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二度目のやらかしをしたかもしれない

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 たかが折り紙、されど折り紙。前回のドラゴンの折り紙は、世界中から注目を浴びた。あっという間に、店に注文が殺到してしまい、それを処理するために、スイーツはもちろんのこと、折り紙はとんでもないオプション代がかかることになった。だから、今回の注文は、とんでもない報酬が見込まれる。このデリバリーは完璧にせねばと心に誓った。

 今回は、裏門じゃなく正面から入るように指示された。正面というと、この国だけでなく、他国の王族や歴史のある超超スーパー大金持ちが出入りするようなところだ。

「ご注文をお届けに来たのですが……」

 裏門の騎士は、あんな感じだった。今度こそは穏便にお届けしたい。
 ここは正門。なにかの間違いという可能性がある。いや、どっちかというと、なにかの間違いの可能性のほうが限りなく100%に近い確率だろう。

 口の端がひきつる。だけど、スマイルスマイル。そう自分に言い聞かせるように笑顔を心がけた。だが、正門の騎士は、ちらりと一瞥して会釈されただけで、それ以外の反応がない。

 やはり間違いだろうと、裏門に行こうとしたところ、大きな声で名前を呼ばれた。

「キタ! ああ、久しぶりだ。この者たちに失礼なことをされなかったか?」
「あ、騎士団長さ、ま……?」

 正直会いたくなかった。会いたくなかったケド、今の私には、彼がたとえ暴君であっても、救世主のように思えるくらい心細かったのも事実。
 ちょっとだけ嬉しくて、彼を呼んだのだが、騎士団長様って言った途端、彼の雰囲気が一瞬で明るい空のような色から、ドドメ色のようなダークになった。

(はえええ? ちょ、さっきのやりとりで、またなんかやらかしちゃった?)

 焦った。心の中どころか、体中から汗がたらーっと流れる。
 知らない礼儀作法はいっぱいだから、ペケさんぼうくんの地雷を踏み抜いたのかもと、足が震えた。

(どうしよう。今度こそ処刑? やだぁ、ホカイさーん、たーすーけーてー)

 やっぱり、彼についてきてもらえば良かったと後悔する。

「……キタ、会いたかっ……」
「はいいいい、もももも、もうしわけ、ござりませんでござったでおさる」

(しまったー! 何か言いかけてたのに、遮ったー! やらかしたあああ。モウダメだ。マジで、ここに来るとろくなことにならないよおおお)

 焦りすぎてしまったせいで、やっちゃいけない王族の言葉を遮るという大罪を犯してしまった。しかも、またもやペケさん相手に。これはもう、今度こそ断頭台行きかと震える。

「何を謝っているんだ? とにかく、落ち着け」

(あれ? なんか、ペケさんって怒ってない? さっき、絶対に機嫌が急降下したよね?)

 彼の優しさが垣間見える言葉のおかげで、ますますわけがわからなくなった。前回といい、今回といい、ペケさんって部下には厳しい内弁慶タイプだけど、外部にはちょろいくらい寛大で優しいのかもしれないと、若干失礼なことを考えてしまった。

「あの、前もお伝えしましたけど、私、王宮でのマナーとかしらなくて。先ほど、お怒りのようでしたので、なにか失礼なことをしたのかと……」
「怒った? は? まさか、この騎士がキタに怒ったのか? キタは、何もしていないに決まってるし、悪くないに決まってる。もしあるとすれば、この騎士が何かをやったに決まってる」

(いえ、怒ったのはあなたですよねー?)

 思わず、ツッコミを入れたくなるほど、正門の騎士様に対してありもしない冤罪を決め付けた。決まってるって何度も繰り返すという徹底ぶりに、恐ろしさと呆れを感じた。

(やっぱり、ペケさんは恐ろしい暴君だ。暴君って、王様限定のことだっけ? よくわからないけど、王様の弟だから暴君で決定よ)

 とにかく、正門で私に応対してくれた人を、何の罪もないのにペケさんに好き勝手にさせてはいけない。恐ろしいけれど、否定はしなくてはと心から叫んだ。

「か、か、彼は何もしてません!」
「本当に? かばってるんじゃないのか?」
「ほ、本当です!」

 この間の裏門の騎士と違って、みっともなく言い訳や嘘を重ねなかった。正門を守る騎士は度胸が座っているのだろう。ペケさんに、今にも心臓をぐっさーってされそうなのに、うやうやしく目礼しつづけている。

「そんなことよりも、ずいぶん久しぶりに会うから忘れてしまったのか?」
「まだ数日ですから、忘れられるはずもありません、よ?」

 彼が眉をハの字にして、私に聞いてきたことに応える。すると、ぱあっとLEDのハイビームくらいの光量のように笑顔になった。

「確かに、(相思相愛の引き離された運命のツガイなんだから)忘れられるはずもないな」
「はい、(王族で、強烈に恐ろしいあなたを)忘れるはずがありません」
「なら、ペケと呼んでくれ。そうはずだ。それと、ずっと、会いたかったんだ」
「あ(そういえば、ニックネームに呼べっていたんだった)。そうでしたね、ペケさん。今日もペケさんが迎えに来てくださったんですか?」
「当たり前だろう? さあ、行こう」

 前回トラブったばかり。次に彼の部下が騒動をおこせば、管理責任を問われるのかも。だから、今回は少しも目を離さないと来たのかと納得する。

(ただ、どうして横抱きに……?)

 彼は、もうナチュラルに私を横抱きにした。もしかして、移動するのにも細かなしきたりがあって、私が何かをやらかす前に、運ぶつもりなのか。

(ここで断って、本当にまたやらかすよりは、彼が安心できるのなら、このまま運んでもらいましょう)

 かなりの距離だったはずなのに、迫力大柄とはいえ彼もイケメンだ。あらゆる意味でドキドキしていると、あっという間に王様たちがいる部屋にたどり着いた。
 ドアがオートで開くと、かわいい王太子殿下が走ってきた。その手には、この間プレゼントしたドラゴンの折り紙がある。

「まっておったぞー。ほら、あれからだいじにあそんでおるからシワひとつないであろう? それにしても、まったく。予はさみしかったんだぞー。まいにちくればよいものを」
「殿下、お久しぶりでございます。ますます凛々しく賢くおなりで。まあ、折り紙の扱いはとても難しいものですのに、きれいに遊んでいただいてありがとうございます」

 私の答えに、胸を張って鼻高々な王子様。将来、この国の王様になる彼はまだまだ子供だ。無邪気に笑う彼のことはかわいいので、自然と笑みがこぼれる。

「キタ、よく来てくれたな。こっちに来て座るが良い」
「王子も、戻っていらっしゃい。このコったら、キタのことが本当に好きみたいで。許してちょうだいね?」
「はい、陛下」

 私は、小さな紳士の小さな4本の指の手に手を取られてひっぱられた。ドラゴンの一族はとても力が強い。王子様の握力は、100キロはあるというが、私を傷つけないように気を使ってもらっているのがわかるほど、その手は優しい。

「この度も、HOKKAI堂にご注文いただきありがとうございました」
「今回は、ジスペケが注文したのだ。普通に招くと、キタが遠慮するだろうからと」
「ふふ、HOKKAI堂のスイーツも絶品だから、楽しみなのよ」

 まさかなーと思っていたが、今回も一緒に注文の品をいただくことになった。そして、オマケであるイモ饅頭と折り紙を差し出す。

「それは、なんであるか?」
「今回は、陛下には王冠をお持ちしました。王妃様には色とりどりのバラの花束。殿下にはカエルを。こうして、おしりを押すと、ぴょんっと跳ねるんですよ」
「おおー。ちちうえ、ははうえ。予のおりがみがぴょんぴょんしておるぞー」
「なんと、折り紙とは、システムを使わずとも飛ぶのだな。かなり無理をしたのではないか?」
「キタ、折り紙を作ったせいでそんなに痩せてしまって。システム医療だけでは心もとないわね。主治医に診てもらいましょう」
「私は、こうして皆様が笑顔でいてくださるだけで十分でございますから」

 その日も、精も根も尽き果てるほど、彼らとの時間に神経を削った。帰る時、皆さん、特にペケさんが私を引き留めようとしたけれど、振り切って帰ってきた。もうこれで、王宮に行くこともないだろうと思っていたのだが、翌日にも注文が入ってしまったのである。
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