上 下
7 / 94

4-2.しらたきのカルボナーラ

しおりを挟む





 ★・☆・★







 二度目の風呂に入ってから少しして、俺様は気になることが出来た!

 今まで……シャインが出来るまで、自炊というのはほとんどやってこなかったのだが。

 ホムンクルスとは言え、セリカが作る料理はどれも美味だ。

 だから、一度作るのを見てみたいと思って、彼女の横で見学させてもらうことにした。二ヶ月以上経って今更だとは思うが。

 手伝うには、まだまだこの身体では不便が多いので却下されたのだ!


「ん。まずはしらたきの臭みを抜く」

「そのままではダメなのか?」

「こんにゃくにはアク……と言うエグミがあるの。だから、湯がくことでそれを軽減させる」

「ほう」


 生成させたしらたきを適当な大きさに切って、短時間鍋で湯がいてザルに入れて水気を切った。

 次に、卵、牛乳……と白い粉を取り出した。


「この白い粉がチーズ。カルボナーラのコクと旨味をプラスしてくれる」

「ほう」


 それらをボウルに入れてよく混ぜて、次はベーコンを細く切って、玉ねぎを薄く切り、ニンニクもみじん切りに。


「フライパンに、植物油でもオリーブオイルと言う香りが強い油を引いて」


 まずは、ベーコンを炒めて油を出すそうだ。

 少しカリカリになってきたら、ニンニクを入れて香りを出し、次に玉ねぎを加えて炒める。


「玉ねぎに火が通ったら、水切りしたしらたきを加えて。塩をひとつまみ」


 全体に具材が馴染んできてから、火を止めて先ほど作った卵の液体を入れて。


「ここは素早く。全体に絡むように混ぜたら、弱火で炒めてとろみをつける」

「おお! 美味そうだ!」

「ん。塩胡椒とチーズで味を整えて。牛乳でとろみを調整して」


 皿に盛り付けて、粗挽き胡椒とチーズ、生卵を載せたら。


「……美しいな?」

「あと、豆腐のサラダに海藻のスープ。キウイも切ったから持っていく」

「おお! あの食材もか!」


 下手すると、俺様よりシャインの扱いに手慣れているのではと思うが。

 作ってもらうのに、文句は言えないし何よりこいつの手料理はどれも美味だ。

 生成時に、異世界召喚で得たレシピを組み込んであるにしたって、生まれてすぐに料理が出来るとは思わなかったが。

 まあ、何より美味い!

 今からそれを食べられるのだからな!


「……どうぞ」

「うむ。いただくぞ!」


 パスタとも違うらしいが、あのブニョブニョしたものがどう変化しているのか。

 セリカが言うには、米に混ぜてるこんにゃく米と種類は似ているらしいから、 もちもちした食感なのだろうか?

 あの半透明の麺状のものからは、やはり想像しにくいがとりあえず食べてみよう。フォークを手に取り、パスタのように巻いて口に運んだ。


「ん! かみごたえがあるが、ソースが濃厚で美味い!」

「……パスタは炭水化物だから、カロリーは高い。それをしらたきに置き換えた」

「今日はキノコもないし、なおさら美味いな!」


 少しもちもちしていて、噛むのに時間がかかるが、卵とチーズの濃厚なソースで美味しく食べれるし、何より美味い!

 とうふのサラダも、ドレッシング以外の部分は味気がないが、混ぜることで程よい味付けとなっていく。

 カイソウのスープも優しい味わいで、カイソウ自体もクニクニにしてるが柔らかくて美味い!

 今日はキノコがないのでさらに食欲が進むが何かあったのだろうか?


「キノコ……だけど。マスターの身体の毒素を抜く期間が定期的とは言え、週に一回だけだから、もしかしたら効きすぎかもしれない」

「効きすぎ?」

「ポーションの効能のように、マスターの身体には影響が強いのかもしれない。だから、様子見でキノコは少し減らして、こんにゃくの方を使ってみる」

「ふむ。あれはウォーキングよりもしんどいからな! お前の考察を信じよう」

「!……ありがとう」


 今……今。

 セリカが、ほんの少しだけ笑ったような気がした。


(美しい……美しいぞ!)


 昔街などで見た、美し過ぎるハイエルフが如く!

 いや、セリカは元々美しいのだが感情が伴うとさらに美しさに磨きがかかったのだ。

 これは、もったいないと思えた!


「セリカ、お前はもっと笑え」

「…………え?」

「このクローム=アルケイディスが生み出したホムンクルスとはいえ、元々はハイエルフをモデリングした生命体なのだ。美しくないわけではないが、俺様が今はこの姿ゆえに、信じられないだろうが。俺様も元の姿に戻るように努力はする。そして、俺様の助手として隣に立ってくれないか?」

「……マスター、の?」

「うむ」


 苦の方が強いと言えばそうだが、セリカは無理のないように俺様減量生活に手助けをしてくれる。

 あれだけ痩せなかったのに、この二ヶ月で少しずつ身体の重みは減っているのだ。

 一人だったら、あのまま肥えていたかもしれないのに、このホムンクルスのおかげで成功しているのだ。

 愛想が少なくても、笑顔が少ないのはもったいない。

 セリカには、これでも感謝しているのだ。

 何より、まだ完全ではないがキノコも食べられるようになっているしな!


「笑顔……なっているのかな?」

「感情のコントロールは難しいからな。少しずつでいい、俺様にもセリカの感情を見せてくれ」

「……じゃあ」


 セリカは俺様の食事中、すぐ横の席で紅茶を飲むのみ。

 食事を必要としないわけでもないが、シャインで試しに作る料理を朝いっぱい食べるために、夜まで腹がいっぱいだから控えているらしいが。

 そんなセリカが、席を立って俺様の近くまで立ち、何故か顔を寄せてきた。

 って、ちょっと待て!


「せ、セリカ。何を……」

「私の感情を示すだけ」

「は?」

「ん」


 と言って、俺様の黒髪にちゅっと音を立てて口付けたのだった。

 って、ちょっと待てや!


「な、ななな、何を!」

「なんだかんだ。マスターは拒否出来たのに、毎日私の作るご飯を食べてくれるから。感謝の意を込めて」

「そ……そうか」


 びっくりした……びっくりした!

 主従関係があるとは言え、いきなり主人の頭に口づけを送るとは!

 感情を表せとは言ったが、ちょっとやりすぎだ!

 が、ここで拒否してもセリカの感情を押さえつけるだけなので俺様は咳払いをした。


「わ、わかった。ありがとう」

「ん」


 とりあえず、セリカが席に戻ってからまた食事を再開したのだが、先ほどの口づけで照れてしまい、味がほとんど分からなくなってしまったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

やり直し令嬢の備忘録

西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。 これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい…… 王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。 また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...