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第三章

《弟 7》

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『……主。』

 セイラが声のする方を見れば、そこには黄砂がいた。

「黄砂、久しぶりね。」
『ああ、久しいな。』

 月明かりの照らす室内に立つ少年の姿をした黄砂がいた。

『主は気づいていると思うが、主の弟は我が「土」の加護を持っておる。』
「ええ。」

 セイラはそっと自分の目を押さえる。

「最近、その人の背後に薄っすら色のついた光が見える時があるの。」
『……。』
「カルムは赤い光、レラは緑色の光、ミラは青色の光、他の人も見えるけれど、今のところ皆よりも強い光は見えた事がなかった、だけど、ソクドは違ったわ。」
『……。』
「はっきりと黄色い光が見えたの。」
『辛いか?』
「正直きつい、だけど、これって私が力を制御できないために起こっているのよね?」
『そうだ。』
「……。」

 セイラは薄々気づいていた、自分の力の大きさに、それを押さえつけるのは難しく、カルムたちのようにいかないのはきっとこの力の大きさに起因しているのだと考えている。

『仕方なかろう、主はまだ六つの子ども、焦る必要はないだろう。』
「でも。」
『何故我らが呼ばれてないのに、主の前に現れていると思う?』

 セイラはキョトンと首を傾げる。
 カルムたちは気づいていないが、週に一度こうして精霊王の誰かがセイラに語り掛けている。
 セイラは始めこそ疑問を抱いていたが、そう言うものだろうと勝手に解釈していたのだった。
 だけど、黄砂の言葉ではどうやら、意味があったのだと初めて気づく。

「……。」

 口元に手を当てて、そして、自分の考えを口にする。

「もしかして、私からあふれる余分な力を使って顕現しているの?」
『正解だ。』
「今まで私が暴走しなかったのは。」
『我らが調整しているからだ。』
「……。」

 答えをさらりと言われてセイラは黙り込む。
 やはりという気持ちと、嘘でしょ、と思う気持ちがせめぎ合っていた。
 最近本を読んで知ったのだが、精霊を呼び出す場合かなりの力を消費しなければならない。
 蝋燭の火ほどの精霊でも、力で言えば成人男性の体力の三分の一は必要だと書かれていた。
 それが、精霊王となるとどうなるのだろう。
 契約しているからそこまではないとしても、それでも、かなりの力が必要とされることは幼子でも理解ができた。

「ちょっと待って、私がいままでやっていた事は間違っていたの?」

 セイラは寝室に隠している魔力の塊を思い出し、顔を青くさせる。

『いや、それは違う、あれは魔力の器を大きくし、制御するのを学べるから、続けた方がよかろう。』
 黄砂の言葉にセイラはほっと息を吐く。
「…つまりは、私の器では入りきらないほどの魔力を有しているのですね。」

 セイラは諦めるようにため息を零す。

『半分は我らの所為であるけれどな。』
「……。」

 どういう意味かとセイラは目で黄砂に問う。

『主の力は、元は成人のそれだった、しかし、我らと会ったとこで触発され、活性化された。』
「……。」
『その為、主の器以上の力が日々生み出され、昇華される事無くあふれるようになってしまったのだ。
 幸いなことに主は無意識に器を大きくしようと努力し、それは実っているが、まだその大きさには満たしてはおらぬ。』
「……。」

 セイラは額に手を当て、自分自身に呆れる。

「もっと、平穏に行きたいのだけど。」
『……。』

 黄砂はすっとセイラから目を逸らす。

「……。」
『……。』
「黄砂。」
『十分に消費されたようだから、我は戻ろうとしよう。』

 まるで逃げるように姿を消す黄砂にセイラは天を仰ぎ、また、ため息を零した。
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