今世ではのんびりしたいのですが…無理ですか…

第二章

《首筋は執着》

「お帰りなさい。」

　カルムが手続きを終えて戻ると、双子は慣れない事をしたからか、舟をこいでいた。

「ああ。」

　ニッコリと微笑むセイラにつられたかのように、カルムも微笑む。

「いいの、あったの？」
「まあ。」

　微苦笑するカルムにセイラは首を傾げる。

「どうしたの？」
「何がだ？」
「……何かあまり嬉しそうじゃないから。」
「……。」

　セイラの言葉にカルムは軽く目を見張る。

「そんなつもりはないんだけどな。」

　カルムはペチペチと己の頬を叩く。

「……なんつーか、期待していたほどいいクエストがなくてちょっと気を落としていたのかもしれねぇ。」
「仕方ないわよ。」
「まあな、頭で分かっていてもやっぱ期待していた分ちょっとな。」
「……。」

　セイラは何か考えるそぶりをして、そして、一つ提案する。

「もし、そんなに稼ぎたかったら、私たちと行動しなくていいわよ。」
「……。」

　セイラの提案にカルムは嫌そうに顔を顰め、それを見たセイラは失敗してしまった事に気づく。

「お前、それ、本気で言っているのか？」
「……。」

　黙り込むセイラにカルムはきつく彼女を睨む。

「セイラ。」
「……。」

　名前を呼ばれ、セイラは完全に黙り込んで逃げる事が出来ないのだと悟り、渋々重い口を開く。

「半ば本気よ。」
「セイラ。」

　非難するようにセイラの名前を呼ぶカルムにセイラは小さく溜息を零す。

「だって、カルムだって一人の時間が欲しいでしょ。」
「いらねぇ。」
「……。」

　セイラはまるで駄々っ子を見ている母親のように穏やかな顔をしながらカルムを見つめ、そんな顔で見られたカルムはムッとしたような顔をする。

「必要になるよ。」
「ならねぇ。」
「……。」

　まるで、今はそう思っても、いつか、離れる日が来るよ、というような目をするセイラにカルムは苛立ち、そして、衝動的にその首筋に噛み付いた。

「か、カルムっ！」

　行き成りの事でいつもは動じないセイラは顔を引きつらせ、泣き出しそうな顔をする。

「絶対ぇ、離れないからな。」
「……。」

　セイラは顔を真っ赤にさせ、そして、その大きな瞳から涙を零す。

「えっ？」

　流石に泣かれるとは思ってもみなかったカルムはセイラの涙を見て、ギョッとする。

「せ、セイラ？」
「カルムの……カルムのバカあああああああああああああああっ！」

　バシーンっ！

　乾いた音が休憩所に響き渡り、続いて、バタバタと一人分と何かを引きずる音が続く。
　そして、一人残されたカルムは叩かれた頬を押さえ、ぼんやりと逃げ出したセイラと彼女に引きずられながら出ていった双子を見ていた。

「あらー、盛大にやらかしたわね。」
「……。」

　受付の彼女はいつの間にかカルムの後ろにいた。

「何だよ。」
「そういう顔、お父さんにそっくりね。」

　物凄く嫌そうな顔をするカルムに彼女は声をあげて笑う。

「そうそう、そのお父さんから可愛いお嬢さんにラブレターよ。」

　彼女は紙を振り、そして、カルムは軽々とそれを奪い取って、中身を確認する。

「もう、冗談なのに、容赦ないわね。」

　苦笑する彼女を無視して、カルムは手紙を読み、そして、顔を顰める。

「なんて書いてあったの？」
「連れて帰って来いって。」
「お父さんから？」
「いや。」
「ああ、お母さん？」
「ん…。」

　表情を曇らすカルムは外を見る。

「……家、入れてくれるかな？」
「……。」

　それはどっちの家の事かと彼女は思ったが、残念ながらそれを聞ける雰囲気ではなかった。