ヒレイスト物語

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第一章 出会い

決断

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 医務室に着く。独特のにおいが広がっている。


 アルコールや薬品のにおい。若い頃は非常にお世話になった。
 最近はここに来ることもなかったからな。
 懐かしんでいるとペルフェットがやってくる。ルトさんの姿がない。


「ルトさんは用事があるようで、こちらには来ませんよ。」


 王様のところでも向かったのだろう。それよりも気になることがある。


「その、どこまで聞いた?」


「上着を脱いでください。安心してください。
 やらかして怪我をしたとしか聞いてないですよ。
 私のご主人様は勘が鋭いですし、それにあの方に私は嘘をつけません。
 それを考慮した上でそこまでしか話さなかったのでしょう。」


 ペルフェットはそういいながら、俺の背中を見る。
 ”やらかして”の部分が気になるが。


 何やら後ろでクスクス笑い声が聞こえる。おそらくあれだろう。


「いくつか骨が折れているところがありますね。
 こんなに普通にしていられるのが不思議です。」


「いや、まあ、痛みには慣れちゃったからな。それより、大丈夫なのか。」


 俺は昔のシェーン様とペルフェットの出来事を知っている。


「今更じゃないですか。それにちゃんと加減しますよ。
 シェーン様との約束ですから。
 ですので、危険な箇所と応急処置だけしておきますね。
 あとは人間の医者か、自然治癒でお願いします。」


 何回かペルフェットに治してもらったことがある。
 今回はそれら以上にひどい状態だった。一応聞いてみたが杞憂だったらしい。


「わかった。でもあの医者苦手なんだよな。自然治癒一択だな。」


 また、ペルフェットがクスクス笑っている。


 治療が終わったみたいで楽になる。


「ありがとう。助かったよ。」


 ペルフェットは「いえ。」と控えめに言う。


「そういえば、ビスはどうだ?やらかしてないか。」


「そんなことはないですよ。
 少々シェーン様に怒られていましたが、ディグニ様ほどではありません。」


 徐々にあの人に似てきていると感じるのは気のせいだろうか。




「ああ、それと一つ謝らないといけないことがあります。」


 珍しいなと思いながら、耳を傾ける。


「今シェーン様と一緒魔法を教えています。」


 驚きよりも納得が勝る。ただ、一つ確認しなければいけない。
 俺はペルフェットをじっと見る。


「ビスはなんて言ってる?」


「僕は魔法を使いたい、そう申していました。」


「そうか。なら俺から何か言うことはないよ。
 無理強いしている別だったけどな。ビスは楽しそうか。」


「ええ、とても。シェーン様とも仲良くしています。
 なんだか姉弟みたいで微笑ましいですよ。
 シェーン様も久々に楽しいのかはしゃいでいます。」


 ペルフェットは、顔も声色もあまり変わっていないが、
 なんだか嬉しそうだった。


「そうか、それはよかった。」


「それでは、私はこれで。二人が待っていますから。」



 俺はしばらく横になっていた。足音が聞こえて目が覚めてしまったらしい。
 体を起こすとそこには王様とルトさんがいた。そして告げられる。




「二週間後、レーグル王国に向かってくれ」と。






 ――――――――――――――――――――


 王様が考え出した答え。それは時間を置くことだった。
 ただ、時間を置くだけではない。周辺を少数で警戒しつつ、
 集められるだけ情報を手に入れ出発すること。それが最善の策だと。


「俺ならすぐにでも出発できます。」


 どうしようもなかったことだとしても、今回の件負い目を感じている。
 それにフィロ様が危険な目に遭う可能性もあった。


「負い目を感じているのもわかります。
 それに、あなたは今、万全な状態ではないでしょう。
 相手の力量もわかっていません。逆に危険です。」


「それでも、俺は・・・」


「黙りなさい!王が決めたことです。」


 ルトさんの怒声を久しぶりに聞いた。頭が冷める。
 今、モーヴェ王国は綱渡りしている状態だ。一歩間違えれば底に落ちてしまう。
 それに、王様の気持ちも考えず発言してしまった。俺は王様に深々と頭を下げた。


「申し訳ありません。」


 王様はゆっくりと静かに問いかけてくる。


「よい。お前の気持ちもわかる。

 だがフィロの一件で国民に慌ただしい様子を見せてしまった。

 お前がすぐに動いてしまうと余計に国民を不安にさせてしまう可能性がある。

 それに捕虜にかけられた魔法、ペルフェット曰く相当高度の魔法らしい。

 少なくても一人相当腕の立つ敵がいると思っていい。

 お前の怪我が完治するのも二週間程度かかると言っておった。

 お前の気持ちを考えると二週間が最低ラインだ。

 まあ、お前の気持ちだけで送るわけではないが。

 最大の譲歩だということをわかってくれ。

 私の命令に従ってくれるか。」


 ずるい。こんな自身にも言い聞かせているような言い方。承諾するしかない。


「はい。」


 下を向いてしまう。王様に肩をポンと叩かれる。


 足音と扉を開閉する音だけがその場に残った。
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