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14-3.副ギルマスの心境(ライネス視点)
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ああ……ああ。
あの、秀麗の権化とも謳われていた『クローム=アルケイディス』が。
何故……何故、またこんなオークにも似た豚のようにまで激変してしまったのか!? しかし、この姿でもマールドゥ曰く、だいぶマシになったと言うことは、約一年前はどれだけ変わり果てていたのか……想像したくないが、今はそれを考えているべきではない。
【恵の豊穣】もこの目で確認しましたし、クローム=アルケイディスには真実の一端をお教えしなくては。
気持ちを仕事に切り替えて、麗しきホムンクルスであるセリカ嬢の手で、また美味しい紅茶を淹れていただいてから、ギルマスから預かってきたクリスタルボールを卓の中央に置いた。
「これは記録した映像でしかないので、何を話しかけても無意味です」
「ん」
「了承した」
そして、ギルマスより教わった解除言葉を口にするとクリスタルが一瞬赤く染まった。
そして、煙が上がって、中央に二人の男女の映像が。
片方が、顔に似合わない大きな眼鏡をかけているビーツ。
もう一人は。
「……誰だ、この女は?」
噂に違わず、本当に興味のない人間の名前を覚えようとはしないんですね、クローム=アルケイディス。
マールドゥが呆れたため息を吐いているので、代わりに私が話すことにした。
「ギルマスから聞いているかもしれませんが、ビーツが懸想している相手のミリアム=カリウスですよ」
「知らんな?」
「こんな綺麗な子でも、覚えていないのがあんたらしいわ!」
「秀麗であれば、俺様が創ったセリカの方が上だぞ?」
「!?」
「ヒュゥ!」
「……ほう?」
どうやら、性格は昔よりいくらか緩和されているようですね?
以前でしたら、『俺様以外に美しい者などない!』と傲慢たれた言葉を発してはギルド内外に敵を作ってはいたものの。
どうやら、違法とは言え、例のエーテル生成液で創り出したエーテル培養液で素晴らしいホムンクルスを生み出したのですね。そして、見た目以上に絆されている様子。……これは恋に違いありません!
(ホムンクルスと製作者との恋は別に禁忌ではありませんからね!? はー……はー……ときめきの出会いがここに!?)
私ライネスは、可愛いもの美しいものに目がありませんが。同時に他者の恋についても応援したい自他共に認める変わり者です。
自分については、今のところ縁がありませんがそれはそれ。
とりあえず、映像の続きをクローム=アルケイディス達に見てもらうことにしました。
『ふふ。よくやってくださいました、ビーツ』
『は、はい。こ、これでミリアムさんのお手伝いは出来ましたか?』
『ええ、間違いなく。クローム様には、とびっきり上等なエーテル生成液をお届けしましょうね?』
『はい!』
その時のミリアムの表情は。
明らかに、クローム=アルケイディスを亡き者にしようとしているような蠱惑的な微笑みを浮かべていたのだった。
「む、この女が操っている奴?」
「ええ、セリカ嬢。ギルマスがおっしゃるには血に誓って……と」
「……失礼だが、俺様はこの女に何かしたのか?」
「自覚全くないね!? けど、私もミリアムがクロームの取り巻きの一人だったとしか知らないなー? こーんなこっわい奴だったなんて知らなーい」
「そちらは、ギルマスが取り急ぎ血の内部調査で調べています。が、この二人だけでは違法のエーテル生成液を用意するのは普通に考えて不可能ですね」
「……だろうな」
「なので、今日伺った内容は。これを見てあなたに恨みのある錬金術師などを合致させるために、マールドゥとお邪魔させていただいた次第です」
「……自分で言うのもなんだが、キリがないぞ?」
「自己中だった、クロームが悪いんだからね!」
「すまん……」
「あら、珍しい?」
「む……」
おやおや、こんなにも素直に謝罪が出来る人間だとは思っていませんでしたが。
やはり、セリカ嬢と過ごしてきたこの半年くらいで劇的な変化……つまり、『恋』が関係しているのでしょう。非常に喜ばしいことですが、今は黒幕をピックアップしなくてはいけません。
「こちらのリストアップですが……」
だいたいの錬金術師はクローム=アルケイディスを敵視しているので、ギルマスとも話し合って名簿を作ってきた。それをクローム=アルケイディスに手渡すと、彼は真剣な面持ちで紙を凝視する。その表情は、丸っこい顔立ちではあるものの、素が良いので過去の彼とすぐに重なった。
(ああ、ああ……。おいたわしや……)
セリカ嬢のおかげで、例の錬成料理で蓄積した体にとっての悪いものはだいぶ軽減されたとは言え。
これが、あの眉目秀麗と謳われて、美女を周りに侍らせていた麗しき青年だとは誰も思いはしないだろう。
私も今日、約一年ぶりに会ったときには、開いた口が塞がりませんでしたしね!
「……ふむ。ディスケット=ライツ。こいつが怪しいな……」
「「「その根拠は??」」」
「露骨に俺様の能力を妬んでいた。と言うのも、昔たまたまだがトイレから出たそばで俺様の悪口を散々なくらいに言ってたからだが」
「あー、あいつなら言いそう」
「どんな人ですか?」
「「まさに、根暗の塊」」
「であれば、彼の能力なら、クローム=アルケイディスを亡き者にしようとしてもおかしくはありませんね?」
ギルマスの方でも、そろそろターゲットが絞れたでしょうし、今のクローム=アルケイディスの発言と照合すればディスケット=ライツに行き当たるかもしれません。
さて、ここまでは副ギルマスとしての仕事を終えたも同然ですが。……マールドゥに目配せをすれば、待ってましたと言わんばかりに顔を輝かせた。
「ね、ね、クローム! ここまでの情報提供といつもの労いも兼ねて……私と副ギルマスにセリカちゃんお手製のパフェを食べさせてもらえなーい?」
「む??」
「今から……ですか?」
「え、難しい?」
「いえ、一昨日作ったパフェの残りの材料があるので。……マスター、許可をもらえれば作れるけれど」
「……俺様には?」
「……ほんの少しだけなら」
「なら、作って……いや、少し手伝おう」
「え、クロームが!?」
たしかに、昔チェスト=ポティロンと酒場で調理補助はやっていたらしいですが。彼の性格からして、進んで手伝うと言い出すような人間ではないはず。これはもしや!
(両、片想い!?)
なんと言う、見守りたい人間にとってはご馳走様な光景なのでしょう!?
とりあえず、セリカ嬢が頷いたので二人でキッチンに行かれるのを、未だ呆然中のマールドゥと見送るしか出来ませんでした。
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