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14-2.副ギルマスと出会う(セリカ視点)
しおりを挟む★・☆・★(セリカ視点)
あのギルドマスター達が来て、マスターにかけられてたらしい洗脳のようなものが無事に解けたけれど。
マスターは……信頼していた男が自分を殺そうとしていたのを知って、やっぱりショックを受けてしまい。
運動にも身が入らなかったから、落ち着かせるためにアイスティーを持って行って、少し話をして。
ますます、ビーツという男を滅したい気持ちに体全体が蝕みそうになったが。
マスター本人が、そのビーツに謝罪すると言うのだから驚きだ。私を造った時のマスターだったら、絶対そんなことを言うことなんてなかったはずなのに。
その……私と過ごしてきたせいで、マスターの性格も矯正されてるだなんて、言われて嬉しくないわけがない。
だから、私は大人しく、その日は寝るしか出来なかった。
(今日はたしか、マールドゥが食材を持ってくる日)
とりあえず、マスターも翌日はいつも通りになっていたので。バックランジを一緒にやってから私は家事に明け暮れて。
今日は天気もいいので、シーツや枕を天日干しさせてたらマールドゥがやってきたんだけど……?
「いらっしゃい、ませ……?」
「あなたがセリカ、ですか?」
マールドゥともう一人、昨日のアークではないが初めて見る人間がきた。
片眼鏡? と言う特徴的な装飾品を装着している……多分、女だ。私が顔を出すと、何故か片眼鏡の縁に指を当ててクイっと動かしたが。
「あの……?」
「ああ、失礼。自己紹介がまだでしたね。私は生産ギルドの副ギルドマスターであります、ライネス=エディフィスと言います。以後お見知りおきを」
「……セリカです。はじめまして」
つまりは、昨日のアークの部下というわけか?
何故ここに来たのかは不明だが、話してはくれるだろう。
ひとまず、マールドゥが後ろにいたので三人で食材を倉庫に運んだ。
「これで全部~!」
「これほどの量を、あなたとクローム=アルケイディスが消費するのですか?」
「はい。……マールドゥさん、ライネスさんにはどこまで話しているんですか?」
「うんとね、ビーツのこともだからほとんどかなー?」
「……そうですか」
「何やら特殊な魔導具をクローム=アルケイディスが作り出し、あなたを生み出したとも。見ることは可能でしょうか?」
「……流石に、私の一存では」
「だよね。悪いけど、クローム呼んできてもらってもいーい?」
「はい」
シャインに手出しをしないとは思うけど、例のエーテル培養液について何かしら確認しておきたいのかもしれない。
倉庫で待っているよりはと、リビングに通してから紅茶を出して待っててもらうことにした。
召喚室に行くと、マスターは真剣な表情でウォーキングをしている最中だったわ。
「ん? セリカ、どうした?」
だいぶ慣れてきたのか、呼吸もしっかりしてるので運動しながらでもマスターはこちらを見ることが出来た。
「……マールドゥさんと一緒に、副ギルドマスターって言う人が来たの」
「副ギルマスが?」
「ん。シャインを見せて欲しいって」
「ふむ。彼女なら言いそうではあるな? マールにも良い機会だ。見せることにしよう」
「じゃ、一旦お風呂に入って来て。先に説明しておくから」
「そうしてくれ」
汗だくのマスターが女性の前に立つのは憚られるので、許可をもらってから、私は紅茶を飲みながら何故か話に華が咲いていた二人のところに戻った。
「……どうかしました?」
「あ、ううん。なんでもないよー? それで、クロームは?」
「今運動中でしたので、清めてくるそうです。その間に、お二人を【恵の豊穣】のところまでご案内します」
「ほーい」
「ありがとうございます」
シャインのある地下室は、屋敷の主要階段の地下通路に続いた先にある。
少し暗いので、灯りの炎を少し強くさせてから二人を案内させて。扉を開けて、シャインがいる地下研究室の中に二人を通せば。
マールドゥは予想どおりに『おお!』と声を上げて、ライネスはまた片眼鏡を指で動かした。
「この魔導具が、【恵の豊穣】です」
「荘厳……という言葉が似合いますね。あの管に収まっているのが、不完全品であれエーテル培養液?」
「なにこれ、なにこれ! エーテル培養液の中になんか食材があるんだけど!」
「……あれが、錬成させている食材です」
まあ、騒ぎはしたが許容範囲内だ。
シャインは新顔を魔石越しに見ても、追求されたくないのか特に声はかけてこない。
それが、今はありがたいので私も無理に食材を取り出すことはしなかった。
「なるほど。あなたやクローム=アルケイディスが望む食材にすべく、この魔導具は活動しているのですね?」
「けどさー、セリカちゃん。私とかが持ってくる食材だけじゃダメだったのー?」
「……はい。糖質……マスターの身体に最適な食事を作る上で必要な食材にするので。この魔導具には様々な食材が必要になるのです」
「そういうことだ」
「クローム!」
簡単に湯浴み程度に済ませてきたのか、マスターがやってきた。
が、マールドゥはいつも通りでも、初めて今のマスターを見るライネスの方は息を飲んでいた。
「……クローム=アルケイディス?」
「……久しぶりだ、副ギルマス」
「本当……に?」
「これでも随分マシになった方だ。そんな目であまり見ないでくれ」
「無理言わないでよ~、副ギルマスはあんたの体型変化についてはちょっとしか伝えてないんだから~」
「笑われた方がマシだ!」
「…………」
よっぽど、マスターの激変に驚いて声が出ないのか、ライネスは口を開けたまま黙ってしまった。
この光景に既視感を覚えた私は、少しライネスを警戒した。これは、マールドゥをマスターに紹介された時と少し似ているのだ。
であれば、きっと。
「……このような、美しいホムンクルスを生み出せたのに」
「「副ギルマス??」」
「あの……?」
「何故あなたはそのように堕落した人間にまで堕ちてしまったのですか、クローム=アルケイディスぅうううう!!??」
「は?」
「あ、副ギルマス爆発したー」
つまりは、マールドゥ曰く、自分と同類らしい。
しかも、怒鳴った勢いで近くにいた私に抱きついてくるわ、頬ずりしてくるわで非常に残念な結果になった。
しかし、マスターは彼女のこういう面を知っていたのか、一応落ち着いていた。
「俺様の自業自得だが、錬成料理で肥えてしまったんだ。が、セリカのお陰でだいぶマシにはなったんだぞ? 彼女がいなければ俺様は間違いなく死んでいた」
「……その太り方で?」
「ほーんと、酷かったですよ~。オークも真っ青なくらい、太って太って太りまくってて!」
「強調するんじゃない!」
「けど、本当だったじゃん」
「くぅ……」
とりあえず、力がゆるまってきたのでライネスから離れてマスターの後ろに回った。
すると、ライネスは眼鏡を一度外して大きく息を吐いてからまた装着した。
「……取り乱してすみません。であれば、ビーツの計画によってあなたを死に追いやろうとしたのは失敗に終わり、今は正常に戻ろうとしているのですね?」
「……そうだな」
ビーツの話になると、マスターは明らかに落ち込んだ態度になった。真実はわかっていても、まだ切り替えは難しいのだろう。昨夜、決意したことをひょっとしたらこの二人に伝えるかもしれない。
「あ、そうそう。クローム、ビーツは実行犯だけど、操ってる奴がいたっていうのが昨日ギルマス達が帰ってきてからわかったよ?」
「「……は?」」
まだ、黒幕がいた?
詳しく聞くために、私達は場所を移してリビングに戻るのだった。
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