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第一章

32 『裏サイド』

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 闇覆う人気のない寂れた場所。

 ここは昔多くの人でにぎわっていた商店街の一角だった。

 男は震える携帯を取り出し耳に当てる。

 チャキリと刃物の音が鳴る。

 しかし、男は電話に気を取られているのかそれに気づく事はない。

「逃げ出しただと。」

 影が走る。

 一瞬の殺気に気づいたのか、男は寸前のところで刃を避ける。

「へぇ…、この一撃を避けるなんてね。」
「お前は。」

 男は目の前にいるフードの男を睨む。

「逃げ出した――。」
「死ね。」
「くっ!」

 フードの男の刃は男をかすめる。

「なぜだ、その力を持ってなぜ逃げだした。」
「可笑しな事を言うね、ボクたちはあんたたちの玩具じゃない。」
「ボクたちだと。」
「うん、当たり前だろう、ボクには――。」

 フードの男は口角を上げ、刀を振るう。

「相棒(こいつ)がいる。」

 男は寸前の所で刃から逃れるが、それはフードの人物の誘導でしかなった。

「死ね。」

 低い静かな声がそう呟くと、男に向かって炎が襲い掛かる。

「ぐああああああああああっ!」

 肉の焼ける臭い。

 フードの人物は思わず顔をしかめる。

「ねー、焔夏(えんか)。ボクは殺さないように言ったよね。」
「かろうじて殺してない。」
「……あの火傷じゃ、死んじゃうんじゃ?」
「……。」
「もう、本当に君は……、ボクの手は汚れても君の手は綺麗でいて欲しいんだけどな…。」
「そんなものはとうの昔に失っている。」
「そっか…そうだよね。」

 フードの男は首を振る。

「あーあ、しみったれちゃった。さて、どうするか。まあ、こいつを生かして、殺しても変わりないか。生きていた方がボクたちが脅威だと知らせられたけど、まあ、それも、いいか。」
「黄織(きおり)。」
「うん、行こう、派手に動きすぎた、時期に警察と消防とかが来るだろう。」

 フードの男は片割れに笑いかける。

「ひとまずは潜伏する。徐々にあいつらを解放して、そして、あの場所を壊す。」
「ああ。」
「生き残ってやる。」
「お前は殺させやしない。」
「ボクも君を殺させやしないよ。」
「流石、オレの嫁だな。」
「あーのーねー、ボクは男なの、だから、君の奥さんにはなれない。」
「大丈夫だ、そのうち法律も変わるだろう。」
「それって、元がいるから?」
「ああ、あいつだって、お前の元にぞっこんのはずだからな。」
「はいはい、それじゃ、そろそろ本格的にやばいから、行こう。」
「……。」

 二人の男は闇の中に消えていった。
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