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娼館アマルティ
娼館アマルティ2/3
しおりを挟む本番当日。
今日は騎士団の御一行貸切の日。
乱行パーティの日である。
玄関前に身綺麗に整えた蝶達と、ムキムキの上腕二頭筋がタキシードから覗くバーテンダー。真ん中にフローラ。フィオは蝶達の後ろに小さくなっていた。
「そろそろいらっしゃるよ。気を引き締めておやりよ!特にフィオ!」
「ふぇあい!」
綺麗に着飾った蝶達の後ろで、あまり着慣れないシャツに半ズボンのちょっと良いところのおぼっちゃま風な格好。せっかく皆んなと同じように着飾っても中身は変わらないので、俯き加減で小さくなっていた。
フローラからの突然の呼びかけにびっくりして飛び上がる。急いでフローラに見える位置に移動する。
「ちゃんと仕立て覚えたね?誰が教えたんだったか……」
「はいはいはーい!フローラ姉さん私!私教えた!」
「えー?私も教えたわよ?」
この後何人も教えたと名乗り出てきたので話を聞くことをやめた。
仕事っぷりを評価されると特別手当や休暇や待遇が良くなったりするので時よりフローラへアピール合戦が始まる。教えたと言った面子のうち数名がとても不安な顔ぶれであったのは否めないが、他にもまともな子が教えているのでとりあえず考えるのをやめてしまった。
パンパンと手を大きく叩く。
開店とお客様到着である。
大きな両扉が1人でに開くと服の上からでもわかるほど体を鍛えていることがわかる体つき。
少し野暮ったい感じは残っているが、美しい蝶達に敬意と好感を持ってもらえるように自身でできる限り身なりを整えてきている。
中には場に慣れていない様な騎士もおり、そんなウブな騎士に目をつける蝶の目もギラついていた。
「ようこそいらっしゃいました。本日は貸切となっております。そして今回は嗜好を変えて特別メニューを用意しておりますので、お気に召していただけますと大変嬉しいわ」
フローラの迎えの挨拶もそこそこに、後ろの扉が閉じると同時にバーの席へ思い思いに騎士達が座っていく。
次々と運ばれるお酒と簡単なおつまみ。
お酒などの配膳は魔法で行う。
基本的にはテーブルにある程度セットしておいて、その場で作っている。
均等に偏らない様に蝶達が騎士の座っている席の間に座っていく。
「あらガイン様、今日はレオ様はいらっしゃらないの?」
「あぁ、すまない事前にお伝えすべきところ、今日は報告書が多くて来れるかわからなくなってしまって
「そうでしたの……。今回はちょっと嗜好を変えたメニューにしたので、後でいらっしゃったらびっくりしてしまうかしら……」
「嗜好を変えたメニュー?まぁ、いつも世話になっているから……楽しみにしている」
「えぇ、お酒が行き渡ったあたりにご説明いたしますわね」
皆にお酒が渡されて、今回の遠征の労いの言葉が副団長からあり、1番の功労者の名前が呼ばれた。
「本日は団長より、お店に迷惑がかからない程度に羽を伸ばして良いとことづかっている。今回の遠征1人の脱落者も無く、盗賊団殲滅、地方の復興に貢献できたこととても嬉しく思う。そして今回の功労者。井戸に投げ入れられていた毒をいち早く発見した、アーダルソン!団長より特別手当と2日の特別休暇付与だ!」
功労者として名前を呼ばれた若い茶髪でそばかすの騎士は指を自分に向けて、俺?!と驚いていた。それと同時に他の仲間に頭をぐしゃぐしゃに撫でられながら、はにかんでいる様子が見えた。
「他の者も良くやった!本来であれば全員に特別休暇と手当をつけたいところではあるが、俺も頑張ったから1人しかやらん!と団長からだ!明日は皆休んで良し!明後日より通常業務ではあるが、本日は思う存分楽しんでくれ!乾杯!」
「「「乾杯!!!」」」
ガチャン!と方々で酒が入った木のコップを合わせる音がする。
今回の遠征の話をする者、お酒とおつまみにしか興味のない者、蝶達に目を奪われてこの後のことしか頭にない者それぞれ思い思いにその場を皆楽しんでいた。
ガインは端に寄って出来るだけ他の騎士達が気にしない様に気を使って静かに飲んでいた。
場の雰囲気を楽しんでいると視界の端にちょこちょこと動き回る男の子を見つけた。
その子を視線で追っていると、この店の責任者のフローラが挨拶にきた。
「ガイン様楽しめておられますか?」
「ああ、フローラ嬢十分楽しいよ」
形式的な挨拶もそこそこにガインが気になったことをフローラに問いてみた。
「フローラ嬢、あそこの男の子?は前からいたのか」
「ああ、フィオで御座いますか?何年も変えからおりますよ。今回の嗜好を変えたイベントを行うのに手を借りているのです」
明らかにまだ成人していないであろう容姿に風貌、蝶といわれたらそれもそれでこの娼館のターゲットの客層が変わったと受け入れるしかない。
この世界ではスラムがある。
自身の生活のために身を売る小さな子も中にはいる。
こういった娼館で商売ができる方がまだ幸せである。
個人で身を売ると買い叩かれてしまい、扱いも酷いものである。病気や暴力危険なことも少なくない。
街を守る騎士として自分の手が届かない事へ無力感と罪悪感が襲いやるせなくなる事がある。
――せめて見世物様なことがされないことを祈るしかない……。
「因みにそれはどういったことだろうか?」
フローラは含みのある笑みを浮かべて、耳打ちをした。
話を聞くごとにガインは顔を赤くする。あまり性欲が強いほうではなく、至ってノーマルなガイン。今夜の催し物の内容を聞いて驚きと少し安堵した。
――複数人と一緒になんて無理だ……。良かった。
チョコチョコ動き回っているフィオ。
お酒の減り具合をカウンターに伝えたり、念話が届かない時の言伝を頼まれたり、配膳や片付けの手伝いをしたりと大忙しだった。
ある程度お酒が回ってきた頃にフローラが騎士達の前に出る。
「今夜は嗜好を変えて、こちらの奥で蝶の花園へのご招待ですわ。そのままお酒をお飲みになる騎士様はこちらにて本日限定のお酒を特別に振舞わせていただきます」
仕切りの奥、さらにカーテンとベールで部屋の中がはっきり見えないが、かなり際どい服を着て手招きしている蝶達を捕まえようとひとりまたひとりと席を立って部屋の奥に消えていった。
今日の功労者へはすでに専属が一人ついていて変え替えしく世話をしていた。
所帯持ちや特に女性に興味がない、お酒の方が気になる者はカウンターに移動した。
ガインもカウンターに移動しようと腰を上げようとしたら先ほどの男の子が寄ってきた。
「ガイン様でしょうか?」
「え、あ、そうだが……」
「僕がお相手をさせていただきます!初めてですが、よろしくお願いしましゅ!」
大きく頭を下げている少年を見て困惑。
先ほど聞いた説明には全くない。終えれはノーマルで所帯持ちではないが、皆の前で事をするつもりはないその為にカウンターに行きお酒をいただこうと思ったわけだ。もし個別で蝶とことができるならそれに越したことはないが、今回は難しそうなので諦めていた。
「いや、すまないが君の初めてを貰う訳にはいかない……私からフローラ嬢にお酒が飲みたいって言っていたからと伝えよう」
そう言って俯く少年に申し訳ないと断りを入れてフローラ嬢お探した。
花園の方の世話をしていたフローラ嬢を捕まえて彼を叱らない様に説明した。
客を取れなかったことで彼がこの店からどの様な仕打ちを受けるかわからないからだ。
常連とはいえ、何年も変えからいたこの子の存在を知らず、もしかしたら何か酷い目に会うかも知れないからだ。信頼をしているが人というのは知らない面ももちろんある訳で、可能な限り彼に非が無い事を説明した。
するとフローラは大笑い。説明が不足していたと改めて謝罪した。
「ガイン様ご安心ください。この子にお客様のお相手をさせたことはなく、今回はこの催しの為に蝶達が出払ってしまい、ガイン様の仕立て、身支度のご用意のお手伝いをフィオにお願いしたのです。うちの蝶達がやり方を教えましたのでご満足いただけるかと思いますが、なにせ始めてお客様対応なので、お優しいガイン様かレオ様であれば少々の失敗も目をつぶっていただけるのでは……と思いましたの。やはりフィオに身体を流されるのはお嫌ですか?」
フローラの横でションボリしているフィオを見ていると良心の呵責に苛まれるおもいだ。
フローラ了承して二階の個室へ移動した。
「フィオ君と言ったね」
急に呼ばれたフィオはビクついたが、お客様に失礼のないようにと口すっぱく言われているので、自分が使える最大限の言葉で受け答えをした。
「は、はい。……あの、フィオとお呼びください。おねーちゃん……じゃ、なくて、蝶がこちらに来るまで僕がお相手を勤めさせていただきます」
……蝶達のことをおねーちゃんと呼んでいるのか。俺が心配しているより大事にされているのかも知れないな。
「ああ、よろしく頼んだ」
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