕入れているので有り余るくらいストックは豊富だ。
それに、セリカの方が効能がいいのが少し悔しくもあるので。初心に返ったつもりで、いつも以上に丁寧に作ってみよう。
やる気が出てきたら、セリカに呼ばれるまで俺様は調合室に篭るのだった。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
俺と幼女とエクスカリバー
鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。
見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。
最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!?
しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!?
剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル) ~今日から地獄生物の飼育員ってマジっすか!?~
白那 又太
ファンタジー
とあるアパートの一室に住む安楽 喜一郎は仕事に忙殺されるあまり、癒しを求めてペットを購入した。ところがそのペットの様子がどうもおかしい。
日々成長していくペットに少し違和感を感じながらも(比較的)平和な毎日を過ごしていた喜一郎。
ところがある日その平和は地獄からの使者、魔王デボラ様によって粉々に打ち砕かれるのであった。
目指すは地獄の楽園ってなんじゃそりゃ!
大したスキルも無い! チートも無い! あるのは理不尽と不条理だけ!
箱庭から始まる俺の地獄(ヘル)どうぞお楽しみください。
【本作は小説家になろう様、カクヨム様でも同時更新中です】
トレンダム辺境伯の結婚 妻は俺の妻じゃないようです。
白雪なこ
ファンタジー
両親の怪我により爵位を継ぎ、トレンダム辺境伯となったジークス。辺境地の男は女性に人気がないが、ルマルド侯爵家の次女シルビナは喜んで嫁入りしてくれた。だが、初夜の晩、シルビナは告げる。「生憎と、月のものが来てしまいました」と。環境に慣れ、辺境伯夫人の仕事を覚えるまで、初夜は延期らしい。だが、頑張っているのは別のことだった……。
*外部サイトにも掲載しています。
元最強魔剣士に転生しちゃった。~仇を追って旅に出る~
飛燕 つばさ
ファンタジー
かつて大陸最強の魔剣士隊長と呼ばれたジンディオールは、裏切り者のフレイによって能力を奪われ、命を落とした。
しかし、彼の肉体は女神エルルの手によって蘇生された。そして、日本のサラリーマンだった風吹迅がその肉体に宿ったのである。
迅は、ジンディオールの名と意志を継ぎ、フレイへの復讐を誓う。
女神の加護で、彼は次々と驚異的な能力を手に入れる。剣術、異能、そして…。
彼は、大陸を揺るがす冒険に身を投じる。
果たして、ジンはフレイに辿り着けるのか?そして、彼の前に現れる数々の敵や仲間との出会いは、彼の運命をどう変えていくのか?魔剣士の復讐譚、ここに開幕!
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
エンジェリカの王女
四季
ファンタジー
天界の王国・エンジェリカ。その王女であるアンナは王宮の外の世界に憧れていた。
ある日、護衛隊長エリアスに無理を言い街へ連れていってもらうが、それをきっかけに彼女の人生は動き出すのだった。
天使が暮らす天界、人間の暮らす地上界、悪魔の暮らす魔界ーー三つの世界を舞台に繰り広げられる物語。
著作者:四季 無断転載は固く禁じます。
※この作品は、2017年7月~10月に執筆したものを投稿しているものです。
※この作品は「小説カキコ」にも掲載しています。
※この作品は「小説になろう」にも掲載しています。
【完結】暁の荒野
Lesewolf
ファンタジー
少女は、実姉のように慕うレイスに戦闘を習い、普通ではない集団で普通ではない生活を送っていた。
いつしか周囲は朱から白銀染まった。
西暦1950年、大戦後の混乱が続く世界。
スイスの旧都市シュタイン・アム・ラインで、フローリストの見習いとして忙しい日々を送っている赤毛の女性マリア。
謎が多くも頼りになる女性、ティニアに感謝しつつ、懸命に生きようとする人々と関わっていく。その様を穏やかだと感じれば感じるほど、かつての少女マリアは普通ではない自問自答を始めてしまうのだ。
Nolaノベル様、アルファポリス様にて投稿しております。執筆はNola(エディタツール)です。
Nolaノベル様、カクヨム様、アルファポリス様の順番で投稿しております。
キャラクターイラスト:はちれお様
=====
別で投稿している「暁の草原」と連動しています。
どちらから読んでいただいても、どちらかだけ読んでいただいても、問題ないように書く予定でおります。読むかどうかはお任せですので、おいて行かれているキャラクターの気持ちを知りたい方はどちらかだけ読んでもらえたらいいかなと思います。
面倒な方は「暁の荒野」からどうぞ!
※「暁の草原」、「暁の荒野」共に残酷描写がございます。ご注意ください。
=====
この物語はフィクションであり、実在の人物、国、団体等とは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる