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5.名前をつけよう
名前をつけよう2/3
しおりを挟む「あ、ぁあ!あぁ!、ひぁあ!あぁー!」
宙に浮かんでいたおもちゃがオル婆が出ていったと同時に棚に戻っていった。
少ししてお腹が空いたのか、赤髪の赤ちゃんが泣き出した。それに合わせて寝ていた青髪の赤ちゃんも泣き出してしまい、授乳の時間かなと1人ずつ抱き上げた。
「はいはいはい~。ちょっと待ってね」
服をたくし上げて左胸を露わにする。
授乳クッションなんてものはなく、体勢が辛いが贅沢は言ってられない。
部屋から布団を後で持ってこようと思った。
んく、んくと上手に飲んでいるのがわかる。
時々頭を撫でてあげて、傍にいる授乳の順番待ちをして泣いている青髪の赤ちゃんに声をかける。
「赤ちゃん、待っててね。………………赤ちゃんって、どうなんだろうか」
――そう言えば名前が無いけど、名前をつけるって何かこっちで意味のあることなのかな?勝手に名前つけたら、だめかな。
オル婆が戻ってきたら聞いてみようと思う。
このまま赤ちゃんでは可哀想だ。
相変わらずおっぱいの出は良いのか、5分くらいで口を離した。恐る恐るだが、縦抱きに直してゲップをさせる。首がぎりぎり座ってないくらいじゃないだろうか。
自分も赤ちゃんの扱いに慣れていないのでおっかなびっくりだ。
自身の子が産まれる前に母子手帳やネット情報を読み込んでおいて良かったと思うが、実際やってみると勝手が掴めないものでとてもぎこちない。
「あぁ、お待たせ、待ったね。ごめんねっ。ありがとね」
順番を待っていた赤ちゃんは喉が擦り切れるのでは無いかってほど泣いていて、顔が真っ赤になっていた。
大焦り。
先に泣き止ませないとと、横抱きして縦に揺れる。
――背中はCの字になるように……。手首が腱鞘炎になる人が多いから、片方の手で片方の手首を持って……。………………こんなに背中丸めて良いの?!良いのか?!赤ちゃんはお腹の中で丸まってるから小さいうちなら良いのか?!
「よし、よし。良い子良い子。待ってくれてありがとね」
何とかああああ゛!!!という叫び声の様な泣き声から、あぁ!あぁ!と落ち着いてきた。
先ほどとは逆のおっぱいを口に近づけると吸ってくれた。
ほっとして頭を撫でてあげると、先ほど授乳を終えた青髪の赤ちゃんが泣き出した。
「え?!どうした?授乳終わったよ?!待っててね。今この子の授乳が終わったら抱っこするからね!」
手を伸ばして頭を撫でてあげて、声をかけて、歌を歌ってみても尚も泣き続ける。
――さっきオムツ変えたばっかりだし、授乳終わったばっかりだし、寒い?暑い?!眠い?!この子授乳してるから終わるまで待っててほしいけど、待ってられるかな?結構強く泣き始めてるし、え、ど、どうしよう!
どんどん焦り出した。
オル婆は外に行っていつ帰ってくるか言っていなかったから戻るかわからないから頼れない。
自分で何とかするしか無かった。
「あぁぁ!あぁ!ぅあ!ぁ!」
「待っててね。いい子だね。どうしたのかなー?」
親が焦っていたり、不安な様子を見せると赤ちゃんは敏感に察知するって書いてあったのを思い出して何とか平常心を装う。
青髪の赤ちゃんは5分くらいで授乳を終えたが、赤髪の赤ちゃんはまだ終わらない。
おっぱいの出が悪いわけでは無い様だが、無理矢理話して良いものなのか口を離すまで待っていた方が良いのかわからなかった。
――確か、母乳は求められただけあげて良かったはず……。だけど、ずっと泣き続けてるし、どうしよう。
横で泣いている赤ちゃんが、強く泣きすぎてミルクを吐き戻してしまった。
こぽっと口の端から出たおっぱいが、喉に溜まってゴボッと言っている。
「あ!!!あ!やばっ!」
仰向けにしていたから、放っておくと窒息してしまう。自分の子が、亡くなる前におっぱいを吐き戻した光景がフラッシュバッグする。ゲップをしたから大丈夫だと思っていたが、戻ってきてしまったみたいだ。
半分パニックであった。
授乳を中断して、ゲップもさせないままベッドに戻した。
青髪の赤ちゃんを急いで横向きにして、吐き戻したミルクが外に出る様にする。
小さくゲホゲホと咳をして、気管に入ったミルクを小さい体で一生懸命出そうとしている姿に胸が締め付けられた。横向きにして背中を優しくトントンしていると、ケフっと追加でゲップが出た。
吐き戻した量としては拳大くらいのシミになって、飲んだおっぱい全部では無さそう。
――あ、あ。良かった。ゲップを出したくて泣いてたのかな……。うまくできなくてごめんね……。
落ち着いてきたのをみて、背中に巻いたタオルを敷いてしばらく横向きのままにしておく。
おっぱいをいきなり中断されてしまって、赤髪の赤ちゃんも泣き出していた。
「ごめんね!お待たせ」
気を取り直して授乳を再開したが、焦りと泣き声になんだが全然上手くやれない自分に悔しさが押し寄せてきた。
――…………上手くできなかった。
また青髪の赤ちゃんが泣き出してしまっている。
「……ぁ、待ってね。待っててね」
涙が出そうだ。
授乳もしないと、でも泣き出してしまった。
またおっぱいが戻ってきてしまうかも知れない。
汚れた敷布も変えないといけない。
そもそもゲップも済んだので、なんで泣いているのかわからない。
――………………ごめんね……。
上手くできない自分を責めてしまう。
こんな時どうしたら良いのか。
現世でもそうだったが、誰も頼れる人がいない。
聞いて良いのか、迷惑じゃないか、これくらい皆んなやっているのになんで自分はできないのか。
頭の中がネガティブなことばかりになってしまった。
授乳が終わらないまま、泣き続けてる赤ちゃんを泣きながら声をかけているとオル婆が戻ってきた。
「あらあらなんだい。なんだい」
「お、オル婆……。ごめんなさい、吐き戻しちゃって、なんで、泣いてるのか……」
「あらあら、いつ戻ってくるか言わなかったから不安だったろう。悪かったね」
「オル婆は謝ることない、私が上手くできなくて」
オル婆が戻ってきた途端涙が更に抑えられなくなって、まともに話せない。
それでもオル婆は私にとても優しくしてくれた。
「初めての子育てだ。上手くなんてできる訳ないだろ。それに上手くってなんだい?赤子は泣くのが仕事だよ。今この子は何かこっちに訴えきてくれてるんだ。それに答えようとしてる姿は立派じゃ無いかい?」
「……でも、応えてられてない…………。なんで、泣いてるのか……」
「そうさねー。私もわからないね。色々一緒にやってみようかね?」
私の頭をシワシワの手で撫でてくれて、泣いている赤ちゃんを抱き上げてくれた。
すると途端に泣き止んだ。
「おやおや、抱っこして欲しかったみたいだね。この子は甘えん坊らしいね」
オル婆が笑うと私も心を撫で下ろした。
授乳がやっと終わってゲップをさせるのに縦抱きをする。ゲップが出ても、まだ後追いがあることがわかったから、もう片方の子にすぐ対応ができない時は横向きに寝かせてあげることにした。
「なんだい。1つ学んだね。育てる側も子どもと一緒に成長するもんだ。大丈夫だ。私もいるからね。ちゃんと頼りな。子育てに正解はないけど、愛情を注ぐことはできるだろ?大切なのはそれだけじゃないかい?」
「ありがどう……」
「あはは、不細工だねぇ」
鼻水まで出てきた私の顔にオル婆がタオルを押し付けて、乱暴に拭った。
「えへへ」
とても暖かい気持ちになった。
高校の時に事故で両親は他界。祖父や祖母はもう高齢で自分の面倒を見ることなんてできなかったから叔父叔母の所に高校卒業までお世話になった。
とてもまともな人だったので、何不自由なく過ごせていたが結局は他人。
高校を卒業後してすぐ就職して、親の死亡保険の残りをもらって一人暮らしを始めた。お世話になった分少し叔父叔母にお金を渡した。手切れ金みたいで何だか後味が悪かったけど、今思えば自分で勝手に線引きをしていたのかも知れない。
あの時優しくしてくれた叔父叔母や、父母から受けた愛情と似た感覚だった。
「お昼作るから、この子ら見てくれるかい?」
「はい!」
キッチンに立つ後ろ姿を見ながら、今日は何かなと献立を想像してご飯が出来上がるのを待った。
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