ヒレイスト物語

文字の大きさ
上 下
25 / 171
第一章 出会い

聴取

しおりを挟む
馬を走らせる。


 あたる風が嘗め回すように僕の体にまとわりつく、そんな感覚がした。


「よし、ちょっとここで休憩しましょう。」


 そこは見覚えのあるところだった。


「なるほどな。プロウバの森を抜けていくのか。」


「ええ、少し遠回りになりますが、ここを通ってレーグル王国に向かいます。
 事前の遠征でも異常はなかったようですし、それに中立地域です。
 よっぽどのことがない限り襲われないそう思いたいです。」


「そうだといいがな。」


「ちょっと。クラフト。あなたがいうと縁起が悪いわ。」


「そりゃ、申し訳ない。」


 クラフトは自分の掌でおでこを小突いて、変な顔をしている。
 何だかその姿が可笑しくて笑ってしまう。ただ、笑っているのは、僕だけだった。

 口に手をあて笑いを抑え込む。クラフトはなんだか落ち込んでいた。
「レイスは笑ってくれたのに。」と悲しそうにしている。


「んんっ。それに他の道は通れなくなっているようで・・・」


「どちらにせよこの森を抜けなくちゃいけないってことね。」


「そういうことです。とりあえずここで昼食しましょう。
 ただ、念のため火は起こしませんので、携帯食を食べてください。」


 何か棒状のものをシェーンとペルに渡していた。


「これか。前に一度興味本位でもらって食べたことあったけど、
 美味しくないのよね。」


「シェーン様。文句は言わず食べてください。体が持ちませんよ。」


「分かってるわよ。」といってしぶしぶ口にしていた。
 僕もディグニに渡されて食べて見るが、シェーンの反応の通り美味しくない。


「うぇぇ。」


「ビス。ちゃんと食べるのよ。」


 さっきまでしぶしぶ食べていた人に言われる。
 頑張って最後まで食べる。水があっという間になくなった。




「そういえば、この前街でクラフトを見かけたよ。
 一緒にいた人達は誰だったの?すごく仲良さそうだったね。」


 クラフトは頭を掻いていた。


「そうか。妻のモルカと娘のレイスだよ。久々に家族で買い物していたんだ。
 休みをもらってからは家族で色んな所に出かけたよ。
 しばらく会えなくなるからな。」


「レーグル王国に行くから?」


「まあ、そうなんだが、俺はもうレーグル王国に住むことになってな。」


「えっ。でも家族は?」


「今この状況だ。モーヴェ王国に残ってもらったよ。」


「さみしくない?」


「はははっ。心配するな。落ち着いたら家族もレーグル王国に来る予定だ。
 そのために早く片付けられるよう頑張るつもりだ。」


 シェーンが割り込んでくる。ものすごく申し訳なさそうに。


「兄様たちのせいで・・・ごめんなさい。」


「い、いや、シェーン様が謝るようなことじゃないですし、
 それにツァール王子もフィロ王子も悪くはありません。
 それに元々決めていたことです。
 レーグル王国も完全に安全かどうかわかりませんでしたから、
 もう少し経ってからにしようと家族で決めました。
 まあ、どちらにいても危険なら慣れ親しんだ土地の方がいいでしょう。」


 クラフトが話している最中ディグニが
「クラフトさん、それ以上は・・・」と止めようとしていたが、
 クラフトはそれに気づいていない。



「そう、クラフトありがとう。どうやら文句を言う相手が増えたみたい。
 それにそういうことだったのね。ねぇペル。」


 シェーンの表情はさっきとは一変して乾いたものになっていた。
 本能的に怖いと思ってしまう。ディグニは「はあ」と溜息をついていた。


「は、はあ、恐れいります。」


 クラフトは気付いていないらしい。
 こういう時にディグニたちの言うクラフトの勘は働かないらしい。
 まあ、かくいう僕もよくわかっていないのだが。
 それでも、シェーンの恐ろしさが少しわかったような気がする。
 敵に回したくない、そう思った。



 そのあと、シェーンはクラフトの家族を褒めまくっていた。
 先ほどの出来事をなかったことにするように。
 クラフトはシェーンの言葉に気をよくしていた。
 ディグニは諦め、ペルは何も気にする様子はなかった。



「さあ、そろそろ向かいますか。日が暮れる前に森を抜けます。
 それと気を引き締めてください。何があるかわからないですから。」





 僕たちは森の中へと足を進めた。



 木々が生い茂るいい場所だった。本で見たいろんな植物が生えている。
 シェーンは目を輝かせてウズウズしていたが、ペルに諭される。


「シェーン様、ダメですよ。」


「そんなこと、わかってるわよ。」


 ただ、言葉と行動が一致していない。手が植物に伸びていた。
 パシンと、ペルに手を叩かれる。


「少しぐらい、いいじゃない。」


 シェーンがブツブツ呟いてしかめっ面をしていた。



 どんどん道を進んでいく。
 最初は拓けて進み易かったが道幅が狭くなっていく。
 セフォンたちの足取りもゆっくりになっていく。


「大丈夫?セフォン。」


 ヒーンと小さくセフォンが鳴く。どうやらまだ大丈夫そうだ。
 周りを気にして小さく鳴いたのだろう。


「あら、ビス、馬に名前を付けているの?」


「うん。セフォンっていうんだ。」


「私もつけようかしら。うーん。”アルブス”あなたの名前はアルブスよ。」


 シェーンはすぐ名前をつけた。後ろを振り返ってみると、
 アルブスは嬉しそうな顔をしていた。


「気に入ったみたいだよ。」



「馬の感情が分かるの?すごいわね。アルブス今更だけど、よろしくね。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

処理中です...