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9-2.こちらも知る(マールドゥ視点)

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 ★・☆・★(マールドゥ視点)






 この半月で、クロームあいつはかつてないくらい変貌したわ……。


(それもこれも、あのホムンクルスちゃんのお陰よねぇ~ん!)


 あいつん家に納品する食材を荷馬車で引きながら、ぼんやりと物思いにふけってた。

 馬車の馬はここ一年近く通い慣れているから、道は覚えている子達だからいい子達だし、ちょっとくらいは問題ない。

 とにかく、あの元は美形過ぎたブヨブヨに太ったクロームを、元の姿に変えるまで痩せさせたあのホムンクルスちゃんは凄いわ。

 幼馴染みの私が言うのもなんだけど、自己主張が激しくて面倒事が大っ嫌いだったはずの、あいつが。

 この半年程度で、見るも無様だった体型を、半分近くまで痩せさせたのだ。しかも、クロームもやる気満々で。

 今日も今日とて、定期的な食材を持っていくのに生産ギルドから馴染みの職員ってことで私が出向いているわけだが。

 今日は、なにをしてるのかしら?

 あのホムンクルスちゃんのセリカちゃんは、なにをしてるのかしら?


「ああ……あれだけ有能以上に、綺麗で可愛い過ぎて可愛い過ぎて可愛い過ぎる子はうちに置いておきたいわぁあああああ!!!!」


 可愛いもの、綺麗なものには目がない私、マールドゥ=エファンド。あんなにも、綺麗で可愛いらしいホムンクルスはクロームの奴にはもったいないわ!

 綺麗で綺麗で綺麗で。

 ちょっと小首を傾げる仕草は笑顔がなくても可愛いらしいし!

 まったく、なんてけしからん子を造ったのかしら、あの幼馴染みは!


「……あいつも綺麗だったのに、半年前はあんなのになっちゃったんだから」


 巨漢も巨漢。

 元の美しさが欠けらもないくらい、醜いオークのような肉の塊になってしまってた。

 原因は、私は教えてもらってないけど。同じ幼馴染みのチェストが言うには、ご飯の食べ過ぎらしい。

 元からクロームはよく食べる方ではあったけれど、それにしては不思議だわ?


 ヒヒーン



「あ、着いたわ」


 考え事をしている間に、クロームの屋敷手前に到着して。 

 すぐに納品出来るように裏口の方に荷馬車を寄せて、私は愛しの愛しのセリカちゃんにご挨拶をすべく、玄関のアラームのボタンを押した。


「……こんにちは」

「こんにちは! いや~ん、今日も素敵に可愛いわね~~!!」

「……はぁ」


 お決まりのハグプラスで挨拶しても、この子は特に反応を見せない。

 でも、身体の細さに比べて胸はポヨポヨしてて、抱きつくと気持ちいいのよね。女同士の特権よ!


「納品分の食材、確認お願いねー?」

「……はい」


 ああ。そんな澄ました顔も綺麗で可愛いわん!

 ベースをハイエルフにしたからって、緑がかった艶やかなロングヘアも。

 真っ白なもちもちの肌は真珠のようで。

 緑柱石ベリルのように澄んだ大きな瞳。

 小さなピンクの唇に、すっと通った鼻。

 どれもこれもが、以前のクロームに負けず劣らず綺麗で可愛くて。

 もっとギュッギュと抱きついていたいけど、仕事は仕事なので流石に我慢したわん。

 とりあえず、渡した納品書と食材を交互に見比べてから、セリカちゃんはこくりと小さく頷いてくれた。


「……あります。ありがとうございました」

「どいたしましてー。ところでクロームは?」

「前に見ていただいた魔導具で運動中です……」

「ふぅん。続いてるんだ~?」

「ええ。また十二歳の子供一人分くらい減量に成功しました」

「マジ?」

「マジです」


 ほんと、身体壊さないかしら?

 セリカちゃんが言うには、無理のない程度で運動を増やして、時々家事も手伝わせて身体全体を動かしてるんだって。

 あの自堕落生活を望んでた男があり得ない変貌ぶりだわ!

 二週間前も結構減ったなとは思うけど。なんでそこまでして一気に痩せようとするのかしら?


「あいつ、何か目的があるの?」

「と言いますと?」

「面倒事が大っ嫌いだったあのクロームが、こんな短期間で元の身体に戻ろうとしてるなんて、目的がない以外におかしいわ。聞いてもいーい?」

「…………吹聴しないので有れば」

「しないしない。チェストは?」

「……多分、マスターからお話されたかもですが」

「じゃ、あいつ以外言わない」

「わかり、ました。……実は、マスターが造られた……私を生み出してくれた魔導具のエーテル培養液が欠陥品だったんです」

「……エーテル培養液?」


 たしか、生産ギルドに約一年前に発注された記憶はあるが。

 それが欠陥品?

 仮にも名の知れた錬金術師であるクロームに?

 わざわざ欠陥品をなすりつけた?

 なんのために?


「その培養液のせいか、錬成食材が問題ないのですが。マスターが醜くなった原因の錬成料理だけじゃ不完全だったんです」

「ちょっと、大ごとじゃない! 私がギルドに掛け合おうか?」

「いえ。マスターは自分の目で確かめに行きたいと。そのために減量生活を強化してるんです」

「なーるほどねぇ?」


 その目的を遂行するために、無理矢理減量生活を強化したってわけか。

 私くらいの、ギルドでもそこそこ地位のある職員が原因を調べても、どこかで虚偽を言含められるかもしれない。

 なら、本人が出向くにもあの身体じゃまだまだクローム=アルケイディスだと誰も思わないだろう。


「なので。チェストさん以外誰にも告げないでください。マスターなりのケジメかもしれませんから」

「いいよいいよー。それだと、あとどれくらいで元に戻るの?」

「……おそらく、二ヶ月後には」

「ちょっと長いようで短いけど。わかったわ。こっちも調べられそうだったら調べておくけど。お互い無茶しないように」

「はい」


 とりあえず、頑張ってるクロームを毎回見るのもそろそろ飽きてきたし、元の姿に戻るまでの楽しみにしておこう。

 と、帰る前にセリカちゃんから、甘さを抑えた、クロームにも時々出しているらしいパフェを食べさせてもらったんだけど。

 下手な喫茶店の下っ端が作るより断然美味しかったわ!

 なので、もう一回ハグしてから私はギルドに戻るのだった。
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