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第三章
第三章「焦りと出会い」7
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別れの時はあっという間に訪れた。
五時を告げる鐘の音が彼らの耳に入り込む。
「……。」
急に足を止めたアキラに涼也は訝しみながら振り返る。
「アキラ?」
「……時間だ。」
どこか辛そうに告げる彼に涼也は何か言いたかったが、このままアキラと別れてしまうのはどこか惜しかった。
涼也は近くにあった店にアキラの手を引いてはいる。
「リョウ?」
「あとこれだけ。」
涼也は店のドアを開けて少し後悔した。
涼也が適当に入った店は男二人で入るにはどこか気恥ずかしいようなファンシーな雰囲気をもつ店だった。
「……お前こんな趣味があったのか?」
「分かってるんならいうな。」
明らかにからかっているような声音に涼也は噛みつく。
「冗談だよ。」
クスリと笑うアキラに涼也は不機嫌そうな顔で店の中を見る。
パッと見は女性が好きそうな商品が多いように思ったが、それでも、意外にも中性的なデザインもかなりあり、涼也の目にあるものが目に留まる。
「何かいい物でもあったのか?」
涼也の視線に気づいたアキラが涼也の見ているものを横から覗き込む。
涼也が見ていたのはシンプルなデザインのブレスレットだった。
細いチェーンですぐに切れてしまいそうなのだが、元来の彼の性格で言えばそれくらいがちょうどよかった。
シルバーの十字架の中心に青色の石が埋まっており、女性だけじゃなく男性でもつけられるようなものだった。
「お前に似合いそうだな。」
「……そうか?」
「ああ。」
涼也はそれをじっと見つめる。
正直に言えば手が出せない程の値段ではないのだが、かと言ってほいほいと買えるような値段という訳でもないので涼也は本気で悩んでいた。
そして、ひやりと冷たい感じがして腕を見るといつの間にか彼の腕にはシルバーのブレスレットがつけられていた。
「アキラ?」
「うん、やはり似合う。」
破顔する彼は涼也の腕を引きレジに連れていく。
「これを。」
「かしこまりました、そちらはそのままお付けになられたままでよろしいでしょうか?」
「ああ。」
涼也を置いて勝手に進む会話にようやく彼が我に返ったのはアキラが会計を終わらせた後だった。
「お、おい、アキラ。」
「記念だよ、記念。」
何か言いたげな顔をする涼也だったが、これ以上彼と喧嘩して時間が短くなるのが嫌だったので周りを見渡し、ふっと目についたそれを手に会計に持っていく。
「リョウ?」
涼也は包装をしてもらわず、それを握ったまま拳をアキラに向ける。
「やる。」
「……。」
ジッと涼也の手を凝視するアキラに涼也は拳を揺らす。
「ほら、手を出せよ。」
おずおずと掌を出すアキラの手の上には涼也が選んだペンダントが握られていた。
「リョウ?」
「それ、ロケットになっているから好きな写真でも入れたらどうだ?」
ニヤリと笑う涼也は満足そうに笑う。
そして、何を思ったのかアキラは携帯を取り出し、笑っていた涼也をカメラで撮る。
「へ?」
行き成り写真を取られた涼也は唖然とする。
一方、一仕事終えたかのように清々しい笑みを浮かべたアキラは未だに唖然としている涼也の手を引き、店を出る。
「お、おい、何で俺の写真を撮るだよ。」
「記念だ。」
「何が記念だよ!」
「お前が好きな写真を入れればいいと言っただろうが。」
「言った、言ったけど、普通、そこは好きな女の写真だろう。」
「いない。」
「一人くらいいるだろう。」
「だから、いない。」
「嘘だろう…。」
頭を抱える涼也にアキラは写真を撮ってもいいだろうかと、考えるがそれでも、これ以上写真を取れば消去されそうな気がしたので我慢をする。
「リョウ、ありがとうな。」
「……。」
涼也はその言葉を求めていたし、彼なら嬉しそうな顔をしてくれるだろうとは思っていたが、素直に喜べなかった。
そして、無情にもアキラの携帯が鳴り、二人の時間は終わった。
「すまない。」
アキラは電話の相手を確認し、涼也から離れた。
その時、ちらりと見せた表情は先ほど楽しげな表情ではなく、硬く、どこか辛そうな表情のようにも見えた。
そして、すぐに戻って来たアキラは涼也の別れを惜しんでいるのか眉を下げ、そして、涼也の髪を掻き乱す。
「そんな、顔をするな。」
自分がいったいどんな顔をしているかなんて涼也には分からなかったが、それも、アキラの辛そうな声音から酷い顔をしているのだと悟る。
「してねぇ。」
「リョウ。」
「んだよ。」
「今日は楽しかった。」
涼也は視線を下に落とし、唇を噛む。
「お前がいたから、今日一日は充実したものになった。」
「……。」
「……もしも……、また会う機会があれば……。」
「……そん時は相手してやるよ。」
言葉を詰まらせるアキラに涼也は挑むように顔を上げて笑った。
「リョウ。」
「機会、絶対に作れよ。」
「そうだな。」
眩しそうに目を細めるアキラに涼也は彼の無防備な腹に拳を入れる。
「ぐ…。」
呻くアキラに涼也は口角を上げる。
「絶対だからな。」
「……。」
返事ができないのか、否、しない、アキラに涼也は人差し指を突き付ける。
「お前が会いに来ないなら、俺から会いに行く。」
「リョウ。」
「約束だからな。」
「――。」
アキラが何かを言ったのと同時にクラクションがなり、涼也はアキラの言葉を聞く事が出来ず、そして、アキラはもう一度口を開く事無く、漆黒の車に向かって歩きはじめる。
まるで、最初から関係などなかったかのように歩くアキラに涼也は彼からもらったブレスレットを握り締める。
夢ではない、現実だと分かる、それに涼也はアキラの姿が消えても握り締めていた。
五時を告げる鐘の音が彼らの耳に入り込む。
「……。」
急に足を止めたアキラに涼也は訝しみながら振り返る。
「アキラ?」
「……時間だ。」
どこか辛そうに告げる彼に涼也は何か言いたかったが、このままアキラと別れてしまうのはどこか惜しかった。
涼也は近くにあった店にアキラの手を引いてはいる。
「リョウ?」
「あとこれだけ。」
涼也は店のドアを開けて少し後悔した。
涼也が適当に入った店は男二人で入るにはどこか気恥ずかしいようなファンシーな雰囲気をもつ店だった。
「……お前こんな趣味があったのか?」
「分かってるんならいうな。」
明らかにからかっているような声音に涼也は噛みつく。
「冗談だよ。」
クスリと笑うアキラに涼也は不機嫌そうな顔で店の中を見る。
パッと見は女性が好きそうな商品が多いように思ったが、それでも、意外にも中性的なデザインもかなりあり、涼也の目にあるものが目に留まる。
「何かいい物でもあったのか?」
涼也の視線に気づいたアキラが涼也の見ているものを横から覗き込む。
涼也が見ていたのはシンプルなデザインのブレスレットだった。
細いチェーンですぐに切れてしまいそうなのだが、元来の彼の性格で言えばそれくらいがちょうどよかった。
シルバーの十字架の中心に青色の石が埋まっており、女性だけじゃなく男性でもつけられるようなものだった。
「お前に似合いそうだな。」
「……そうか?」
「ああ。」
涼也はそれをじっと見つめる。
正直に言えば手が出せない程の値段ではないのだが、かと言ってほいほいと買えるような値段という訳でもないので涼也は本気で悩んでいた。
そして、ひやりと冷たい感じがして腕を見るといつの間にか彼の腕にはシルバーのブレスレットがつけられていた。
「アキラ?」
「うん、やはり似合う。」
破顔する彼は涼也の腕を引きレジに連れていく。
「これを。」
「かしこまりました、そちらはそのままお付けになられたままでよろしいでしょうか?」
「ああ。」
涼也を置いて勝手に進む会話にようやく彼が我に返ったのはアキラが会計を終わらせた後だった。
「お、おい、アキラ。」
「記念だよ、記念。」
何か言いたげな顔をする涼也だったが、これ以上彼と喧嘩して時間が短くなるのが嫌だったので周りを見渡し、ふっと目についたそれを手に会計に持っていく。
「リョウ?」
涼也は包装をしてもらわず、それを握ったまま拳をアキラに向ける。
「やる。」
「……。」
ジッと涼也の手を凝視するアキラに涼也は拳を揺らす。
「ほら、手を出せよ。」
おずおずと掌を出すアキラの手の上には涼也が選んだペンダントが握られていた。
「リョウ?」
「それ、ロケットになっているから好きな写真でも入れたらどうだ?」
ニヤリと笑う涼也は満足そうに笑う。
そして、何を思ったのかアキラは携帯を取り出し、笑っていた涼也をカメラで撮る。
「へ?」
行き成り写真を取られた涼也は唖然とする。
一方、一仕事終えたかのように清々しい笑みを浮かべたアキラは未だに唖然としている涼也の手を引き、店を出る。
「お、おい、何で俺の写真を撮るだよ。」
「記念だ。」
「何が記念だよ!」
「お前が好きな写真を入れればいいと言っただろうが。」
「言った、言ったけど、普通、そこは好きな女の写真だろう。」
「いない。」
「一人くらいいるだろう。」
「だから、いない。」
「嘘だろう…。」
頭を抱える涼也にアキラは写真を撮ってもいいだろうかと、考えるがそれでも、これ以上写真を取れば消去されそうな気がしたので我慢をする。
「リョウ、ありがとうな。」
「……。」
涼也はその言葉を求めていたし、彼なら嬉しそうな顔をしてくれるだろうとは思っていたが、素直に喜べなかった。
そして、無情にもアキラの携帯が鳴り、二人の時間は終わった。
「すまない。」
アキラは電話の相手を確認し、涼也から離れた。
その時、ちらりと見せた表情は先ほど楽しげな表情ではなく、硬く、どこか辛そうな表情のようにも見えた。
そして、すぐに戻って来たアキラは涼也の別れを惜しんでいるのか眉を下げ、そして、涼也の髪を掻き乱す。
「そんな、顔をするな。」
自分がいったいどんな顔をしているかなんて涼也には分からなかったが、それも、アキラの辛そうな声音から酷い顔をしているのだと悟る。
「してねぇ。」
「リョウ。」
「んだよ。」
「今日は楽しかった。」
涼也は視線を下に落とし、唇を噛む。
「お前がいたから、今日一日は充実したものになった。」
「……。」
「……もしも……、また会う機会があれば……。」
「……そん時は相手してやるよ。」
言葉を詰まらせるアキラに涼也は挑むように顔を上げて笑った。
「リョウ。」
「機会、絶対に作れよ。」
「そうだな。」
眩しそうに目を細めるアキラに涼也は彼の無防備な腹に拳を入れる。
「ぐ…。」
呻くアキラに涼也は口角を上げる。
「絶対だからな。」
「……。」
返事ができないのか、否、しない、アキラに涼也は人差し指を突き付ける。
「お前が会いに来ないなら、俺から会いに行く。」
「リョウ。」
「約束だからな。」
「――。」
アキラが何かを言ったのと同時にクラクションがなり、涼也はアキラの言葉を聞く事が出来ず、そして、アキラはもう一度口を開く事無く、漆黒の車に向かって歩きはじめる。
まるで、最初から関係などなかったかのように歩くアキラに涼也は彼からもらったブレスレットを握り締める。
夢ではない、現実だと分かる、それに涼也はアキラの姿が消えても握り締めていた。
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