僕がサポーターになった理由

第一章

２７

「……ふーん、あたしの相手は貴方？」

　値踏みをする蘭さんにハイエナのような男はクツクツと笑う。

「あら、何が可笑しいの？」
「いやいや、先ほどの試合は茶番だと思ってね。」
「……。」
「まあ、嫁に花を持たせるなんてあれもよくやると思ってね。」
「……。」
「おや、何か気に障りましたか？」

　男の言葉に徐々に表情を険しくさせる蘭さんは口元だけは笑っている。

「気に障る？ええ、障るに決まっているでしょ。」
「……。」
「大事な娘を馬鹿にされて怒らない母親がどこにいると思うの？」
「どこかにはいるんじゃないですか？」
「……。」
「まあ、貴女は違うようですけどね。」
「当たり前でしょ。あの子はあたしにとって宝物なのよ。」

　そう言って蘭さんは自分のお腹を触る。
　彼女は鈴蘭さんを生んでしばらくしてから病気によって子どもが産めない体になってしまった。
　それが彼女にとって深い傷になっていると、本人、小百合さん、そして、鈴蘭さんから聞いた事があった。

「それを貶す貴方なんてあたしが成敗してあげるわ。」
「さて、成敗されるのはどちらでしょうかね。」
「……。」
「そろそろ、いいか？」

　痺れを切らした審判に突っ込まれた二人はそれぞれの顔をする。

「ええ。」
「どうぞ。」

　二人は頷く。

「両者、構え。」

　蘭さんは鈴蘭さんと同じように構え、ハイエナによく似た人は嫌な笑みを浮かべながら木刀を構える。

「始めっ！」

　先ほどと違い、両者は一向に動かない。
　この戦いは一瞬で決する。
　そして、長い沈黙の先に動いたのは……蘭さんだった。

「はぁっ！」

　床を蹴り、一気に距離を詰めた彼女は鋭い拳を放つ。
　しかし、ハイエナのような男はそれを冷静に木刀で受け流し、左手でいつの間にかそこにあったナイフを彼女の首に押し当てていた。

「……。」
「……。」
「勝負ありっ！」

　蘭さんは悔しげに顔を歪め、男は勝ち誇ったかのように目を細めている。