上 下
82 / 125
第一章

80

しおりを挟む
「……。」
「おはよう。」

 翌朝昨日と同じ時間に図書館に行けば、僕と同じような手提げを持ったひょうちゃんが腕を組んで立っていた。

「だいぶと待たせてしまったかな?」
「いや。」

 数少なげに答えるひょうちゃんはどこかぼんやりとしているようだった。

 僕はそれをじっと見つめ。

「もしかして、眠い。」
「ああ。」

 くあっと欠伸をするひょうちゃんはどこか無防備で可愛かった。

「どうしよう、家に帰る?」
「……。」

 僕の言葉にひょうちゃんはゆるゆると首を横に振る。

「家にいても面倒なだけだから、いい。」
「そう?」
「ああ。」
「だったら、中に入ろうか?」

 コクリと頷くひょうちゃんを見てから僕たちは図書館の中に入る。
 そして、たまたま昨日と同じ席が空いていたので、そこの席にカバンを置く。

「御神くんはどこまで宿題を終わらせた?」
「全然。」
「……大丈夫なの?」
「ああ。」

 僕は本当かなと疑いたくなったが、泣くのは表ちゃんなので、僕は何も言わない事にした。

「お前は?」
「後は国語と、社会だけだよ。」
「そうか。」
「それじゃ、始めようか。」

 僕たちは黙々と進めていく。
 そして、一時間ほど経ち、僕は手持ちの教科書では分からない部分が出てきたので、資料を探そうと立ち上がろうとしたら、ひょうちゃんに手首を掴まれる。

「……。」
「どこへ行く。」

 鋭い視線に僕は目を見開く。

「どこって、欲しい資料を探しに行くんだけど?」
「……。」

 ジッと僕を見つめ、真偽を疑っているようだった。

「君はこんなにも机の上に教科書やノートを広げる人間がどこかに消えると思うの?」
「……。」

 僕の言葉にひょうちゃんはハッとして、周りを見渡した。
 そして、苦虫を噛み潰した顔をしたひょうちゃんはおとなしく僕の手を放す。

「わりぃ。」
「……。」

 今日のひょうちゃんは情緒不安定だ。
 僕は宿題の残量と休みの日数を考え、何とかなると判断してまた座る。

「……。」
「お前?」
「今の時間だったら母親はいないから僕の家に来ない?」
「……。」

 目を見開くひょうちゃんを見て、今日はえらく表情に出ているなと思う。
 と言っても、他の人には分かりにくい程度なので何ともいえないけども。

「相談に乗るよ?」
「……。」
「どうする、来る?」

 僕が尋ねると、思案するような顔をする。
 君が何を考えているのか僕には分からない。
 どのくらい経ったのだろう。

 一分。

 数分。

 十分。

 そのくらい経ってから、ひょうちゃんは躊躇するように小さく、小さく頷いた。
 こうして、僕は本当に久しぶりにひょうちゃんを自宅に呼ぶことになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

弟枠でも一番近くにいられるならまあいいか……なんて思っていた時期もありました

大森deばふ
BL
ユランは、幼馴染みのエイダールが小さい頃から大好き。 保護者気分のエイダール(六歳年上)に彼の恋心は届くのか。 基本は思い込み空回り系コメディ。 他の男にかっ攫われそうになったり、事件に巻き込まれたりしつつ、のろのろと愛を育んで……濃密なあれやこれやは、行間を読むしか。← 魔法ありのゆるゆる異世界、設定も勿論ゆるゆる。 長くなったので短編から長編に表示変更、R18は行方をくらましたのでR15に。

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~

白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。 そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!? 前世は嫌われもの。今世は愛されもの。 自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!! **************** というようなものを書こうと思っています。 初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。 暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。 なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。 この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。 R15は保険です。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた。

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエルがなんだかんだあって、兄達や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑でハチャメチャな毎日に奮闘するノエル君の物語です。 若干過激な描写の際には※をつけさせて頂きます。

処理中です...