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呆然と遠くの火山を見続けていたところで、神様の奇跡など起こらなかった。空には噴煙が充満し、激しい雷まで呼んでいる。あの辺り一帯、全てを焼き尽くす炎の海のままだった。
そんな時、システムがデリバリーの注文を捕えた。最近、めっきり減っていたからありがたい注文だが、今はデリバリーをしている場合ではない。
店はホカイさんが臨時休業していた。だから注文が来るわけはない。ホカイさんが、お断りしようと店の予約アプリを開いた。
「おかしいな……店は閉めてしたはず……ん、これは! ク、クゥレィア! これを見てください!」
「ホカイさん? こんな時に、仕事なんて。……断ってよ」
バグだかなんだか知らないけれど、休業中の店への依頼の相手は、ホカイさんが慌てるほどの相手のようだ。今は、デリバリーの注文なんて受けて欲しくないし、私は絶対に運びたくなかった。
「いえ、これは行きましょう」
「え?」
断ることのできないどこかの王族か貴族なのだろうか。確かに、その人たちにとっては、世界を救ったペケさんであっても、所詮は他人事。もしかしたら、ホカイさんが作ったスイーツを頬張りながら、この惨事に高みの見物を決め込んでいるのかもしれないと思うと、無性に怒りやむなしさ、そして例えようのない悲しみが胸に渦巻く。
「どうして? 今はそんな時じゃ」
「こんな時だからこそ、です。恐らくこのデリバリーの発信者は、今も磁場が狂って一切電波が届かない、届いても無茶苦茶な場所にいます。万分の一、いえ、億分の一ほどの一瞬のタイミングと偶然の重なりがあったのでしょう。きっと、彼もオーダーしても俺たちに届かないと思っていたんだと思います」
ホカイさんが、いつになく興奮している。さっきまでの暗い光ではなく、とても明るい喜びに満ちた瞳で、火山を指さして叫んだ。
「クレィア、喜んでください、これはジスペケ様からのオーダーです。電波の嵐の中、システム言語の欠片を拾い集めて、彼のオーダーを届けてくれたんだと思います。あいにく、ここには俺のスイーツがありません。ですが……俺は、クゥレアァと俺という彼にとって特別なオーダーを届けたいと思います」
「ホカイさん……」
彼の言葉に、反対するなんてありえない。高温と煙、命すら奪うそこに行くのだから、足が、手が震える。でも、この震えは恐怖や不安よりも、そう、武者震いと言ったほうがいいかもしれない。
「ドローンもどきちゃん、私たちをあそこまで、これがオーダーされた地点まで連れて行って」
「マスターノ イノチノ キケンガアリ、ジッコウデキマセン」
ロボットやドローンは、人々の命を最優先するようにプログラムされている。機械じゃなくても、無謀すぎるさっきのお願いに、二つ返事でOKする人はいないだろう。でも、私はなんとしてもあそこに行かなければならない。
「王妃様、ごめんなさいっ!」
バシンッ!
私は謝罪の声とともに、ドローンがふっとぶ。それもそのはず、手のひらでドローンをぶっ叩いたのだから。ほとんど反射的な行動だった。
「クレェア?! 一体、何を?」
「これが、異世界流、機械に言うことを聞かせる方法なの。ちょっと強すぎたかもだけど」
せっかくいただいた物凄く高級なドローンに、ショーワのテレビを修理する方法を試みた。精密すぎる電子機器に衝撃を与えたら壊れてしまう。だから、思いっきり叩くとかありえない。でも、その時の私は考えるよりも前に、孤児院の先生が画像が悪くなったテレビを叩いていたのをマネしたのだった。
幸か不幸か、私の強烈な一撃で、プログラム的には絶対不可侵のデータがぶっ壊れた。さっきとは違い、即時にドローンが変形を始める。
「ガー、ピピッ。ドウゾ、オノリクダサイ。モクテキチ、オーダーハッシン バショ。イキマス、3,2,1」
「わー待って待って!」
変形したのは、映画とかで見たことのあるアメリカ大統領の専用機のようなものだった。ぶっ叩いたせいで、私たちの乗り込みが完了していないのに発射しようとした。慌てて乗り込むと、ゲートが閉じる前に発進する。
「エアフォース・ワン、ツー、ダフルだったかな」
「流石、王室ご用達のドローン……凄いですね。これなら、隕石が降ってきても大丈夫なほどの設計技術と、物質の融合ですよ」
「どっちかというと、ロケットかも? とにかく、いいものを貰ったわ。これがなかったら、きっとペケさんを助けにいけなかったのだもの」
「ええ、三人で帰ったら、王妃様に改めてお礼にいきましょう」
「うん!」
金属の中にいるのに、360度、どこもかしこも外が丸見えだ。レーザーサーベルを持ったロボットにのったアニメキャラになったみたい。
「ホカイさん、あれ、あそこっ!」
「ジスペケさま!」
視界なんてほとんどない。でも、ドローンは目的地をたがえなかった。しかも、偶然にも風の流れが変わり、火口付近で倒れている彼の姿があった。ドラゴンの姿になれないほどダメージを負っているのか、ぴくりとも動いていない。
彼も、同じようなドローンを持っている。おそらくは、それがかろうじて彼を守ったのだろう。ただ、私のものよりも旧式だから、それほど耐久力はない。あと数時間遅れていれば、空腹は何とかしのげても、水がなく空気だってほぼないここで命をつなぐことなど不可能だっただろう。
ドローンの中から出るのは危険だ。ただ、このコたちは人命救助もプログラムの優先事項に組み込まれている。二台が連携して、私たちが乗っている後ろにペケさんを収容させた小型のシェルターを連結させた。
「マスター、ツギノ モクテキチヲ シジシテクダサイ」
「世界最高峰の医者とシステムが完備された病院よ!」
「なら、王宮ですね。安全を確保しつつ、最速で行ってください」
「ガー、ピピッ。モクテキチ、トキオオウコク、オウキュウナイ ビョウイン。イキマス、3,2,1」
後ろのシェルターで意識を失っているペケさんが気になる。ドローンは、彼の心臓がかろうじて動いていることをモニターに映してくれているけれど、なんかドラマの別れの時のように線の波がゆっくりだ。
「うう、デリバリーとか接客とかよりも、医者の勉強をしていればよかった!」
「俺もです。スイーツよりも、人々を治す術があれば……」
ホカイさんと手を握り合いながら、ペケさんの無事を神様に祈る。
なんだか、神様が笑って、
「あなたに異世界の美味しい料理を奢ってもらったから、5500円分の特別大サービスをしてあげる。元気になったドラゴン君とツバメ君と、絶対に幸せにならないと許さないからね」
と言っているような気がした。でも、気のせいじゃないのかもしれない。偶然ですますには、それが重なりすぎた。神様の奇跡を実体験したのかもしれないなと感じたのはずいぶん後の事だった。
その後、ペケさんが最新の医療を受けることができた。王様がたが号泣しながら、彼を抱きしめたせいで、再び意識を失ったのはご愛敬。
そして、私は全身やけどと骨折だらけのペケさんの手と、ホカイさんの手を取ったのである。
次回 Rで完結です。複数なので、抵抗のある方はご注意ください。
そんな時、システムがデリバリーの注文を捕えた。最近、めっきり減っていたからありがたい注文だが、今はデリバリーをしている場合ではない。
店はホカイさんが臨時休業していた。だから注文が来るわけはない。ホカイさんが、お断りしようと店の予約アプリを開いた。
「おかしいな……店は閉めてしたはず……ん、これは! ク、クゥレィア! これを見てください!」
「ホカイさん? こんな時に、仕事なんて。……断ってよ」
バグだかなんだか知らないけれど、休業中の店への依頼の相手は、ホカイさんが慌てるほどの相手のようだ。今は、デリバリーの注文なんて受けて欲しくないし、私は絶対に運びたくなかった。
「いえ、これは行きましょう」
「え?」
断ることのできないどこかの王族か貴族なのだろうか。確かに、その人たちにとっては、世界を救ったペケさんであっても、所詮は他人事。もしかしたら、ホカイさんが作ったスイーツを頬張りながら、この惨事に高みの見物を決め込んでいるのかもしれないと思うと、無性に怒りやむなしさ、そして例えようのない悲しみが胸に渦巻く。
「どうして? 今はそんな時じゃ」
「こんな時だからこそ、です。恐らくこのデリバリーの発信者は、今も磁場が狂って一切電波が届かない、届いても無茶苦茶な場所にいます。万分の一、いえ、億分の一ほどの一瞬のタイミングと偶然の重なりがあったのでしょう。きっと、彼もオーダーしても俺たちに届かないと思っていたんだと思います」
ホカイさんが、いつになく興奮している。さっきまでの暗い光ではなく、とても明るい喜びに満ちた瞳で、火山を指さして叫んだ。
「クレィア、喜んでください、これはジスペケ様からのオーダーです。電波の嵐の中、システム言語の欠片を拾い集めて、彼のオーダーを届けてくれたんだと思います。あいにく、ここには俺のスイーツがありません。ですが……俺は、クゥレアァと俺という彼にとって特別なオーダーを届けたいと思います」
「ホカイさん……」
彼の言葉に、反対するなんてありえない。高温と煙、命すら奪うそこに行くのだから、足が、手が震える。でも、この震えは恐怖や不安よりも、そう、武者震いと言ったほうがいいかもしれない。
「ドローンもどきちゃん、私たちをあそこまで、これがオーダーされた地点まで連れて行って」
「マスターノ イノチノ キケンガアリ、ジッコウデキマセン」
ロボットやドローンは、人々の命を最優先するようにプログラムされている。機械じゃなくても、無謀すぎるさっきのお願いに、二つ返事でOKする人はいないだろう。でも、私はなんとしてもあそこに行かなければならない。
「王妃様、ごめんなさいっ!」
バシンッ!
私は謝罪の声とともに、ドローンがふっとぶ。それもそのはず、手のひらでドローンをぶっ叩いたのだから。ほとんど反射的な行動だった。
「クレェア?! 一体、何を?」
「これが、異世界流、機械に言うことを聞かせる方法なの。ちょっと強すぎたかもだけど」
せっかくいただいた物凄く高級なドローンに、ショーワのテレビを修理する方法を試みた。精密すぎる電子機器に衝撃を与えたら壊れてしまう。だから、思いっきり叩くとかありえない。でも、その時の私は考えるよりも前に、孤児院の先生が画像が悪くなったテレビを叩いていたのをマネしたのだった。
幸か不幸か、私の強烈な一撃で、プログラム的には絶対不可侵のデータがぶっ壊れた。さっきとは違い、即時にドローンが変形を始める。
「ガー、ピピッ。ドウゾ、オノリクダサイ。モクテキチ、オーダーハッシン バショ。イキマス、3,2,1」
「わー待って待って!」
変形したのは、映画とかで見たことのあるアメリカ大統領の専用機のようなものだった。ぶっ叩いたせいで、私たちの乗り込みが完了していないのに発射しようとした。慌てて乗り込むと、ゲートが閉じる前に発進する。
「エアフォース・ワン、ツー、ダフルだったかな」
「流石、王室ご用達のドローン……凄いですね。これなら、隕石が降ってきても大丈夫なほどの設計技術と、物質の融合ですよ」
「どっちかというと、ロケットかも? とにかく、いいものを貰ったわ。これがなかったら、きっとペケさんを助けにいけなかったのだもの」
「ええ、三人で帰ったら、王妃様に改めてお礼にいきましょう」
「うん!」
金属の中にいるのに、360度、どこもかしこも外が丸見えだ。レーザーサーベルを持ったロボットにのったアニメキャラになったみたい。
「ホカイさん、あれ、あそこっ!」
「ジスペケさま!」
視界なんてほとんどない。でも、ドローンは目的地をたがえなかった。しかも、偶然にも風の流れが変わり、火口付近で倒れている彼の姿があった。ドラゴンの姿になれないほどダメージを負っているのか、ぴくりとも動いていない。
彼も、同じようなドローンを持っている。おそらくは、それがかろうじて彼を守ったのだろう。ただ、私のものよりも旧式だから、それほど耐久力はない。あと数時間遅れていれば、空腹は何とかしのげても、水がなく空気だってほぼないここで命をつなぐことなど不可能だっただろう。
ドローンの中から出るのは危険だ。ただ、このコたちは人命救助もプログラムの優先事項に組み込まれている。二台が連携して、私たちが乗っている後ろにペケさんを収容させた小型のシェルターを連結させた。
「マスター、ツギノ モクテキチヲ シジシテクダサイ」
「世界最高峰の医者とシステムが完備された病院よ!」
「なら、王宮ですね。安全を確保しつつ、最速で行ってください」
「ガー、ピピッ。モクテキチ、トキオオウコク、オウキュウナイ ビョウイン。イキマス、3,2,1」
後ろのシェルターで意識を失っているペケさんが気になる。ドローンは、彼の心臓がかろうじて動いていることをモニターに映してくれているけれど、なんかドラマの別れの時のように線の波がゆっくりだ。
「うう、デリバリーとか接客とかよりも、医者の勉強をしていればよかった!」
「俺もです。スイーツよりも、人々を治す術があれば……」
ホカイさんと手を握り合いながら、ペケさんの無事を神様に祈る。
なんだか、神様が笑って、
「あなたに異世界の美味しい料理を奢ってもらったから、5500円分の特別大サービスをしてあげる。元気になったドラゴン君とツバメ君と、絶対に幸せにならないと許さないからね」
と言っているような気がした。でも、気のせいじゃないのかもしれない。偶然ですますには、それが重なりすぎた。神様の奇跡を実体験したのかもしれないなと感じたのはずいぶん後の事だった。
その後、ペケさんが最新の医療を受けることができた。王様がたが号泣しながら、彼を抱きしめたせいで、再び意識を失ったのはご愛敬。
そして、私は全身やけどと骨折だらけのペケさんの手と、ホカイさんの手を取ったのである。
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