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第一章

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 日曜日が来た。
 母の日が来た、ひょうちゃん、ちゃんと渡せるだろうか。

「母さん。」
「何?」

 リビングでのんびりとしている母さんに僕は先週買ってきたプレゼントを渡す。

「紫織?」
「母の日だから。」
「毎年ありがとう、今年は何かしら、開けてもいい?」

 母さんの言葉に僕は少し照れながら頷く。

「これって。」
「ハーバリウム。」

 母さんは瓶もって色々な角度で見つめる。

「紫織が作ったの?」
「ううん、今回は買った。」
「珍しいのね。」
「……。」

 くすくすと笑う母さんに僕はなんか見透かされているような気がしてそっぽを向く。

「さて、最近学校はどう?」
「普通。」
「やりたい事は出来ている?」
「出来ていると思う、だけど、僕は未熟だから。」
「誰だって最初はそんなものよ、それに、貴方はまだ学生なのだから、今のうちに迷いなさい、失敗しなさい、そして、悩みなさい。」
「……実の母親がいう言葉かな?」
「大人になったら、迷う事が怖くなるし、失敗なんて出来ないと思う、そして、悩むこと自体に不安を覚えるわ。」
「……。」
「私たちの道は選択をずっと迫られるの。」
「……。」
「こうして貴方と話す事も選択肢の一つだと思うの、貴方はお母さんが心配になるくらいしっかりしている。」
「そんな事は。」
「貴方くらいの年頃だとまだ将来が決まっていない人がいるし、それに怖気づいている人だっているのよ。」
「そうかな…。」
「そう、まっすぐに自分の道を決めたとしても迷うってしまう。
 本当にこれでいいのか、自分は間違っていないのか。
 間違ってもいい、だけど、法に触れる事、禁止されることをやるのだけは止めておきなさい、自分が間違っていないのだと思うのならそれを証明できるくらい強く、賢くなりなさい。
 紫織、一人で迷って一人で解決させられる強さを貴方は持っている。
 だけど、人に相談する事は苦手よね。」
「それは…。」
「悩むのは構わない、だけど、一人で何でもかんでも決められるとは思わない事。」
「……うん…。」
「何でお母さんが今日こうやって言っていると思う?」
「分かんない。」

 母さんは微笑み、そして、僕の頬に触れる。

「紫織はいつも一人で籠っているの。
 話したくても、いつも紫織は逃げているように部屋にこもっている。」
「……。」

 胸に手を当て、母さんの言葉に心当たりを探す。
 当てはまりすぎた。

「だけど、年に数回、貴方は母さんと向き合う機会をくれるの。」
「……。」

 意識はしたことがなかった。

「一つはお正月、だけど、すぐに貴方は部屋にこもってしまうわね。」
「……。」
「後は母さんや父さんの誕生日、あと、母の日くらいね。」
「……。」

 まさか、そんなにも家族と向き合う機会を削っていたなんて思ってもみなかった。
 だけど、ここ最近の行動を思い返せば、自分は仕事や勉強を繰り返していた。

「最近になって誰かと遊んでいるからホッとしているけど、言える時に言っておこうと前から思っていたのよ。」
「……ごめんなさい。」
「もう、別に怒ってないわよ。」

 ぺしりと母さんは僕の頭を叩く。

「でも、母さんも父さんも寂しいから、もう少し気を付けなさい。」
「はい。」
「…もう、反抗期が来ているか来ていないのか分からない子ね。」

 母さんは苦笑しながら僕の頭をポンポンと優しく撫でる。

「抱えきれないものがあるのならいつでも話しなさい、母さんは紫織よりも手段は多くないけど、それでも、色々出来る事があると思うの。」
「うん。」
「紫織には泣ける場所があるからね。」
「うん…。」

 でも、僕としては母さんの前で泣くのは恥ずかしくて出来そうもない。

「紫織は母さんと、父さんの大事な子どもだから。
 だから、ちゃんと帰ってきなさい。」
「……。」
「親よりも先に死ぬなんてそんな事は許さないからね。」
「はい。」

 今度は大切な人を置いていないように。

 見送れるように、長生きをしようと心に刻む。

 もう二度と大切な人が僕の所為で泣かないように……。
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