上 下
38 / 122
幽霊少女サイド

思い出した

しおりを挟む
 体育祭のイベントが終わり、生徒会役員がバ会長を除いて全員が集まっている。
 外は茜色に染まって、綺麗だと思っている時、不意に私の脳裏にあるシーンがよぎった。

「あっ。」
「……。」

 私の小さな呟きに北斗は軽く顔を上げる。
 人がいるから北斗は声を出さないけれども、その目は私を促していた。

「あー、今更なんだけど、体育祭のイベント内容を思い出して。」

 ああ、怪訝な顔をしている。

「えっとね、ヒロインの子が出場協議で、借り物で好きな人、というものが書かれてて、好感度が高い人三人の選択肢が出てくるの、それで、選んだ人の好感度がまた上がるんだよね。」

 興味ないのか北斗は少し私から目線を逸らした。

 あからさまだな…。

「で、体育祭のイベントでもう一つあって、それが、好感度の最下位のキャラの救済措置。
 お昼休みにヒロインの子が女子に呼び出しを食らって、そこに最下位好感度キャラが登場するの。」

 どうやら北斗はちゃんと私の話をちゃんと聞いているのか、少し小首を傾げている。

「うん、つまりはヒロインの好感度最下位キャラは北斗みたいだね。」

 まあ、まともに会った事がないから当然と言えば、当然なんだけど、少しほっとした。

 だって、ここは現実だと分かっているし、あのゲームは月子さんが作っているから強制力なんてものはないのは分かっているけど、それでも、何となく不安だった。

 北斗が急にあの女の子を気にしたりしたら、私はどうなるんだろうって。

 私の姿が見えるのは彼しかいない。

 北斗しかいないのに、その彼が自分を気にしなくなったら、私は本当に幽霊になってしまう。

 誰にも気づかれない。

 誰も気にしない。

 そんな寂しい存在になってしまう。

 コンコンとペンが机に当たる音がして、そちらを見れば、心配そうに顔を歪めた北斗がいた。

「何でもないから、大丈夫。」

 コンコンとまた北斗が叩く。

 北斗の気づかいが嬉しかった。

 だから、私は心から笑えた。

 そして、それを見た北斗は小さくため息を吐いて、生徒会の方の話に意識を向けた。

 本当に北斗は優しい。

 だから、私はその優しさに甘えてしまう。

 駄目だと分かっているのに、それでも、彼の優しさに浸ってしまう。

「それじゃ、今回事を起こした女生徒計十一名は三日の自宅謹慎に加え、一週間の奉仕活動という事でいいな。」

 北斗の言葉に全員が是とする。

「それじゃ、今日はお疲れ様、ゆっくり休んでくれ。」
「副会長は?」
「グランドの確認をしてから帰るから大丈夫だ。」

 北斗はそう言うと、グランドに向かって歩き出す。

「本当に面倒な事を起こしてくれるな。」
「そうだよね、現実にして咎めがあるって分からないのかな。」
「分からないんだろう、だから、実行する。」
「……。」

 私は何とも言えない気持ちで北斗の隣にいる。

「北斗、大丈夫?」
「ああ、少し疲れているけど、これをしないと流石にな。」
「明日は休みだからゆっくりしようね。」
「ああ、休みは明日だけだからな。」

 北斗は遠い目をする。

 今日の運動会が終わっても、まだ、文化祭が残っていた。

 こっちはクラスの出し物の他に生徒会からの出し物があるので、明後日からまた全力で挑まないといけなかった。

「来年は辞退できるか…。」
「無理だろうね。」

 肩を落とす北斗に私は申し訳なく思うけど現実を言う。

「だよな…。」

 北斗は肩を落とし、茜色の空を見ながら憂いに満ちた顔を上げるのだった。

「早く休もう。」
「それが一番だね。」

 北斗と私はグランドに向かい、そして、最終チェックを終えるとまっすぐに寮に戻っていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は攻略対象者を早く卒業させたい

砂山一座
恋愛
公爵令嬢イザベラは学園の風紀委員として君臨している。 風紀委員の隠された役割とは、生徒の共通の敵として立ちふさがること。 イザベラの敵は男爵令嬢、王子、宰相の息子、騎士に、魔術師。 一人で立ち向かうには荷が重いと国から貸し出された魔族とともに、悪役令嬢を務めあげる。 強欲悪役令嬢ストーリー(笑) 二万字くらいで六話完結。完結まで毎日更新です。

続・恋の魔法にかかったら~女神と従士の幸せ蜜月~

花乃 なたね
恋愛
王国の中でも優れた力を持つ大魔術師であり、「氷晶の女神」という二つ名を持つセシーリャは、務めを手伝う従士であり夫でもあるディオンと共に公私ともに充実した日々を送っていた。 これまでの功績が認められ、国王から貴族たちが多く集う保養地「カーネリアス公国」への新婚旅行をプレゼントされた彼女は、ディオンと一緒に意気揚々とその地へ向かう。 日常を忘れてラブラブ全開に過ごす二人だったが、とある出来事をきっかけに夫婦仲を引き裂こうとする人物が現れて… 見た目はクール系美女だけど旦那さまにはデレデレな女魔術師と、彼女のことが大好きすぎて頭のネジが外れかけのスパダリ紳士の新婚旅行のお話 ※1 出会いから結婚までのお話は前作「恋の魔法にかかったら~不器用女神と一途な従士~」にて語られております。(作者の登録コンテンツから読むことができます) 前作を読んでいないと何のこっちゃ分からん、とはならないように気を付けましたが、よろしければ前作もお読み頂ければと思います。 ※2 〇.5話となっているものはセシーリャ以外の人物の視点で進むエピソードです。 ※3 直接的な性描写はありませんが、情事を匂わせる表現が時々出てきますためご注意ください。

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】どうやら、乙女ゲームのヒロインに転生したようなので。逆ざまぁが多いい、昨今。慎ましく生きて行こうと思います。

❄️冬は つとめて
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生した私。昨今、悪役令嬢人気で、逆ざまぁが多いいので。慎ましく、生きて行こうと思います。 作者から(あれ、何でこうなった? )

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

処理中です...