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第一章

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「いてて……。」

 脇腹を押さえ、若干涙目になっている婚約者さんに鈴蘭さんはニッコリと微笑んでいる。

「大丈夫?」
「……何とか。」

 苦笑する婚約者さんに僕は意外だと思う。
 てっきり僕はこの婚約者さんは鈴蘭さんのこういう一面を知らないものだと思っていた、でも、彼の反応を見ればそんな事はなさそうだ。

「ははは、お前の嫁さんつえーな。」
「ええ、鈴蘭は本当にすごいですよ。」

 福井さんの言葉に婚約者さんは頷いた。その表情に嫉妬など負の感情はなかった。

「まあ、お前はあの腕っぷしに惚れたたまだからな。」
「ええ、やはり、彼女には勝てませんでした。」

 桜井さんと婚約者さんの話を聞いていた今井さんは苦笑しながら話に割り込む。

「おれたちだって辛うじて勝てる程度だからね。」
「ああ、そうだな。」

 今井さんの言葉に土井さんは静かに頷く。

「あのさ、次お母様の番なんだけど。」

 ちょっと不機嫌そうな鈴蘭さんに四井さんはサッと非難する。

「えっと、鈴蘭?」
「ねえ、もう少し耐えてよ。」
「ご、ごめん。」
「やっと会得したワザとか試しかったし。」
「うーん…。」

 僕はそっと彼らから離れる。

「頑丈そうな方で良かったわ。」
「んっ!」

 後ろから聞こえた小百合さんの声に僕は思わず体を強張らせる。

「い、いつの間に。」
「今よ。」
「ははは…。」

 僕もまだまだだな、と苦笑するしかない。

「それにしても、あのおてんばの鈴蘭さんにあのような方ができてよかったわ。」
「そうですね。」
「正直言えば、本性がばれて破局でもしたらどうしようかと本気で心配していたのだけど、良かったわ。」
「ははは。」

 小百合さんの言葉に僕は乾いた笑いしか出来ない。

「まあ、次の試合は見なくても大丈夫ですし、お茶でも持ってきますか。」
「えっ?」

 小百合さんの言葉に僕は目を丸くする。

「見ないんですか?」
「ええ、残念ながら蘭さんは負けるわ。」
「えっ…。」

 小百合さんは不吉な言葉だけを残しその場から立ち去ってしまった。

「何で?」

 僕は呆然としたが、すぐに二戦目が始まろうとしていた。
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